創造性の心理学17|ランコの2階層モデル

創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」の学習しています。

今回は、そのRunco教授ら自身が提唱した2階層モデルを学びたいと思います。

2階層モデル

1995年、Runco教授らは、それまでの創造的思考に関する研究を参考にして、下記のような、5つのコンポーネントから構成される二階層モデルを提唱しました(Runco & Chand, 1995)。

第一階層は、問題発見プロセス、アイデア発想プロセス、評価プロセスから構成されています。これらは、一旦、手続きが明確になると、記述や分析が容易になります。そして、手続きコンポーネント同士の相互作用がとても重要になりますが、必要なコンポーネントを網羅した理論は今のところ存在しません。そのため、創造性は、複合体や症候群としての定義が、最も妥当と考えられます(Mumford & Gustafson, 1988; Runco, 1994)。

第二階層は、知識と動機の相互作用を著しています。これらは、制御可能要因よりも創造性への影響が大きく、第一階層の影響を受けるため、第二階層に配置されています。例えば、内発的動機は、評価(appraisals)に依存していると考えられています(Lazarus, 1991; Runco, 1993, 1994)。研究者は、創造性には、第一階層の行動よりも、動機(Amabile, 1990; Hennessay, 1994; Schuldberg, 1994)や知識基盤(Simon, 1988)の方が重要だと捉えているようです。そのため、動機と知識が創造的思考にとって必須であると考えられます。


知識コンポーネント

知識コンポーネントは、宣言的知識(事実)と手続的知識(ノウハウ)に分けられています。本来、これらは戦略的思考の構成要素なので、創造的思考とは戦略的であることを示しています。その戦略がうまく機能すると創造的思考を促進させ、機能しないと創造的思考を抑制させます。また、その戦略が何度も繰り返された時も、創造的思考は抑制されます。これは、戦略は繰り返されることでルーティーンになり、結果の独自性を導く思考の柔軟性が低下していくためです。

手続的知識(ノウハウ)と戦略は、明示的指示を通して、どのように独自性や柔軟性に影響するのかが研究されてきました。明示的指示とは、戦略を描き、成功を定義し(あるいは、少なくとも成功の条件を定義し)、ノウハウを提供するものです。Harrignton(1975)の実験では、「誰も思い付かないようなアイデアを出し」(ノウハウ)て「創造的であれ」(成功)と指示した学生グループの方が、そのような指示がない学生グループよりも、発散的思考テストで「創造的」と判断されました。Runco(1986)の実験などでは、明示的指示は(創造性の)才能ある子供よりも「(創造性の)才能はないが優秀な子供の独創性に大きな影響を及ぼす」こと、明示的指示によって「思考の柔軟性が操作できる(機能的固定性)」ことが確認されています。また、ChandとRunco(1992)の実験では、明示的指示が「問題を創造する」タスクには影響せず「与えられた問題を解決する」タスクや「発見された問題を解決する」タスクに有意な影響が見られたことから、明示的指示は「問題解決の戦略の選択に影響する」と結論づけられました。

宣言的知識は、要求された情報の供給によって、創造的思考を促進し、特にアイデア生成に簡単に影響します。ただし、供給される情報の創造性への寄与の大きさは、個人の熟達性専門性が関わっています。熟達性が増すと、専門分野において何が重要で何が重要でないかという見極めができるようになります。創造的思考に重要な情報を取捨選択できるようになるため、情報と創造的思考(特に問題解決思考)の相関が大きくなります。一方、専門性は、供給する情報の順序に影響を及ぼすため、アイデア生成に影響します。例えば、「丸いもの」を想像するとき、天文学者であれば「天体」をまず思い浮かべるかも知れないし、化学者であれば「分子」をまず思い浮かべるかもしれません。ほとんどの化学者は「天体が丸いこと」は知っているでしょうから、この場合は専門性が環境キュー知識の引き出し)に影響したと考えることができます。(参考記事


問題発見コンポーネント

問題発見コンポーネントは、問題発見の他にも問題構築問題定式化問題表現問題特定問題定義などのスキルを含んだ総称です(参考記事)。ただし、これらは問題解決とは明確に区別されます。芸術家のように、創造性が問題解決ではなく自己表現の場合もあるため、このような区別が必要になります。

チクセントミハイは、創造性を「発見された問題解決プロセス」とし、調査(Csikszentmihalyi & Getzels, 1971)によって 「発見志向行動が芸術作品の創造性の予測因子である」こと、また追跡調査(Csikszentmihalyi, 1990)によって「実験室環境で問題発見能力に優れていた人は、18歳以降も一般環境で独創的で生産的であった」ことを明らかにしました。Wakefield(1985)は、小学5年生を対象にした実験で問題発見スコアと潜在創造力スコアの高い相関を見つけ、これを「問題発見はアイデア生成と協働する」と考えました。Okudaら(1991)は、この事実が現実世界の問題でも成立することを確かめました。

同時に、Okudaら(1991)では「与えられた問題と発見した問題の間に有意差が存在する」ことを見つけており、問題の見つけ方によって使われるスキルやプロセスが異なることが示唆されました。Heinzen(1989)は、現実的問題設定として学生と就職活動を用い、雇用機会が「全く問題なし」や「絶対無理」よりも「ほどよく挑戦的」なグループが、最も多くの解決策を出すことを確かめました。これは、感情認知相互作用と呼ばれ、内発的動機付けに関連しているかもしれません。


アイデア発想コンポーネント

アイデア発想コンポーネントも、Guilford(1968)の創造性の4つの潜在能力(流暢性、独創性、柔軟性、精緻性)(参考記事)や、Feldmanら(1972)の変革力参考記事)、Runcoら(1993)の適合性、その他のさまざまな質的次元を含んだ総称です。創造的アイデアは、独創的でありながら社会的に適合した価値を伝えていると認識されているため、創造性には適合性が必要と考えられています。

アイデア発想は、主に、連想理論の側面と発散的思考の側面で研究されてきました。

連想理論からは、次のような知見が確認されています。(参考記事

連想理論のイメージ
  • 独創的アイデアは連想連鎖の遠いところにある(遠隔連想)(Mednick, 1962)
  • 独創的アイデアが発想されるまでには時間がかかる(=十分な時間が必要)(Christenson, Guilford, and Wilson, 1957; Rothenberg & Burkhardt, 1984)
  • 独創的アイデアは、通常のアイデアが出尽くした後に出てくる(Mednick, 1962; Milgram & Rabkin, 1980; Runco, 1986)

発散的思考は、論理を突き詰めるのではなく多様なアイデアを出す思考法です。

以前は、発散的思考=創造的思考と考える人々、発散的思考≠創造的思考と考える人々がいましたが、現在では「発散的思考は創造的思考の先行指標である」という見解に落ち着いています。先行指標なので、発散的思考を調べることで、創造性の可能性を推定することができます。(参考記事


評価コンポーネント

評価コンポーネントでは、典型的には収束的思考や批判的思考が使われ、独創性や柔軟性を特段助長するものではないため、創造性の要素として軽視されることが多いです(Runco, 1993)。しかし、創造的な作品や成果は、誰かが評価して初めて「創造性がある」ことになります。そのため、Runcoらは、創造性の評価について研究を行い、いくつかの事実が判明しました。

  • 精度:ある種のメタ認知スキルは、評価プロセスの正確さを促進する可能性がある(Chand & Ranco, 1992)
  • 信頼性:自分の作品を正確に評価できる人が、他人の作品を正確に評価できるわけではない(Runco & Chand, 1994)

メタ認知スキルは、例えば、独創性を評価する時に必要になるでしょう。なぜなら、ある作品の独創性を評価するには、それ以外の作品に類するものがないこと(すなわち独創であること)をメタ認知できなければならないからです。あるいは、柔軟性の評価についても、典型的には発想できないことをメタ認知していなければなりません。しかし、流暢性については、アイデアの数を数えれば良いので、メタ認知は必要ないかもしれません。

他人の作品の創造性を正確に評価できないことは、Runcoらが4つの理由を提案しています。

  • 創作者と評価者の知識ベースの違い
  • 創作者と評価者の適合・不適合を分類する能力の違い
  • 創作者と評価者のカテゴリー知識構造の違い(参考記事
  • 評価者のアンカリング・ヒューリスティック

創造性は、独創性がありかつ社会的な価値があると判断されなければなりません。創作者は、作品を創る際、分類能力を使って、様々なアイデアの中から価値の適合性を判断していきます。そのため、創作者の記憶には、価値を判断した知識ベースが出来上がります。しかし、評価者にはその知識ベースはありません。また、評価者が持っているカテゴリー知識構造は、そもそも創作者のカテゴリー知識構造と異なる可能性があります。これらによって、創作者が「独創性はないが価値はある」と判断していたとしても、評価者は「独創的だが価値はない」と判断する可能性があります。

アンカリングとは、先行情報に後続の判断が引きずられてしまうことです。例えば、著名人が高く評価したと聞くと、自分も高く評価しようとしてしまう、といった現象のことです。すなわち、アンカリングされると評価者は正確に評価できなくなってしまいます。


動機コンポーネント

創造的思考ができても、創造的パフォーマスを発揮するとは限りません。創造的パフォーマスには、実行に移すための内発的動機付けが必要になります。内発的動機付けとは、個人的な意味のある目標を持ち、自分自身の価値観やニーズに従って仕事をすることです。しかし、内発的動機づけだけでは機能せず、外発的動機が必要になることが示唆されています(Amabile, 1993; Rubenson and Runco, 1992)(参考記事)。

ただし、Runcoらは「自分の時間を費やす価値のあるギャップや問題があると認識できるスキルがある場合にのみ、個人は動機付けされる」と主張しています。すなわち、スキルがあるから問題を認識でき、問題を認識できるから解決するという意識決定ができ、意志を自己決定したから内発的動機付けが生じた、という主張です。これに従えば、内発的動機付けの前に問題発見プロセスが完了していなければなりません。Khandwalla (1993) と Lazarus (1991a,b) はこの見解の証拠を提示しました。

どちらかといえば、内発的動機付けは「性格」や「認知スタイル」の問題の可能性が高いそうです。Mumfordら(1993)は、「性格構成は、人々がある認知操作を実行する際に設定する基準に影響を与えうる」ことを示唆しています。例えば、①厳格な判断をする人は、厳しい基準を設けて、有用なアイデアを潜在的に排除してしまう、②曖昧さを許容できる人は、多様な視点や多様な要素を考慮するので、より原初的なアイデアにたどり着く、という可能性があります。(参考記事

一方、Martinsen(1993)は、2つの認知スタイル、同化型スタイル探索型スタイル(Kaufmann, 1979)の個人間に有意差があることを発見しました。Martinsenによれば、同化者-探索者(A-E)スタイルは、同化者は認知的経済性を優先し、探索者は新奇性を好みます。そのため、認知スタイルは、人格(同化型or探索型)と認知(何を優先するか)の間の構造的橋渡しとして捉えられています。また、A-Eスタイルは、覚醒度の違いや達成志向などの動機づけの構成要素から部分的に派生したものと考えられています。


まとめ

Runco教授の創造性の2階層モデルを概観しました。

第1階層の①問題発見プロセス、②アイデア発想プロセス、③評価プロセスの分類は、ステージモデルにおける①Preparationステージ、②Incubationステージ、③Verifycationステージと同じ区分ですね(参考記事)。

両者の違いは、ステージモデルが①→②→③と直線的に進むことを前提にしているのに対して、2階層モデルでは①⇄②⇄③と行ったり来たりすることが前提になっている点です。

このような直線的に進まないモデルを、コンポーネントモデルと呼称しているようです。

参考文献

  1. Runco, M. A., & Chand, I. (1995). Cognition and creativity. Educational psychology review7(3), 243-267.

参考記事

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