創造性の心理学11|創造性のステージ理論|まとめ

こんにちは、やまもとです。

創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。

ここまでは、創造性をある種の認知プロセスと考える研究について学習してきました。その中で出てきたプロセスは、ある程度同じ状態が続く段階(ステージ)が2〜5個連続したものでした。今回は、様々なステージ理論の関係性を明らかにし、自分なりに1つに統合してみたいと思います。

ちなみに、このようなステージ理論は、時間の概念を含む点が特徴的です。ステージの滞在時間は決められないものの、時間の順序に沿って各ステージを進むことを前提としているからです。これに対し、創造性のコンポーネント理論には時間の概念がありません。

創造性のステージ理論

創造性は捉え所のない広範な概念なので、さまざまな切り口で研究されていました。しかしながら、研究の結果から考えられる認知プロセスは、どれもWallas(1926)4ステージモデルを支持するものになっていました。さまざまな切り口は、各ステージの中で起きている認知的相互作用を言及しているように見えます。そこで、4ステージモデルをベースに紹介した各理論を1つにまとめてみました。

ここで、4ステージモデルの第3ステージIllumination(洞察)は除外しています。これは、「ステージ」はある程度持続する状態なのに対し、「洞察」はアハ体験のような瞬間的な出来事だからです。そのため、洞察は、IncubationとVerificationの境界に位置しますが、ステージとは考えないことにしました。

ただし、洞察の記事で紹介したように、「洞察」をIncubationからVerificationまでを含む長期的認知プロセスと定義することもできます。

Preparation

Preparationステージは、Wallasの第1ステージ「個人の心を問題に集中させ、探求する準備段階」と同義です。このステージでは、主に問題発見プロセスが行われます。問題発見プロセスとは、ill-definedな問題をwell-definedな問題へと進めていくプロセスです。言い換えると、漠然とした問題(例:「何かがおかしい」)から、明快な問題(例:A=Bではないか)へと近づけていくプロセスです。そのため、問題発見プロセスが始まるためには、漠然とした問題を捉える必要があります。

しかし、漫然と過ごしていると、漠然とした問題は、漠然としているが故に捉えることができません。漠然とした問題とは、多くの人々が問題とは感じない事柄のことです。創造者は、そのような事柄を問題と捉えるための高感度・高解像度センサーを備えていなければなりません。このようなセンサーは、創造者自身の興味や専門性が高い領域ほど、感度と解像度が高いと考えられます。言い換えると、創造の意図や創造の領域に対する創造者自身の感情的重要性が高いほど、センサーが高感度・高解像度になります。イメージとしては、芸術家を思い浮かべれば良いでしょう。ヤヌス・プロセスでは、これを第1ステージ「創造意欲」と定義していました。

創造者は、ある領域に興味を持つと、その領域を自主的に学習し、知識体系を獲得していきます。知識体系が構築されると、その領域の専門性も向上していきます。創造者のセンサーは、興味によって感度が上がり、専門性によって解像度が上がっていきます。多くの人が問題とは感じない事柄も、創造者は専門領域のセンサーを通して見ることで、違和感を感じることができるようになります。この違和感が、漠然とした問題になります。

ただし、芸術家や職人といった創造者は、単に自己表現や技術を探究しているだけで、漠然とした問題に無自覚な場合があります。そのような創造者は、漠然とした問題を感じると表現や技術を工夫し、より良い作品にしようとします。この場合、ゴールまでの障害(=問題)に気づくのは、2つの状況が想定されます。1つは、試行錯誤の途中で原因が明らかになり、well-definedな問題が定義される場合です。もう1つは、満足いく作品が完成した後、「あれが問題だったのか・・・」と気づく場合です。後者は、作品の完成によってゴールが明確になったため、その道程にあった障害(=問題)も明らかになったと考えられます。

このような探究あるいは試行錯誤は、一種の連想プロセスと考えることができます。なぜなら、漠然とした問題を解決しようと、その問題から連想される解決手段を次々と試している状態だからです。あるいは、連想をもとにした発散的思考を繰り返している状態と考えることもできます。ヤヌス・プロセスでは、反対命題を連想する概念的逸脱を起こしている状態と考えられます。このような状態を通して、問題解決に必要な知識が蓄えられ、関連づけられてネットワーク型の知識体系が構築されていきます。このプロセスは、問題構築と呼ばれます。

専門性は、創造者のセンサーを高解像度化し、漠然とした問題を察知するのに役立ちました。しかし、その一方で、専門性の向上は、創造性を阻害するEinstellung効果(簡便さの無視)や機能固定性(経験への固執)といった認知バイアスを引き起こします。特に、専門的知識や専門的手法そのものが問題だった場合、このような認知バイアスによってその知識や手法を疑うことができず、問題を正しく識別・定義することができなくなります。

このような問題識別問題定義の問題に対処するためには、創造者が別のセンサーを持つ必要があります。たとえると、料理をするときは、色のセンサーだけでなく、温度や音のセンサーもあった方が、火を止めるべきか否かという問題をより正しく識別できるようになる、というようなものです。このような別のセンサーを持つために、創造者は自分の専門領域とは異なる別の専門領域を学び、専門とは異なる視点を得ることが必要でした。

うまく識別された問題は、連想の飛躍(長い連想の結果、一見無関係に見える事柄)、長期的類推(異種領域間でのシステムの類似性)、専門性の余白(別の専門性から見た時の問題の空隙)、同時対立(正の命題と反対命題の矛盾)といった形で認識され、well-definedな問題になります。この時、よく定義された問題は、独創的であればなお良いでしょう。なぜなら、創造性の中心概念は独創性であり、問題が独創的であれば解決策も独創的であると期待されるからです。

なお、連想理論で独創的アイデアが発見されるには時間がかかることが確認されていますが、その理由の1つは上記の問題発見プロセスに時間がかかるためだと考えられます。また、発散的思考創造性の先行指標に過ぎない点も確認されていますが、これは発散的思考がPreparationステージでのみ使われる思考法だからでしょう。

Incubation

Incubationステージは、Wallasの第2ステージで「問題が無意識の中に内在し、外からは何も見えない段階」と定義されている段階です。このステージの最大の特徴は、無意識のうちにプロセスが進行することです。そして、全てのステージ理論で、このような無意識プロセスが含まれています。これは、無意識だと意識的な制約条件や合理性から解き放たれ、独創的アイデアを発見しやすくなるためです。

Incubationステージは、Wallasの第3ステージ「Illumination」(洞察、アハ体験)が得られると終了します。なぜなら、洞察が得られた瞬間から、無意識にあった思考が、意識上に登ってくるためです。洞察は、「異質な心的表現間の予期せぬ結びつき」と定義され、5つに分類されています。その5つとは、①スキーマの完成、②視覚情報の再編成、③メンタルブロックの克服、④問題解決方法の発見、⑤情報のランダムな組み直し(の結果、正しい組み合わせを発見したとき)、でした。

創造性の再構築理論によれば、このステージでは、知識体系に対する様々な変更を行い、再構築を試みています。(再構築理論では再構築を洞察の一部と考えますが、ここでは別の認知と考えます。)

知識体系の変更方法として、連想・類推・組み合せ・抽象化といった思考法が使われます。連想は、知識同士の繋がりを連鎖させて構造を見出す方法です。類推は、ある知識体系の構造を別の知識体系へと当てはめる方法です。組み合せは、複数の知識構造同士を連結させる方法です。抽象化は、知識体系を粗視化し、知識体系間の構造を見出す方法です。

一方、再構築のグラフ理論によれば、このステージでは、無意識に知識ネットワークのノードまたはリンク追加・変更を行っています。この状況は、知識ネットワークのノードを事柄とし、リンクを連想・類推・組み合わせと考えれば、上記の思考法を適用している様子を表しています。

ヤヌス・プロセスでは、命題と反対命題の同時対立として問題が定義された後、この対立を解消するように考えます。これは、命題と反対命題がそれぞれの知識ネットワークを形成しており、2つの知識ネットワークを結ぶ方法を考えていることに相当します。

そして、「洞察」が得られるのは、連想の飛躍や長期的類推専門性の余白による一見無関係な2つ以上の要素の「予期せぬ結びつき」(あるいは「個人が非典型的であると認識する経路」)が認識されたときです。あるいは、同時対立した一見矛盾する2要素を「無矛盾に対立解消させる方法」が認識されたときです。ここで、「一見無関係」とか「一見矛盾」して見えるのは、意識的な制約条件や合理性に囚われ、「そんなはずはない」という認知バイアスを持ってしまうためです。この認知バイアスを外して考えるために、創造性では無意識が鍵になっています。

最後に、一見無関係または一見矛盾した結びつきが、「非常識的・非典型的だけれども、成立する」という判断は、誘導段階の直観による判断が必要になります。なぜなら、この判断は、非常識的で非典型的な事実に基づかなければならず、理論という常識に従う演繹的推論や典型的パターンに従う帰納的推論が使用できず、結論から前提を考えるアブダクション洞察的推論)が必要だからです。

Verification

Verificationステージは、Wallasの第5ステージで「アイデアを精緻化し、適用される検証段階」と定義されている段階です。この段階の最大の特徴は、論理的思考によって進むことです。前述の通り、このステージでは、開始時に「洞察」によって結論が得られているため、洞察的推論(アブダクション)による論理的思考が必要になります。連続体仮説でいうと、発散的思考ではなく、収束的思考が必要な段階と言えるでしょう。

再構築理論では、この段階は、意外な「非典型的経路(近道)」が見つかった後、近道の存在を前提として知識ネットワークを再構築する段階を指しています。ただし、再構築理論ではこの段階までを洞察に含み、再構築を通して知識体系が大きく変化する場合だけを洞察と定義しています。

直観の2段階では、この段階は、後半の直観の統合段階に相当します。統合段階の存在は、Waterloo Gestalt Closure Task(WGCT)という実験によって確かめられています。この実験は、意味のある絵と意味のない絵を同時に見せて、意味のない絵に意味を見出すかどうかを測定するものです。この実験によって、意味のある絵によって得られた洞察を、意味のない絵にも適用して統合していこうとする思考プロセスの存在を見つけることができます。

ヤヌス・プロセスでは、この段階は、同時対立の解消によって得られた発見から、その全容を知るために論理的体系を構築していく段階(理論構築段階)に相当します。

まとめ

ということで、創造性のステージ理論をまとめてみました。

創造性には、何らかの共通したプロセスが存在しているようです。主に発散的思考を使う準備段階、収束的思考を使う統合段階の間に、無意識の段階が存在することも共通しています。しかも、ただ無意識であれば良いわけではなく、連鎖の飛躍、長期的類推、専門性の余白、同時対立といった問題が定義されてから、思考の休息に入る必要があるようです。

ところで、よく「アイデア出し」と称してブレインストーミングが行われますが、大したアイデアもなく終わることが多いのではないでしょうか。ここで、創造性のステージ理論を参考にすると、ブレストですべきことは、よく定義された問題をきちんと定義することだと分かります。よく定義された問題は、「一見無関係あるいは一見矛盾している要素同士が実は繋がるのでは?」という問題として認識されます。アイデアを出すだけで、このような問題に落とし込めていないため、ブレストが失敗しているのかも知れません。

まあ、そもそも、独創的アイデアが見つかるには時間がかかるので、ブレストの場で出されたアイデアには独創性は期待できません。これは、発散的思考は創造性の先行指標の1つに過ぎないにもかかわらず、「発散的思考をすれば、創造性が高まる」という短絡的な言説が存在しているからかもしれませんね。

参考

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