創造性の心理学①|閾値理論と連想理論

こんにちは。やまもとです。

5階層のDIKWピラミッドのうち、知識階層を理解階層に引き上げる方法を検討するため因果性を考えました。これには、知識と知識を因果性によって結びつける因果メカニズムを考えると良さそうでした。しかし、これは知識が既に存在していることが前提になっています。それでは、新しく知識を作り出すにはどうしたら良いのでしょう?

この問いに答えるには、おそらく創造性を調べればいいのではないか?と考え、これまでいくつか記事を書きました。

参考

論文などを調べてみたところ、創造性の研究は、米国では続いていますが、日本では途絶えてしまっているようです。調査の中で、近年まで研究を続けている主な研究者を何人か見つけましたが、南オレゴン大学のRunco教授もその一人です。Runco教授は、創造性研究の全体像をレビューされている書籍「Creativity 第2版(2014)」を出版されていて、2021年7月に第3版が発売されています。

この書籍をチラ見してみると、創造性研究は多岐にわたっており、各論を学んでも全体像は掴めそうにありません。そこで、全体像を学ぶために、この書籍を購入しました(第3版はkindle版がまだないので、第2版ですが・・・)。

この創造性シリーズでは、「Creativity 第2版(2014)」をもとに学習した内容をブログにして行こうと思います。

知能と創造性

知能と創造性の関係性は、1950年代から1960年代によく研究されていました。初期の研究は、知能と創造性が関係ないことを確かめるために行われていました。これは、もし知能と創造性が同じものであれば、あえて創造性を研究する意味がないからです。そして、実際、初期の研究では、創造性は伝統的な知能に依存しないことが確かめられていました。

しかし、Getzels and Jackson (1962)は、大規模な大学生グループを対象にした実証的研究によって、創造性ポテンシャル(潜在能力)が伝統的な知能と相関関係にあることを確かめました。これに対して、Wallach and Kogan (1965)は、その方法論に問題があると考えました。何故なら、Getzels and Jacksonが用いたような教育やテストの環境では、創造性は容易に抑制されてしまうためです。

そこで、Wallach and Koganは、現在の発散的思考テストの原型となる開放型試験による方法を作りました。また、アカデミック色がなくなるように、テスト環境にも注意し(信頼関係を事前に築く、テストと呼ばずゲームと呼ぶ等)、子供向けに発散的思考ゲームを行わせたところ、多くの独創的な答えを出すという結果になりました。これは、発散的思考が、(通常、知能指数が関係する)収束的思考とは異なることを意味していました。

余談ですが、これは教育環境の中で創造性を測定することがとても難しいことを示しています。何故なら、学校という環境や、試験という状況が、創造性を抑制してしまうためです。そのため、学校教育では、収束的思考に優れた生徒の成績が優秀としてしまい、発散的思考に優れた生徒の成績は低くなってしまいます。

閾値理論

閾値理論は、創造性を発揮するには最低限の知能レベル(下限閾値)が存在するという理論です。

Runco and Albert (1986)は、Guilford(1968)の結果〈創造性ポテンシャルと知能指数の分散図が三角形になる〉をもとに、下図のような閾値を引きました。Juak et. al (2013)ではこの閾値はIQ100くらいと推定しましたが、最近の結果では、独創性をより厳密に定義するとIQ120に近づくことが分かっているそうです。また、Hollingworth (1942)のレポートによれば、IQ180以上の人たちには創造性がほとんど見られませんでした。これは、第二の閾値が存在している可能性を示唆しています。

この図からは次のようなことが読み取れます。

  • 知能が高くても、創造性ポテンシャルが高いとは限らない
  • 知能が低いと、創造性ポテンシャルが高いことはない

これらを合わせると、

  • 知能の高さは、創造性ポテンシャルの必要条件だが十分条件ではない

ということが言えます。

ただし、この結果は、テストによる結果であることに注意が必要です。つまり、創造性が環境や状況によって抑制されている可能性があります。

また、閾値理論は、統計的な手法では、創造性ポテンシャルの測定でのみ確認され、創造性のパフォーマンスでは確認されていません。これは、「創造的な成果と創造性ポテンシャルには大きな違いがある」ということを意味しています。

連続体仮説

連続体仮説とは、発散的思考と収束的思考を二項対立ではなく、連続体の両端と考える説です。(Eysenck 2003)

発散的思考と収束的思考は切り替えて使うものと考えがちですが、連続体仮説では中間状態を含む連続体と考えることを意味します。

これは、発散的思考が開放的問題(例「三角形のものをたくさん挙げてください」)の解決に使われる思考法であることを考えると明らかです。何故なら、現実の問題は、必ずしも開放的問題に限られるわけではなく、逆に閉鎖的問題(例「トライアングルは何角形ですか」)に限られるわけでもありません。むしろ、その中間的な問題が大多数を占めていることでしょう。

つまり、連続体仮説は、現実の問題に合わせて、「発散的思考と収束的思考の両方が必要である」と考えるのが最も妥当だと言っていることになります。

連想理論

創造的認知の理論の多くは連想プロセスに注目し、アイデアがどのように生成され、どのように連鎖していくのかに焦点を当てています。このような考え方は、何百年も前に遡ることができ、ジョン・ロック、アレクサンダー・ベイン、デイビッド・ヒュームといった哲学者にまで遡ることができます。しかし、このような哲学では科学的な検証は行われませんでした。

Mednick (1962)は、連想的考え方を現代的心理学に導入した「創造的プロセスの連想理論」を提唱し、実証的に検証を行いました。結果として、Mednickは「独創的なアイデアは、遠いところにある」ことを発見しました。言い換えると、私たちがすぐに思いつくようなアイデアは独創的ではなく、そのようなアイデアが出尽くした後に現れるアイデアこそが独創的である可能性が高いということです。

この発見によって、独創的アイデアは連想の連鎖の中で遅れてやってくることが分かりました。このことから、独創的アイデアを発見するには、十分な時間が必要だということが分かります。

まとめ

  • IQ120くらいに、知能と創造性が比例しなくなる閾値がある
  • 知能が高いからといって創造性が高いとは限らない(IQ180以上は創造性がない可能性がある)
  • この結果は、テスト環境での結果であり、創造性が抑制されている可能性がある
  • これは、創造性ポテンシャルとの関係であり、創造的な成果とは関係がない
  • 発散的思考と収束的思考は、連続的に入れ替わる
  • 独創的アイデアは、遅れてやってくる

参考

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