創造性の心理学⑨|直観

こんにちは、やまもとです。

創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。

今回は、洞察(Insight)とも関連が深い直観(Intuition)についてまとめてみます。

直観と直感の違い

まずは、混同しやすい直観と直感の違いについて確認しておきましょう。

直観・・・哲学で、推理などの論理的判断によらず、対象を直接に捉えること。

直感・・・推理や考察によらず、感覚によって物事の状況を瞬時に捉えること。

デジタル大辞林

これを言い換えると、直感は「感覚器(いわゆる五感)で状況を捉えること」なのに対して、直観は「理由は説明できないが、概念や論理が正しいと捉えること」です。

例えば、街灯がない夜道を怖いと感じるのは、視覚や聴覚を使って状況を捉えているので、直感と言えます。

直観の例としては、因果性があります。いまだに因果を決定する条件は明らかになっていませんが、それにもかかわらず人は物事の間に因果関係があると考えることがあります。これは、理由は分からないにもかかわらず、因果性を捉えているため、直観に相当します。

直観と洞察の違い

Langan-Fox and Shirley (2003) の調査によれば、直観は、「知識の最高形態」(スピノザ)、「心そのものによって供給される内的なプロセス」(カント)、「(直観と知性の対比から)より本能の表現」(ベルクソン)と歴史的に考えられてきました。

このように、直観は捉えるのが難しい概念ですが、もう少し現代に戻ると、Browerら(1990)は直観を次のように定義しています。

本研究では、直観を「発見」という文脈での情報に基づいた判断とみなしている。

Bowers, Regehr, Balthazard, Parker “Intuition in the context of discovery” (1990)

つまり、直観とは「判断」の一種であるとしています。前節の国語辞典の説明と合わせると、直観とは「正しい/正しくない」という論理的ではない「判断基準」のことと考えても良いかもしれません。

これに対して、洞察は2つの対象(例えば、AとB)が瞬間的に結びつく「事象」(例えば、A→B)を表しています。この「事象」の成立を直観で判断しているものの、「事象」そのものに判断基準は含まれていません。したがって、直観と洞察は別の概念で、直観で判断した結果が洞察と考えることができます。

直観の2段階性

Browerら(1990)は、直観が2段階に分けられることを実験的に確かめました。

この直観の概念を調べるために、2つの単語タスクとゲシュタルト閉鎖タスクを開発した。2つの課題では、人は識別できない一貫性に対して識別的に反応できることを示し、3つ目の課題では、この暗黙の一貫性の認識が、人を直観や仮説の形で明示的な表現へと徐々に導くことを示した。

Bowers, Regehr, Balthazard, Parker “Intuition in the context of discovery” (1990)

言い換えると、次のような2段階と言うことができるでしょう。

  1. 誘導段階
    • 無意識のうちに一貫性や構造を認識し、利用する
  2. 統合段階
    • 無意識に認識された一貫性や構造が、意識レベルへ上がってくる

誘導段階から統合段階へ移行するとき、人は「アハ」体験を経験します。

これらは、Wallas(1926)の4ステージモデルの第二段階Incubation(孵化)と第四段階Verification(検証)に相当すると考えられます。

直観のテスト

Browerら(1990)は、研究の中で、直観を調べるためのいくつかのテストを開発しました。有名なものとしては、下記の3つがあります。

  • Dyads of Triads task (DOT)
  • Accumulated Clues Task (ACT)
  • Waterloo Gestalt Closure Task (WGCT)

Dyads of Triads Task (DOT)

このテストは、3つの単語(Triads)を2セット(Dyads)提示するため、Dyads of Triadsと呼ばれています。

この課題は、3つの単語(例:塩・深い・泡/夢・球・本など)を提示し、それぞれ3つの単語に共通する意味的つながりがある別の単語が存在するかどうかを判断させる課題です。例の前者には「海」という共通し た意味的つながりがある単語が存在しますが、後者の例には存在 しません堀井・箱田,2019)。

オリジナルのDOTでは、回答は、2つの単語セットのうち意味的つながりがある方に、その単語自体を書くか、単語が思いつかなくても「X」と書いても良いことになっています。

例題:

SetAB
ProblemBarrel
Root
Belly
Still
Pages
Music
SolutionBeer
DOT Example

オリジナルのテストは、K.Randel(2009) の付録C(Appendix C)で確認できます。

Accumulated Clues Task(ACT)

このテストは、15個の単語を5秒間隔で表示していき、それらをヒントに意味的に共通する別の単語を想起させるテストです。被験者が、意味的に共通する単語を思いついた時点で、その単語を記入させます。もし、単語が正解であれば、ヒントとなった単語の個数を問題のスコアとします。このような問題が、全部で12問用意されています。

例題:

ClueSolution
Times
Inch
Deal
Corner
Peg
Head
Foot
DanceSquare
Person
Town
Math
Four
Block
Table
Box

この例題とオリジナルのテストは、K.Randel(2009) の付録B(Appendix B)で確認できます。

Waterloo Gestalt Closure Task (WGCT)

このテストは、ラクダのような実在の物体を表す意味のある絵とランダムな線の集まりのような抽象的なデザインを表す意味のない絵をペアにして、被験者に物体を識別してもらうテストです。被験者は、5秒間だけ提示された絵のペアを見て物体を識別したら、自分の選択に対する自信を「あまり自信がない」(1)から「非常に自信がある」(5)までの尺度で評価します。そして、可能であれば、物体の名前を回答します(Lazerus,2012)。

ACT直観とMBTI直観との違い

海外でよく使用される性格特性を測定するMyers-Briggs Type Indicator (MBTI)には、測定軸の1つに「直観」があります。そのため、直観の研究では、話題に登ることがあるようです。書籍「Creativity」では、次のように言及されています。

Myers-Briggs Type Indicator (MBTI; Myers & McCaulley 1985)は、Jung (1964)の「感情」「思考」「感覚」「直観」に関する研究から開発されました。MBTIは、自分が普段どのように行動したり感じたりしているかを受験者に尋ねます。MBTIは、直観の認知的な尺度というよりも、行動的な尺度と解釈されることが多いです。MBTIの直観尺度は、個人の「可能性、パターン、シンボル、抽象」の知覚を評価します(Myers & McCaulley 1985, p. 207)。

Runco (2014) “Creativity”

また、前述のLangan-Fox and Shirley (2003) の研究によれば、直観的興味、性格、経験は、MBTI直観スコアを予測ましたが、ACT直観スコアを予測しませんでした。

心理学専攻の1年生53名が、Myers-Briggs Type Inventory(MBTI)とAccumulated Clues Task(ACT)に回答し、自分の直感的な特性と能力を推定した。また、参加者は、直観的な興味の尺度と直観的な経験の質問票にも記入した。2つの直観測定法は関連性がなく、直観の異なる次元、あるいは異なる構成概念を測定している可能性が示唆されました。一般的に、直観的興味、性格、経験は、MBTI直観のスコアを予測しましたが、ACT直観のスコアは予測しませんでした。MBTI直観のスコアは、性格(開放性と外向性)と相関し、芸術、型破り、冒険を求める、革新、探検、発見などの興味によって予測されました。ACT直観のスコアは、冒険を求める活動への興味によって予測されましたが、性格、認知的興味の構成要素、行動的興味の構成要素の大部分によっては予測されませんでした。MBTI直観力の高い人は、未来についての予感が現実になったことがあると報告し、不確実性があり、事実が限られている場合には、直観力を頻繁に使用すると報告した。

Langan-Fox & Shirley, “The Nature and Measurement of Intuition: Cognitive and Behavioral Interests, Personality, and Experiences” (2003)

そのため、同じ「直観」という言葉を使っていても別の概念を指している可能性があります。

科学における直観

アインシュタイン(1961)は、次のような言葉を残しています。

体系的な理論的観点からは、経験的な科学の発展の過程は、連続的な帰納法のプロセスであると想像できる。…しかし、この視点は決して実際のプロセス全体を網羅しているわけではない。正確な科学の発展において直観と演繹的思考が果たす重要な役割をぼやかしているからだ

通常の科学的アプローチは、実験や観測・観察を繰り返し、得られた多くの事実と反証に基づいて帰納法的に理論を構築していきます。これは、心理学、社会学、生物学などでも同じアプローチを採用しています。

しかし、アインシュタインの専門領域であった(そして、著者の専門領域でもあった)理論物理学、特に素粒子や宇宙の領域では帰納法的アプローチが使えない場面が多くあります。なぜなら、実験も観測もできない領域に踏み込むからです。例えば、ブラックホールの実験は、ブラックホールを作れないためできません。

では、その実験も観測もできない領域における科学の推進力は何かというと、美学直観です。素粒子物理学者であれば、「理論はシンプルな方がいい」「対称性を満たさないのは気持ち悪い」「数式が複雑だと何か間違っている気がする」といった美学に共感してもらえるのではないでしょうか。これらに根拠はありません。しかし、この違和感こそが研究の原動力になっています。

そして、この違和感の解決策は、しばしば直観によって発見されています。例えば、ド・ブロイが「粒子の波動性」を発見したのは、「波動の粒子性があるなら、その逆があってもいいはず」という直観(判断)に基づいています。これは個人的な見解ですが、「研究者の一流と二流を分けるのは、直観力の有無でないか」と思います。いわゆる天才は、周りが思いもしなかった正解をいきなり掴み取り正解を説明するために理論を組み立てているように見えています。自分も含め二流以下は、その理論を辿るしかありません。

Miller(1992)は、そういった天才たちの記録を分析することで、美学や直観は科学研究に不可欠であると結論づけています。

本論文は、アンリ・ポアンカレとアルベルト・アインシュタインの科学的創造性を、彼らの科学的研究、内省的な証言、記録資料の分析を通して探求するものである。特にポアンカレについては、彼の心理学的プロファイルや未発表のアーカイブ資料などの新しい資料を用いて、二人の精神的イメージの様式に関する仮説を提案しています。ポアンカレの思考様式の認知モデルを提示し、ハーバート・サイモンが提案した発見モデルと比較する。1881年のポアンカレの最初の大発見に関する心理学的な研究は、これまで、ポアンカレが苦労した数学的な問題や、彼が得た結果がなぜそれほど重要なのかということを取り上げていませんでした。ポアンカレが苦労した問題を読者に感じてもらうために、2つの付録といくつかの脚注で関連する数学を概念的に展開しています。同様に、アインシュタインが悩んだある科学的な問題についても論じられており、以下のような結論が得られています。科学的創造性を探求するには、歴史的データに裏付けられた内省的考察が不可欠である。美学と直観は、明確に定義された方法で議論することができる概念であり、科学研究には不可欠である。

Miller(1992) “Scientific creativity: A comparative study of Henri Poincare and Albert Einstein”

参考

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