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関心の心理学①|関心の二段階評価モデル

別の記事を書く中で、「関心の心理学」(Silvia, 2006) について、簡単に説明する必要がありました。

しかし、書いてみると長文になってしまったので、独立した記事にすることにしました。

今回は、関心の心理学の基盤となっている感情心理学の評価理論(appraisal thoery)と、Silviaの関心の心理学を概説したいと思います。

Lazarusの二段階評価理論

評価理論は、「人間の感情は、出来事によって引き起こされるのではなく、出来事の評価によって引き起こされる」という理論です。これは、同じ出来事を経験しても、個人個人で別の感情が喚起される場合があることを説明するために考え出されました。

評価理論の中でも、Lazarusの評価理論が有名です。Lazarus(1992)は、ストレス研究において、人間はストレスを感じるまでに、一次評価(Primary Appraisal)と二次評価(Secondary Appraisal)の二段階で認知的評価を行うことを提唱しました(参照:Wikipedia)。

一次評価は、状況に対する関連性と方向性の評価です。例えば、自身が患っている疾病に対して、薬が処方されたとします。その薬が自身の疾病に関わるもので(関連性の評価)、根本的な治療をするものである(方向性の評価)という評価が、一次評価に相当します。薬の場合、解熱剤のように症状を緩和するもの等、いくつかの方向性があるため、方向性の評価は患者のニーズとの適合性を評価することになります。

二次評価は、主に対処可能性と将来への期待の評価です。例えば、前述の投薬の場面では、自身がその薬を医師の指示に従って接種することができ(対処可能性の評価)、その薬を接種することで疾病が寛解するであろう(将来への期待)という評価が、二次評価に相当します。

評価理論は、出来事に対する認知的評価を通して感情が喚起されるというものです。認知的評価には考える時間が必要なため、考えずに瞬時に喚起される感情は説明できないという批判がありました。また、素晴らしい音楽を聴いて時の感動や、田園風景を見て涙が出てくるノスタルジー、物語に読んで感じるカタストロフィーといった認知的評価を通さずに喚起される感情もあります。これを受けて、現代の評価理論では、評価過程は無意識的・自動的にも起こりうると考えられ、瞬時に発生する感情や考えずに発生する感情も、評価理論の範疇に含められています。

関心の二段階評価モデル

Silvia(2006)は、「関心」も、無意識的・自動的に評価が行われて発生する感情であるとし、関心感情の評価理論を構築しました。

Silviaは、書籍「関心の心理学の探究」(Silvia, 2006)において、多くの先行研究(特に、好奇心の研究)を参考にして、関心感情の二段階評価モデルを図2のようにまとめました。

このモデルは、何らかの出来事に対して、「広い意味で新奇な出来事なのか?」を評価し、新奇であれば「理解できそう(=対処可能)な出来事なのか?」を評価し、理解できそうであれば「関心」を持つ、というプロセスを意味しています。ただし、2つの評価は、熟考して評価するというよりも、直感的な感覚によって評価されます。

一次評価

関心の要因は、好奇心研究の中で、さまざまなものが挙げられてきました。

多くの要因が提唱されましたが、ほとんどがBerlyneの新奇性・複雑性・不確実性・衝突のどれかに帰着します。また、多くの理論で「新奇性」に言及されています。

この結果から、Silviaは、関心感情の一次評価では「新奇性の確認(novelty check)」が行われるとしました。ただし、新奇性の確認では、「新しさ」だけではなく、以下の要素も評価するとしています。

  • 新しさ(new)
  • 曖昧さ(ambiguous)
  • 複雑性(complex)
  • 不明瞭さ(obscure)
  • 不確実性(uncertain)
  • 神秘性(mysterious)
  • 矛盾(contradictory)
  • 予想外(unexpected)
  • 未理解(not understood)

Silviaは、これらを合わせて「広義の新奇性」としています。これらはすべて主観的指標ですが、複雑性だけは客観的指標を持つ場合があります。例えば、パズルは、ピース数が少ないほど単純で、ピース数が多いほど複雑になります。

また、複雑性と矛盾は、感覚的ではなく認知的な評価になる場合があります。つまり、「よく考えてみたら複雑だった」「よく考えてみたら矛盾している」のように、時間をかけて考えて評価することがあります。

二次評価

遊園地のジェットコースターが人気があるように、ほどよいスリルはポジティブに評価され、興奮を感じさせます。しかし、スカイダイビングのような強すぎるスリルは、生命の危機としてネガティブに評価され、恐怖を感じさせることがあります。どちらも自由落下の刺激ですが、その強さによって評価が変化することがあります。

このことは、関心感情でも同様です。例えば、前述のパズルの例を考えてみましょう。もし、2ピースのパズルを与えられたら、そのパズルに関心が持てるでしょうか?多くの人は、簡単すぎて興味や関心が持てないことでしょう。反対に、1億ピースのパズルを与えられたら、そのパズルに関心が持てるでしょうか?今度は、面倒すぎてパズルを諦めて関心が持てないのではないでしょうか。実際、販売されているジグソーパズルは100~3,000ピース程度の製品が多いです(参照:ジグソークラブ)。

これは、関心感情は、複雑性が低すぎても高すぎても喚起されず、ほどよい複雑性の場合に喚起される、ことを示しています。Silviaは、このような逆U字型(Inverted-U)の感情喚起を再現することを理論の必須条件としましたが、表1の先行研究はこれを説明できませんでした。そこで、Silviaは、二次評価に対処可能性(coping potential)を採用し、逆U字型の感情喚起を説明しています。

広義の新奇性に対する対処可能性は、曖昧な物事を明確にしたり、不確実な未来を予測するといった、理解可能性がほとんどです。前述のパズルの場合は、パズルを完成できるかという対処可能性を評価しています。

図3では、関心の強度は、ほどよく複雑で理解可能な物事に対して高く、シンプルすぎて理解不要ものや、複雑すぎて理解不能なものには、関心が持たれないことを示しています。

関心の機能と楽しみとの違い

関心(interest)と楽しみ(enjoyment)は、どちらも内発的動機に寄与する点、次々とさまざまな経験を生み出す点(発散効果)で共通していますが、明確に異なる感情です。「楽しみ」感情には、親しみやすく「ワクワク感」という用語が使われることがあります。しかし、「関心」感情には、これに相当する用語がありません。

まず、関心感情の機能について、紹介しておきます。Silvia(2006)によれば、関心には以下の2つの機能があります。

  • 動機付け機能
    • 探索と学習を動機付け、環境が変化したとしても、環境への関与を保証する。
    • 退屈でつまらない作業を完遂する意欲を高める。
  • 適応機能
    • 動機付け機能により、多様な経験を培い、持続的な活動を促進する。
    • 多様な経験を積むため、不足の事態に適応できるようになる。
    • 持続的な活動により、能力の成長を促進する。

明らかに「退屈な作業を完遂する意欲を高める」機能は、その作業を実行しても退屈(=楽しくない)なため、「楽しみ」感情にはありません。また、「楽しみ」感情では、楽しい行為や嬉しい結果が期待できる行為が動機付けられるため、必ずしも探索や学習に促進する分けではありません。例えば、「良い成績は嬉しいけど、勉強は好きではない」といった心理状態は、「楽しみ」感情はありますが、「関心」感情はないと考えることができます。

その他の違いについては、表2にまとめました。

こうして見ると、関心と楽しみは随分異なる概念であることが分かるのではないでしょうか。「関心」は、複雑な物事を理解したい欲求を生み出し、未知への挑戦を促し、知識と能力を高めていく感情です。これに対し、「楽しみ」は、成功体験による喜び(pleasant)を味わう欲求を生み出し、何度も成功を体験できるシンプルな物事や既に成功体験がある物事を好み、報酬と物事への愛着を高めていく感情です。

Maslowによれば、理解したい欲求は、7つの基本的欲求の1つである「知りたい欲求」の上位欲求ですが、欲求段階仮説の中には含まれていません。知りたい欲求と理解したい欲求は、相互に影響し合い「知ると理解したくなり、理解すると知りたくなる」という循環を繰り返すとされています。一方、喜びを味わう欲求は、成功を承認される欲求に相当すると考えられます。承認欲求は、基本的欲求の1つで、欲求階層仮説の4階層目です。したがって、「関心」と「楽しみ」は、それぞれ異なる基本的欲求に関連していると考えられます(参照「マズローの7つの基本的欲求」)。

まとめ

Silviaによれば、関心の感情が発生するプロセスは、次のような二段階評価モデルで考えることができます。

最初に評価される「広義の新奇性」は、新しさの他に、曖昧さ・複雑性・不確実性などの評価も含みます。二次評価では、ほとんどの場合「理解可能性」が評価され、「理解可能」評価を頂点とした逆U字型で感情喚起の強度が変わります。つまり、理解不要や理解不能と評価されると、関心が持てません。

「関心」と「楽しみ」はよく似た感情ですが、「関心」が複雑さによって喚起されるのに対し、「楽しみ」はシンプルさの方が喚起されやすいです。「関心」の特筆すべき機能は探索と学習を動機付けることで、これにより、新しい物事を始めたり、想定外の状況にも素早く適応できるようになります。

参照文献

  1. Lazarus, R. S. (1991). Progress on a cognitive-motivational-relational theory of emotion. American psychologist46(8), 819.
  2. Lazarus, R. S. (1993). Coping theory and research: past, present, and future. Psychosomatic medicine55(3), 234-247.
  3. Silvia, P. J. (2006). Exploring the psychology of interest. Psychology of Human Motivation.
  4. Silvia, P. J. (2008). Interest—The curious emotion. Current directions in psychological science17(1), 57-60.
  5. Maslow, A. H. (1954). Motivation And Personality BY AH Maslow. Prabhat Prakashan.

参考サイト

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