顧客が「安い」と感じる9つの理由

こんにちは。やまもとです。

ようやく消費者行動分析の勉強が終わったので、次は価格戦略について勉強しています。

価格戦略の部分も、マーケティング検定を受けてみて分かった自分の弱点だったので、少し詳しめに学習していくつもりです。

価格戦略の1回目は、基礎知識である価格感受性についてです。

企業は消費者の価格感受性が低い方が嬉しい

価格感受性とは、消費者が価格にどのくらい敏感なのかということです。値段を見ずに購入する場合は価格感受性が低く、1円でも安いスーパーを探す場合は価格感受性が極めて高いといえます。つまり、価格感受性は、製品やサービスによって、また消費者によっても異なります。

企業は商品をできるだけ高く売りたいので、企業にとって値段を見ずに購入してくれる消費者がとてもありがたい存在です。つまり、企業は消費者の価格感受性が低いほどありがたいわけです。

そのため、企業では、どうにかして消費者の価格感受性を下げようと作戦を練る必要があります。逆に、消費者は、企業の作戦に引っかからないように注意する必要があります。

では、どのような作戦がとれる/とられるのでしょうか?

企業が作戦を練る時は、攻略手段の引き出しを多く備えておくと、作戦の幅が広がります。そうすると、1つの攻め手が失敗しても、それに拘らず別の攻め手に簡単にスイッチすることができます。

消費者が商品を購入する時には、その商品の提供企業がどんな作戦を使ってきているのかを知っておくと、作戦に引っかかりにくくなります。

だから、消費者の価格感受性が下がるケース、言い換えると「安い」と感じて財布の紐が緩むケースを、たくさん引き出しに用意しておくことが重要になります。

消費者が「安い」と感じる理由

テキストでは、消費者の価格感受性が下がる場合として、9つの要因を列挙しています(下図)。これは、コトラーらがまとめたリストに基づいています。

図1:価格感受性が低下する9つの要因

以下では、9つの要因を1つずつ見ていきます。

1、個性的な製品

製品が個性的で「今まで見たことがない」と感じると、顧客の価格感受性は低下します。

古くはSONYのウォークマンや、新しめだとAppleのiPhoneなどの発売当初をイメージしていただければ良いでしょう。製品があまりにも斬新だと、消費者は高価でも手に入れたいと思い、実際に高額でも購入します。つまり、このとき価格感受性は低下しています。

この場合、価格感受性を下げるのは製品なので、製品の斬新なアイデアを生み出す想像力と、製品を実現する開発力や技術力、プロダクトデザイン力といった経営資源に必要となるでしょう。

おそらく、顧客が認識しづらい製品の全体品質などを個性的にしても、顧客が違いを認識できないため価格感受性低下の効果は得られません。むしろ、1つの要素だけが突出した、いわゆる「尖った」製品の方が、この効果を得られる可能性が高いです。

ただし、産業財(BtoB)の場合、「今まで見たことがない」製品に飛びつくのは、ビジョナリーなオーナー企業でしょうね。

2、代替製品を知らない

顧客が代替製品を知らず、「この製品に取って代わるものがない」と感じると、価格感受性が低下します。「代わるものがないから、この製品を買うしかない」となって、価格よりも機能を優先するようになるため、価格が高いのは目を瞑るしかないわけですね。

ある会社は、顧客の困りごとを徹底的に聞き出し、その要望を超える製品を開発することで、高い企業業績をあげています。その企業では、その顧客企業にとって希少価値を徹底的に磨き上げることで、高価格にもかかわらず購入してもらえるからと聞きます。これを、顧客にとって「取って代わるものがない」製品を作り上げていると考えると、産業財でも成立しそうです。

特に、さまざまな承認プロセスが整備されたマジョリティに属する大企業の場合、「他に代わるものがない」は社内稟議でも強力な決裁理由になるのではないでしょうか。

だから、製品の希少性を向上することが、製品の強みと考えられるわけです。

3、品質が比較不能

顧客が、代替製品と比較しても、品質の違いを容易に認識できない場合、価格感受性が低下します。品質の違いを認識できないと、消費者は「高価格なものほど、高品質であろう」と前提で購入意思決定をしがちです。このような場合、価格よりも品質を優先していて、価格感受性は下がっていることになります。

品質の違いの比較が難しいのは、専門知識が必要な場合や複雑な製品の場合があると思います。例えば、美術品を購入する場合、美術の専門家でもない限りは、品質の違いを見抜くのは難しいでしょう。また、Webサービスは、見た目の品質は比較できるかもしれませんが、サーバ側にあるその複雑な機能の品質は比較することが難しいです。他の例としては、生鮮食品も「鮮度の見分け方」といったコツが必要だったりするので、比較が難しいのでしょう。

そのため、比較しにくい製品には、マーケティング・コミュニケーションで消費者に品質イメージを前もって与えることが重要になります。

4、低い総収入出費率

月収100万円あるから、1万円程度の買い物なら、失敗しても痛くない」という感覚のとき、価格感受性が低下しています。もちろん、月収10万円の場合、「1万円の買い物で失敗してもいい」とはとても思えません。すなわち、収入に対する出費の比率(総収入出費率)が小さいときほど、その製品を「安い」と感じて、価格感受性が下がります。

これを応用したマーケティング手法として、年間1万円の契約を、「たったの月額833円」と広告に表示したりします。これは、月収10万円に対して1万円だと総収入出費率が高く、価格感受性も高いですが、833円だと価格感受性を下げ、「まあ、買ってもいいかな」という気分にさせることが狙いです。しかし、多くの場合、12ヶ月分を一括払いするため、実際には総収入出費率は高いままなのですが…

つまり、企業側は、値段を小さく見せることで、価格感受性を下げようとしているわけです。

5、低い総コスト出費率

10万円のテレビを購入するから、1年間の保証サービスの2000円なんて安いもんだ」という感覚のとき、保証サービスに対する価格感受性が低下しています。もちろん、5,000円の製品に対して保証サービスが2,000円だと「いくらなんでも高い」と感じて、保証サービスは購入しないでしょう。つまり、製品全体の購入コストに対する出費の比率(総コスト出費率)が低いと、その追加サービスを「安い」と感じて、価格感受性が下がってしまいます。

例えば、500万円の自動車購入を決めときに5万円のオプションを提示されても「大したことはない」と感じてしまったり、総額50万円の海外旅行で1回の食事料金が5,000円でも「まあいいか」と感じてしまったり、5,000万円の住宅購入に対して火災保険が安く感じてしまったり、といった具合に、このタイプの価格感受性の低下は色々な場面で登場します。

企業側から見ると、製品にさまざまなオプションをつけることで、普通は高いと感じる製品やサービスを高利益率で販売ができることを表しています。

6、部分コストの外部負担

例えば、ネットショッピングで「送料がかかるサイトより、送料無料のサイトの方がいい」と感じていると、価格感受性が低下しているかもしれません。実際は、商品価格に送料が転嫁されてやや高額になっていても、送料無料の方を選んでしまうことがあります。この場合、「無料」によってお得感を感じた結果、商品の方の価格感受性が下がっていると考えられます。

もし、等距離にレジ袋が有料の店と無料の店があったとしたら、みなさんはどちらを選ぶでしょうか?

その意思決定をするとき、販売している商品の価格は考慮するでしょうか?

考慮せずに選んだとしたら、商品に対する価格感受性が下がっているかもしれません。

7、既存資産の活用

スマートフォンを買い換えるとき、「データが消えるから、iPhoneからAndroidへの乗り換えはしたくない」と考えているとき、価格感受性は低下しています。iPhoneは高価格帯で販売しているので、多くの場合、Androidスマホの方が本体価格は安く済むにもかかわらず、高額なiPhoneを購入してしまいます。これは、価格よりも既存資産(データ)を重視するため、価格感受性が下がっていると考えられます。

もちろん、近年のクラウドサービスはサーバ側にデータが保存されるので、乗り換えてもデータは消えないのですが・・・。

他にも、「インテリアに統一感を持たせるために、既存の家具と同じブランドで購入する」とか、「連携機能を重視して、既存のテレビと同じメーカーのブルーレイレコーダーを購入する」とか、「ANAのマイルを溜めているから、航空会社はANA系を選ぶ」といったように、既存資産の活用を考えて購入する場合、価格は二の次にしてしまいがちです。

企業側の目線では、このような購入を狙って、互換性や製品連携を重視し、標準規格化・ポイント化・アライアンス化・エコシステム化を図っています。

8、高い品質・格式・高級感

私たちは、高品質な製品や格式の高い製品、あるいは高級感のある製品は、「高くて当たり前だ」という感じてしまいます。このような場合、高価格を受け入れ、価格よりも品質・格式・高級感を重視するため、価格感受性は下がっていると考えられます。

例えば、試聴したイヤホンの音質が明らかに優れていたときや、ドレスコードがある老舗レストランに入ったとき、高級感のある生地を使ったアパレル製品を見たとき・触ったときなど、高価格を受け入れてしまいがちです。コンビニで150円のコーラが、高級レストランで一杯500円でも購入してしまうのは、価格感受性が低下している最たる例でしょう。他にも、水を飲料として販売すると100円なのに、同じ水を美容用の保湿水として販売すると500円というようなことが起こります。

企業側にとっては、同じ商品でも、消費者が高級・高品質と認識している方法で販売すれば、利益率を高めることができることを示しています。

9、蓄積できない

例えば、旅行に行ってご当地名物を「今、ここでしか消費できない」と感じていると、感覚感受性が低下しているかもしれません。逆に、もし所有蓄積できるものであれば「今、ここで消費する必要はない」となるため、蓄積できないことが価格感受性を下げています。これは、価格よりも時間的・空間的希少性の方を重視しているため、価格が二の次になっていると考えられます。

他の例としては、東京ディズニーランドやUSJといったテーマパークでの体験なども「今、ここでしか消費できない」ため、好きな人ほど時間的・空間的希少価値が高く、価格感受性が低下し、多少値上げされたとしても購入してしまうと考えることもできます。


顧客が「安い」と感じるときというよりは、価格を度外視する9つの場合について説明しました。

企業目線で言えば、販売場所や販売方法をどう変えれば高収益にできるかを考える上で、価格感受性を下げる点に注目することは重要な指針になると思いました。

これらは、主に消費者(BtoC)向けですが、いくつかは企業(BtoB)向けにも使えるかと思います。特に大企業の場合は、複数の製品を比較し、メリットを洗い出し、社内稟議で「この会社の製品を選ぶしかない」という論理的な説明を求められるので、2番、4番、7番あたりが有効になるように思います。

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