理念浸透の論考②|プロセスモデルの考案

前回、理念浸透の進行度合いについて考察し、経営理念を社員が認知するプロセスについて、階層性があると結論づけました。しかしながら、考察が不十分と感じていたため、さらに推敲していました。推敲の結果、まだ完全とは言い難いですが、ある程度妥当な仮説になった気がするので、現状を書き残しておきたいと思います。

理念浸透の定義

まず、経営理念が浸透した状態とは「社員が経営理念を指針として自律的かつ能動的に行動している状態」のこととしました。こうすると、経営理念の浸透とは「社員が経営理念を指針として自律的かつ能動的に行動できるようになること」となります。社員がそのような行動を自律的・能動的にできるようになるには、意識や信念が変わる必要があります。そして、その変容度合いには認知の階層性がある、という点は前回の結論と変わりません。

しかし、今回は、認知の側面だけでなく感情の側面を含んだプロセスとして考えてみました。認知側面だけを考えると階層性に見えたのですが、感情側面を合わせると認知と感情の連続したプロセスのようになりました。

理念浸透プロセス

まだ完成ではありませんが、現在の理念浸透プロセスの仮説モデルを下記に示します。

図1.理念浸透プロセス仮説モデル

このモデルは、左列で認知面(=思考面、頭)を表し、右列が感情面(=心)を表すようにしていますが、完全に分類できている訳ではありません。例えば、右列に出てくる「賛同」はどちらかというと認知面に焦点を当てている言葉ですが、賛意(心の一種)を含むため右列に配置しています。

プロセスの始点の「理念刺激」とは、経営理念の発表や社長や幹部による説明会などによる社員への刺激のことを表しています。プロセスの終点は、自律的・能動的に行動する前駆状態である「統合的外発的動機」と「内発的動機」にしました。実際の行動は、動機の他に外部環境による制約条件にも依存することになります。しかし、動機があるにもかかわらず制約により行動できないという状態は、経営理念は浸透しているにもかかわらず行動が制約されている状態と考えられ、心的には経営理念の浸透は完了しているとも言えます。そのため、ここでは動機を終点にしています。

認知の階層性

前回の記事で考えた認知の階層性は、左列の「知覚」「認知」「知識」「理解」「納得」が相当しています(図2)。

図2.理念浸透プロセスモデルにおける認知の階層性の対応部分

前回の「聞いたことがある」「知っている」は、「知覚」「認知」と表現を変更しました。これは、実用日本語表現辞典の「認識」の解説(下記)に基づいています。

認識とは、情報や事象を理解し、それを自己の知識として取り込む過程を指す言葉である。この過程は、視覚や聴覚などの感覚器官から得られる情報を脳が解釈し、それを自己の知識として組み込むことにより行われる。認識は、人間が周囲の環境を理解し、適切に行動をとるための基本的な能力である。 認識には、物事の特徴を把握する「知覚認識」と、それを理解し意味をつける「認知認識」の二つの側面が存在する。例えば、赤い果実を見たとき、その色や形を知覚するのが知覚認識、それがリンゴであると理解するのが認知認識である。

実用日本語表現辞典

聞いたことがある」とは、聴覚で音としての特徴を把握したことに他なりません。もちろん、視覚的に特徴を捉えた場合は「見たことがある」になります。これらは、視覚にしろ聴覚にしろ、感覚器官で得られた「知覚認識」と言えるでしょう。

知っている」は、意味をなさない情報であるデータに意味付けが行われた状態を指していました。前回の例でいえば、「トマト」を音ではなく、赤い果物のような野菜と認識されることでした。これは、上記引用によれば、「認知認識」そのものです。

また、前回の「整理できている」層は、DIKW階層モデルをそのままに「知識」に変更しています。これは、情報が蓄積・整理された状態をうまく表現する言葉が見当たらなかったためです。候補としては、「整理」や「整然」もありましたが、これらの言葉は「知」を表現できていなかったため、使用を見送りました。より良い言葉が見つかれば、「知識」は変更するかもしれません。

「理解」と「納得」は、「理解する」と「納得する」に相当し、動詞を名詞に変更しただけです。

主な変更点

前回の記事で図示した階層モデルとの違いは、大きく分けると3つあります。

図3.理念浸透プロセスモデルにおける変更箇所

1つ目は、関心の心理学とその広告反応モデルへの応用に基づいて、「知覚→注意→関心→認知」という関心の心理プロセスに変更した点です。これにより、「知覚→認知」は、階層というよりもプロセスと呼ぶべきものになりました。

2つ目は、二段階評価理論に基づいて、「納得」層以降を評価プロセスに変更した点です。一次評価と二次評価を通して、「使命感」に辿りつつくものとしました。

3つ目は、「理解→信用→有意義→賛同」と頭ではなく心が近付いていくプロセスを追加したことです。これには、基礎理論はなく、ChatGPT3.5に「賛同するのに必要な要素は?」と尋ねた際の結果(下記)に基づいています。

賛同するには、いくつかの要素が重要です。以下に挙げる要素は、他人の提案や意見に賛同する際に考慮すべきものです。

  1. 理解: 最初に、他人の提案や意見を理解する必要があります。理解することで、その提案や意見の内容や背景を把握し、その妥当性や意図を理解することができます。
  2. 情報の信頼性: 提案や意見が信頼性のある情報や根拠に基づいているかどうかを確認することが重要です。信頼性のある情報や根拠に基づいている提案に賛同することで、より信頼性の高い意思決定が行われます。
  3. 自己の価値観との整合性: 提案や意見が自分の価値観や目標と整合するかどうかを考慮することが重要です。自己の価値観や目標と整合する提案に賛同することで、自分の信念や目標を守りながら、他人との協力や合意を築くことができます。
  4. 議論や対話の透明性: 提案や意見に対する議論や対話が透明であり、適切な情報が提供されているかどうかを確認することが重要です。議論や対話が透明であり、適切な情報が提供されている場合、賛同することがより容易になります。

これらの要素を考慮することで、他人の提案や意見に賛同する際により良い判断を下すことができます。

ChatGPT v3.5 on 2024-02-11

ChatGPTが示した要素のうち、「理解」「情報の信頼性」「自己の価値観との整合性」を「理解」「信用」「有意義」と名称を変更しています。

経営理念の信頼性は、会社の事業実績や発言者の行動実績に基づく信憑性で決まると考え、「信頼(根拠はないけど信じる)」ではなく「信用(根拠に基づいて信じる)」を選びました。

自己の価値観との整合性」は、整合した結果として有意義感を感じるだろうと推測し「有意義」としました。

検討が必要な点

図1は、仮説モデルとしてはそれほど悪くない気がするのですが、さらなる調査検討が必要だと思う点も残されています。

  1. 認知→好奇心→知識
    意味付けが行われたことで、驚きや疑問、認知的不協和があると好奇心を誘発し、好奇心は情報を精緻化・体系化する動機になるため、結果として系統化された知識が蓄積していく、というプロセスは妥当性が高いと考えられます。しかし、著者が知る限り、これを基礎付ける理論は判明していません。
  2. 理解→納得
    論理を認識した「理解」と尤もだと得心した「納得」は、明らかに異なる状態ですが、その2つがどのようにつながるのかは明らかではありません。例えば、頭で理解した内容を「妥当である」「正当である」と感じて心で理解する場合や、「そういうことか」というカタルシスを感じて心で理解する場合が想定されます。しかし、著者が知る限り、その理論は判明していません。
  3. 理解→信用→有意義→賛同
    これらは、ChatGPTによる賛同に必要な要素を網羅していますが、その順序は明らかではありません。信用や有意義には正しい理解が必要なので、信用と有意義の前に理解が配置されるのは間違いないでしょう。しかし、信用や有意義はどちらが先でも良い可能性があるため、直列ではなく並列になるのかもしれません。また、ChatGPTに頼っており、基礎理論がない点も課題です。
  4. 納得→重大さ→使命感
    この部分は、Lazarusの二段階評価理論に基づいていますが、評価の結果が「重大さ」や「使命感」で良いのかは疑問が残るかもしれません。一次評価は、大義や正義の評価となるので、その結果が「重大さ」なのは妥当だと考えられます。しかし、個人や組織の効力感を評価する二次評価の結果が「使命感」となるのかは検討が必要だと思います。
  5. 賛同→共感
    賛同と共感はよく似ていますが、明確に違います。賛同とは意見や考えに同意することで、認知的側面を表します。これに対し、共感は同じ感情になることで、感情的側面を表します。そして、賛同してから共感する、という順序が成立するのかどうかは不透明です。

ということで、まだまだ改善の余地はあると考えられます。

まとめ

このシリーズは、理念浸透には進行度合いがあるのでは?という疑問の下、理論的な考察によって妥当性の高い理念浸透段階を見出すことを目的としています。

今回は、感情的側面を含めた検討を行い、プロセスモデル案としてまとめてみました。まだ、検討の余地は多いものの、ある程度妥当性のあるプロセスモデルになったので、記事として残しておくことにしました。

各フェーズの詳細なプロセスについては、別の記事で書こうと思います。

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