購買行動が多様になる理由

こんにちは。やまもとです。

近年だと、顧客エンゲージメントという言葉は一般的になったのではないでしょうか?

マーケティング検定テキストに出てくる「関与」は、その顧客エンゲージメントとよく似た(もしかしたら同じ)概念です。

大雑把にいうと、関与度が高い消費者は製品やサービスをよく調べてから購入し、関与度が低い消費者はあまり調べずに購入する、という購買行動が行われます。

このような購買行動の違いは、同じ人でも製品カテゴリーによって違いがあるし、同じ製品カテゴリーでも人によって違いが見られます。

このように、購買行動は、まあ、多様なわけです。

しかし、「多様である」では分析も予測もできないので、偉い人が分析の仕方を考えてくれています。

今回は、購買行動の多様性を要因分解したMAOモデルをベースに、説明していきます。

購買行動の要因分解

マーケティングの研究者らは、消費者の購買行動の多様性を生み出す要因を、Motivation-Ability-Opportunity(MAO)の3つに整理しています。

以下では、動機付け(Motivation)と能力(Ability)と機会(Opportunity)について、それぞれ説明します。

動機付け(Motivation)

動機付け(Motivation)は、人を(購買)行動に駆り立てる心理的なメカニズムのことです。

消費者行動では、生理的欠乏などの満たされないニーズを、製品やサービスの購買と消費によって充足するため、消費者は購買行動を起こすと考えます。

その際、動機付けレベルが高いほど、意思決定に時間をかけ、積極的な情報処理を行います。

動機付けの要因として、目標関与水準が考えられています。

目標理論

動機付けのメカニズムを、目標という切り口から説明した枠組みを目標理論と言います。

ざっくり言うと、「何らかの目標を達成できていない」ニーズに対して、「目標を達成したい」欲求がエネルギーになり意欲を生み出します。

目標理論では、目的と手段の連鎖によって、目標は階層構造になっていると考えます。

図2:目標階層

上図の目標階層は、自分が筋トレを始めた時の例です。3階層で示していますが、階層はもっと多い場合もあります。

やまもとは、かなり太りやすい体質で、数年前はお腹が出ている無惨な体型でした。数年前、一念発起してダイエットをすることにしたのですが、ただ痩せるだけだとすぐリバウンドしてしまいます。そこで、「太りにくくする」にはどうしたら良いか考えた結果、消費カロリーを上げるため「筋肉をつける」ことにしました。では、「筋肉をつける」にはどうしたら良いかというと、ジョギングなどではなく「筋トレする」こと、家では器具がないので「ジムに通う」ことにしました。

このように、「手段ー目的連鎖」による階層構造は、動機付けられた状態になる仕組みを現したものです。

製品やサービスは、消費者の価値となる目的を達成するための手段に位置付けられます。

しかしながら、目標達成以外にも、「好きだから購入する」といった理由も存在します。

関与の分類

関与は、消費者の情報処理プロセスを規定する動機付け要因として、頻繁に用いられる概念だそうです。

様々な側面で関与の概念が使われた結果、多種多様な関与の概念が生み出されましたが、青木(1989)は次のようにまとめています。

関与とは「対象や状況といった諸要因によって活性化された消費者個人内の目的志向的状態」である

青木、1989

テキストでは、関与を「契機」「持続性」「動機的基盤」による区分が紹介されていますが、「持続性」や「動機的基盤」による区分もおおよそ「契機」による区分に対応づけられるため、ここでは「契機」による区分である「対象特定的関与」と「状況特定的関与」を紹介します。

図3;関与の契機による分類
対象特定的関与

対象特定的関与」は、ルイ・ヴィトンのような特定の高級ブランドの商品ばかりを購入する人を想像すると、容易にイメージできると思います。ある特定の商品やブランドに強く結びついて、ファンになっている消費者の状態を指します。

このように、対象が「ブランド」に向いた場合は「ブランド・コミットメント」と言いますが、「製品」に向いた場合を「製品関与」と呼びます。

対象特定的関与が高い場合、「課題を解決するために購入する」と言うよりも「好きだから購入する」ことが多く(状況非依存)、購入動機の面から見ると「感情的関与」と強く結びついています。

「感情的関与」が強い場合は、大まかなサイズ(S,M,Lなど)などの最低限の属性は情報処理されるでしょうが、それよりも全体的な印象(自分に似合うか)を類比的比較する情報処理が行われます。

高級ブランド好きの方を見ればわかりますが、このような「対象特定的関与」は比較的長く続くため、「永続的関与」でもあります。

状況特定的関与

状況特定的関与」は、ある特定の状況の課題解決のための関与で、消費者が問題を認識した時が契機となって生み出されます。

例えば、洗濯洗剤が無くなりそうな状況(特定状況)だと、次の洗濯洗剤を買わないといけないなという問題を認識し、購買行動を起こす場合が相当します。

このように、問題を認識した場合、特定のブランドにこだわりが無ければ、消費者は購入すること自体に結びついているので「購買関与」と言います。また、テレビCMなどで見た商品が印象に残っていたりすると「コミュニケーション関与」が高まっている状態と考えられます。

状況特定的関与が高い場合、好き嫌いで判断することは少なく、課題解決できる機能を属性ベースで分析する「認知的関与」の方が強くなることとが多いです。

問題のあった特定状況が解消されてしまうと、解決欲求は消えてしまうため、「状況特定的関与」は「一時的関与」になることでしょう。

関与と情報処理

一般的に、関与水準が高い場合、消費者は意識的・集中的・コントロールされた方法で情報処理を行い(深い情報処理)、関与水準が低い場合は、あまり努力して情報処理をせず、最小限の精緻化と表層的な意味づけで済ませます(浅い情報処理)。

このような情報処理は、消費者の態度(選好)を変化させ(例:ブランドを好きになる)、ブランド知識構造を変化させます。

では、どのようにして消費者の態度は変わっていくのでしょうか?

精緻化見込みモデル

企業が発信する広告や製品情報に対して、消費者の態度変容が起こるまでの経路を示したものが「精緻化見込みモデル」です。

図4:精緻化見込みモデル

精緻化見込みモデルでは、精緻化する動機があり、精緻化する能力があると中心的ルートを辿り、消費者の持続的な態度変容に繋がります。

一方、そのような動機も能力もない場合、周辺的ルートを経由して、一時的な態度変容に留まります。

関与は動機付けに作用するので、高関与の場合は中心的ルートへ、低関与の場合は周辺的ルートへ行くことになります。

上記の「対象特定的関与」と「状況特定的関与」の場合を考えてみましょう。

対象特定的関与の場合

全く知らない製品に対して、消費者はほとんど思い入れはないので「対象特定的関与」が初めから高いこと考えられません。そのため、全く知らない製品は、まず周辺的ルートを辿ると予想されます。上図からも分かる通り、周辺的ルートでは、周辺的手がかり(知人が使っている、類似製品を知っているなど)がないと態度変容は起こりません。つまり、新製品の場合は、説得的コミュニケーションと同時に周辺的手がかりを用意しておかなければなりません。

精緻化見込みモデルから推測すると、「対象特定的関与」は、周辺的ルートを何度も循して、一時的な態度変容を繰り返すことで高まっていくと考えられます。そして、一度「対象特定的関与」が高くなると中心的ルートを通り続け、持続的探索を続けることで、さらに態度(選好)が強化されていくのでしょう。

状況特定的関与の場合

一方、消費者に課題が存在している「状況特定的関与」が高い場合は、課題解決という動機があるため、新製品でも中心的ルートに入ると考えられます。消費者は、課題解決のための情報を集め、吟味する深い情報処理を行うことでしょう。製品やサービスによって、うまく課題を解決できると、消費者の知識構造の中には、「課題Aは製品Bで解決できた」という記憶が蓄積されます。同様の課題が再び発生した場合、知識構造から情報を取り出し、情報処理が軽減されます。すなわち、記憶によって課題解決のための情報処理を行う動機が減少し、状況特定的関与の関与水準が低下します。

このことから、「状況特定的関与」は、課題が解決されるまで中心的なルートを通り持続的な態度変容につながるものの、課題が解決されてしまえば関与水準が低下し、周辺的ルートをたどると考えられます。

したがって、「思い入れを作ること」と「課題を解決すること」は、全く違う方法でアプローチしないといけないのかも知れません。

ブランド・カテゴライゼーション・モデル

上記では、課題をうまく解決した記憶が状況特定的関与の水準低下につながるとしましたが、実際にはその記憶が簡単に思い出せるものなのか、成功した記憶なのか失敗した記憶なのかなどによって態度は異なります。

それを図示したのが、ブランド・カテゴライゼーション・モデルになります。

図5:ブランド・カテゴライゼーション・モデル

すでに知っているブランド集合(知名集合)のうち、購買時に検討対象として想起されるブランド集合を想起集合といい、真っ先に想起されるブランドを「トップ・オブ・マインド」と言います。

想起集合に分類された記憶は、すぐに思い出される課題を解決できそうな(成功体験のある)記憶です。したがって、課題解決方法が想起集合にカテゴライズされていると、情報処理をする動機がなくなり、状況特定的関与は低くなることでしょう。

この想起集合の大きさは、実証研究から3ブランド程度とわかっています。また、(対象特定的)関与水準が高いほど想起集合は小さくなる傾向があることが分かっています。これは、一つのブランドのファンになってしまうと、他のブランドが選択肢に上らないことをイメージすると分かりやすいかも知れません。

このことから、消費者の内面は次のように移り変わることが予想できます。

  1. 課題解決のために、状況特定的関与を高まる
  2. 商品を特定課題を解決する知名集合に入っている
  3. 処理集合の商品について、中心的ルートで情報を精緻化させる
  4. 商品が想起集合の1つに入る
  5. 実際に購入し消費し、強烈な成功体験をする(感動する)
  6. 状況特定的関与が低下し、対象特定的関与が向上する(スイッチする)
  7. 中心的ルートで継続的探索を行い精緻化を進める
  8. 想起集合が1つに絞り込まれ、対象特定的関与がさらに向上する

ポイントになるのは、強烈な成功体験を通して、状況特定的関与が対象特定的関与にスイッチするかどうかですね。スイッチが起こらなければ、関与水準は低下したままになってしまうでしょう。

能力(Ability)

いくら動機付けのレベルが高くても、消費者に情報処理能力や意思決定に必要な時間などの資源が伴わなければ、時間を掛けた意思決定や入念な情報処理を行うことはできません。

そのため、消費者の能力や資源の違いが、購買行動の多様性を生み出す要因になっています。

中でも、情報処理能力は、消費者がこれまで経験と通して蓄積してきた知識や、知識を用いて外部刺激を解釈する認知スタイルによって大きな影響を受けると考えられています。

知識(精通性と専門知識力)

知識を能力要因として見た場合、製品やサービスの経験量である「(製品)精通性」と、製品やサービスの知識の質的側面である「専門知識力」が重要な概念となります。

専門知識力」は、マーケティング学者のアルバらによって、5つの基本命題が示されています。

  1. 単純な繰り返しは、課題の遂行に要求される「認知努力」を軽減することによって、課題の成果を向上させる。ある場合には、繰り返しによって自動的な成果が導かれる。
  2. 精通性が増大するにつれ、製品を識別するために使われる「認知構造」は、より洗練され、より完璧となり、より実体と合致するようになる。
  3. 精通性が増大するにつれ、最も重要で課題に適切な情報を分離する情報の「分析能力」は向上する。
  4. 精通性が増大するにつれ、与えられた情報を超えた正確な知識を創造する情報の「精緻化能力」は向上する。
  5. 精通性が増大するにつれ、製品情報の「記憶能力」は向上する。

これらの命題を、下記のように図示してみました。

図6:専門知識力のアルバの命題

命題では、精通性の増大が、認知構造の洗練化、分析能力の向上、精緻化能力の向上、記憶能力の向上につながるとされていますが、図では分析能力・精緻化能力・記憶能力の向上は、認知構造の洗練化が媒介していると解釈しています。

これは、認知構造(知識構造)が整理されることで、情報を分離する軸(次元)が増えて分析能力が向上し、軸の目盛りがより細かくなって(分節されて)精緻化能力が向上し、情報をチャンキングして(抽象度を上げて)覚えやすくすることで記憶能力が向上する、と考えられるからです。

ウォーカーらは、この①次元性、②分節性、③抽象性を、熟達者と初心者の知識構造を比較する基準として提唱しています。つまり、熟達者ほど①多くの属性評価の次元を持っており、②それらの次元がより細かく分節されており、③諸概念をまとめる抽象化の程度が高い、ということです。熟練の職人をイメージすると、分かりやすいかと思います。

また、命題1の単純な繰り返しが認知努力の軽減につながるのも、認知構造が経験によって洗練化されたためと解釈しています。

これは、よく経験するように、繰り返しによって認知構造が確立することで、いちいち詳細まで確認する必要がなくなる(認知努力が軽減する)ためです。

認知スタイル(知識構造)

同じ情報でも、それをどう体系化しているのかは、消費者によって異なります。そのため、知識構造の違いが購買行動の多様性の要因になります。

テキストでは、代表的な4つの知識構造が紹介されているので、それをまとめると次のようになりました。

図7:代表的な知識構造
カテゴリー知識構造

カテゴリー知識構造は、製品やサービスを便益や属性で階層的に分類したものです。

例えば、「パン」は、食パンやフランスパンのような「主食パン」、ホットドックのような「調理パン」、あんパンやメロンパンのような「菓子パン」に分類し、さらに個別のパンに分類して、階層化して知識を体系化している場合です。

連想ネットワーク

連想ネットワークは、製品やサービスを「好き」や「楽しい」など感情的な概念を含めて、各概念をネットワーク型に繋げた知識構造です。

この場合、ある一つのブランド名に注目すると、そこから連想される様々な概念が活性化していきます。これを、「活性化拡散モデル」というそうです。

スキーマ

スキーマは、ある対象を認識するまとまった抽象的な概念のことです。

例えば、「人の顔」を私たちが瞬時に認識できるのは、目や鼻、口などの位置から「人の顔とはこういうもの」というスキーマを持っているからです。そのため、絵画や石の形状、壁のシミなど、現実には顔ではないものも「人の顔」に見えてしまうことがあります。

テクノロジー関係者には、「ディープラーニングで作られた画像の判別器がスキーマに相当する」と言えばわかりやすいでしょうか。

また、適度なスキーマの不一致は消費者の注意をひき、既存のスキーマと関連づけようと積極的な情報処理を動機付けます。一方、スキーマと一致すると既存のスキーマを適用すれば良いため、スキーマと極端に不一致だとスキーマが間違っていると判断するため、注意を引かず、積極的な情報処理も行われません。

スクリプト

スクリプトは、時間軸に沿って生起する出来事の系列の知識構造です。

例えば、「スーパーに入る」→「カゴを取る」→「商品をカゴに入れる」→「レジに並ぶ」→「代金を払う」→「袋に詰める」→「スーパーを出る」といった一連の行動の流れのことを指します。

この知識によって、私たちは、次に何をするべきか、次に何が起こるかをいちいち考えることなく(認知努力が軽減して)生活を送ることができています。

機会(Opportunity)

製品やサービスの情報を入手する機会は、インターネットによって爆発的に増えました。さらに、スマートフォンで場所に縛られず手軽に入手できるようになり、SNSの登場で個人発信の情報も手軽に手に入るようになりました。情報入手手段がテレビ・ラジオ・雑誌や身近な人のクチコミくらいしか無かった時代とは雲泥の差があります。

このような情報入手手段は、テクノロジーの進歩と比例して、現在も拡大し続けています。ただし、個人が情報入手に費やせる時間には限りがあるため、よく見ている情報源は個人ごとに異なります。

すなわち、情報入手機会の増加は、個人ごとに入手する情報の違いを生み出し、購買行動の多様性に影響を与えています。


購買行動の多様性を、動機付け(Motivation)、能力(Ability)、機会(Opportunity)のMAO観点で見て見ました。

関与や精緻化見込みモデル、スキーマといった聞き慣れない言葉は、試験でも普通に出題文に出てくるので、それぞれ何を指しているのか覚えておく必要がありますね。

しかし、この購買行動の多様性の要因を理解していると、よくわからない消費者の行動を分解し、多様な観点で説明することができるようになります。

また、要因の何を変化させると、どのような購買行動をとりそうか、といった予測も可能になることでしょう。

知らないことや曖昧なことが多かったので長くなってしまいましたが、今回で、消費者行動分析がようやく終わりました。

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