創造性の心理学②|類推思考

こんにちは、やまもとです。

創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。

前回は、創造性と知能指数の関係を明らかにした閾値理論と心理学的な検証が行われている連想理論について学びました。

しかし、連想理論はすべての研究者が賛同しているわけではなく、いくつかの理論では「類推(アナロジー)」または「類推思考(アナロジー思考)」を強調しています(例えば、Gick & Holyoak 1980; Harrington 1981; Hofstadter 1985Gick & Holyoak 1980; Harrington 1981; Hofstadter 1985)。

類推思考による発明

類推思考が強調されるのは、これまで人類の文明を大きく進歩させた洞察や発明の多くが類推思考によってもたらされたと見られるからです。類推思考の例に挙げられる発明には、次のようなものがあります。

しかし、リンク先のwikipediaの記事から分かるように、発明に至る発想の起源については「よく分からない」となっているものが多いです。これは、その類推と見られる逸話が、本人の事後的内省で作られた可能性、宣伝用に作られた可能性、伝記作家による創作の可能性などが考えられるためです。そのため、記憶の曖昧さ、主観性、自己宣伝、バイアスなどの問題が、どうしても拭えません。つまり、これらの発明に類推思考が関与したとは必ずしも言えません。

例えば、ニュートンが「林檎が木から落ちるのを見て、万有引力を思いついた」というエピソードも類推思考に当たりますが、これも後の創作である可能性が指摘されています。実際のところ、ニュートンはケプラーの惑星観測データを持っていた考えられていて、これを説明するために万有引力を考えついたというのが現実的な気がします。真実はもう誰にも分かりませんが、ニュートンは人嫌いだったそうなので、説明を面倒くさがって林檎のエピソードで誤魔化した、というのが妥当なのではないでしょうか。

類推思考の定義

類推思考は、「解釈やアプローチを変えて、古い概念を新しい概念に移転すること」と言えます。

実際、Weisberg (1995b)は「ほとんどの洞察は、最初の問題の解釈の仕方を変えたこと、あるいは問題に対する型破りなアプローチや表現を用いたことのいずれかから生じる」と示唆しています。また、Welling (2007) は、類推思考を「ある習慣的な文脈から別の革新的な文脈に概念構造を移すことを意味する」と定義しました。

また、Dunber(1995)は、科学的な類推を3つに分類しています。

  • 局所類推 :部分・部品が似ている
  • 領域類推 :組み合わせ・関係性・システムが、同種領域内で似ている
  • 長距離類推:組み合わせ・関係性・システムが、異種領域間で似ている

例えば、ダーウィン進化論を発想したことを考えてみましょう。ダーウィンは、少しずつ違うがよく似たフィンチの存在に気づきます(局所類推)。次に、すべてのフィンチは生活環境への適応によって違いが生じたと発想に至ります(領域類推)。最後に、この仕組みがフィンチだけでなく、全生物に当てはまるという進化論にたどり着きました(長距離類推)。つまり、進化システムが、フィンチという一生物種の領域を超えて、全生物の領域に当てはまると長距離類推したと考えられます。

さらに、Dunber(1997)は、科学者に限れば、類推能力が創造性のより正確な予測因子の一つであるという証拠を報告しています。

類推思考の特徴

Welling (2007) は、類推思考連想思考組み合わせ思考抽象化を比較し、類推思考の特徴として「類推は、新しい認知構造を必要としない点でユニークである」ことを見つけています。

例えば、連想思考は古い概念を素材として新しい認知構造を作る思考方法なのに対し、類推思考は古い認知構造を新しい素材に適用する思考方法です。そのため、新しい認知構造を必要としません。

一方、組み合わせ思考は、2つ以上の概念を1つのアイデアに融合することです。融合されたアイデアは、新しい概念構造を作るため、組み合わせ思考は類推思考と異なります。

また、Wellingは、抽象化を「あらゆる構造、規則性、パターン、組織を発見すること」と定義しました。この発見によって、抽象化は「新しい概念、新しいクラス、新しい情報を生み出す」ため、類推思考とは異なります。

最終的に、Wellingは、「いわゆる高い創造性は、組み合わせや抽象化の操作と関連しやすいが、日常的な創造性は主に応用や類推の操作から得られる。」と結論づけています。

認知操作の問題点

Creativity」(Runco, 2014)では、Welling(2007)が検討した類推思考を含む認知操作に対して以下の2つの問題点を挙げています。

  1. Welling(2007)の結論は、単純化しすぎである。
  2. 認知操作は、真の創造性ではない。

この問題点について、それぞれ見ていきます。

単純化しすぎ

例えば、産業革命を主導した自動織機は、高い創造性が発揮された事例と考えて良いでしょう。その発端が、ジョン・ケイの飛び杼(1733年頃)だったことはあまりにも有名ですが、これだけで自動織機が創造されたわけではありません。実際、梳き上げ・練紡・紡糸工程を自動化したワイアット・ポールの紡績機(1738年)、回転の力を利用したハーグリーブズのジェニー紡績機(1762年)、水力を利用したアークライトの力織機(1768年)、ジェニー紡績機と力織機を組み合わせたクロムプトンのミュール(1779年)、蒸気機関を動力として大量生産を可能したカートライトの力織機(1785年)、と数々の発明を経ています(参考:イノベーション・マネジメント入門)。

この例で言えば、ジョン・ケイやハーグリーブズには出来事からの類推と見られるエピソードが残っていますが、多くは先人の発明からの類推・応用・組み合わせです。結果的に高い創造性が発揮されたのは、小さな創造性の積み重ねがあったからと考えられます。このように、高い創造性も類推が関連することもあるので、Wellingの「高い創造性は組み合わせや抽象化と関連する(=類推はほとんど関連しない)」という結論は単純化しすぎに見えます。

実際、Wellingも「『多くの場合、高い創造性は単一の認知操作ではなく、長い期間、発見の過程でいくつもの認知操作を施された結果である』という事実によって、いくつかの矛盾した調査結果は説明できる」と述べています。

真の創造性ではない

類推思考・連想思考・組み合わせ思考・抽象化と言った認知操作は、常に既存知識に依存しているため、完全に新しい知識を創造することはできません。

そのため、これら認知操作によって創出された知識は、真の創造性の結果ではないという批判があります。

じゃあ、真の創造性とは何か?については、学習を進めると分かるようです。

まとめ

  • 類推による創造性が発揮された事例は多いが、後付けの可能性が高く、事実かどうかは疑わしい
  • 類推思考とは、解釈やアプローチを変えて、古い概念を新しい概念に移すこと
  • 類推能力は、創造性の予測因子の一つになるという証拠がある
  • 類推思考の特徴は、新しい認知構造を必要としない点

参考

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