こんにちは。やまもとです。
前回、Kellerの顧客ベースのブランド・エクイティとその原因であるブランド知識の構造について記事にしました。これによって「ブランドがなぜ資産価値を持つのか?」は分かりましたが、「ブランドに資産価値を持たせるにはどうすれば良いか?」(強いブランドの作り方)はまだ分からないままです。
Kellerは、顧客ベースのブランド・エクイティを提唱した後、このテーマについて研究し、ブランドが強化されていく4つステップを提唱しました。そのステップを構造化したものが、ブランド・ビルティング・ブロック(あるいは、顧客ベース・ブランド・エクイティ・ピラミッド)です。(Keller, 2001; Keller, 2019 )
まずは、ブランド構築のための4つのステップを見ていきます。
ブランド構築の4ステップ
ブランド・ビルディング・ブロックの前に、まずKellerが提唱したブランド構築の4ステップを見てみましょう。(Keller, 2001 )
ブランド構築ステップ | 説明 |
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①ブランド・アイデンティティ | ニーズや特定の製品クラスとともにブランドを想起させ、顧客にブランドをしっかりと識別させる、ブランド認知ステップ。 |
②ブランド・ミーニング | 有形無形のブランド連想を戦略的に結びつけ、顧客の頭の中にブランドの意味をしっかりと確立する、ブランド連想ステップ。 |
③ブランド・レスポンス | ブランド・アイデンティティとブランド・ミーニングに対する顧客の(ポジティブな)反応を引き出す、顧客評価ステップ。 |
④ブランド・リレーション | ブランド・レスポンスを顧客-ブランド間の強力で活発なロイヤルティに変換する、顧客忠誠ステップ。 |
この4つのステップに順序があるのは、明らかでしょう。顧客がブランドを識別できなければ連想もできないので、意味付けしても意味がありません。つまり、ブランド・アイデンティティがないまま、ブランド・ミーニングの施策を行っても意味がありません。ブランド・レスポンスは、ブランド・アイデンティティとブランド・ミーニングに対する顧客の反応なので、これら2つが確立できていないと意味がありません。ブランド・リレーションは、ブランド・レスポンスをロイヤルティに変換するステップなので、ブランド・レスポンスがなければ意味がありません。従って、①〜④の要素は、梯子のように、順番に構築していく必要があります。
ブランド・ビルディング・ブロック
前述の通り、Kellerの提唱するブランド構築は4つ段階を順番に積み上げていく必要がありました。これをピラミッド型で表現したものが、ブランド・ビルディング・ブロックです。顧客ベースのブランド・エクイティは、下層ブロックから積み上げていきピラミッドが完成したとき構築されたと考えます。(Keller, 2001 )
この図のポイントは、②ブランド・ミーニングと③ブランド・レスポンスには、理性で考える合理的ルートと感情で感じる情緒的ルートが存在することです。どちらか片方だけだとピラミッド型にならないので、この図は両ルートが必要であることを表しています。
以下では、ブランド構築ステップごとに見ていくことにします。
①ブランド・アイデンティティ
第一段階はブランド認知の段階で、「どのようにブランドを認知してもらいたいか」というブランド・アイデンティティを確立することが求められます。しかし、どんなブランド・アイデンティティでも良いわけではなく、良いブランド・アイデンティティには「ブランド・セイリエンス(突出性)」が含まれています。なぜなら、ブランド・アイデンティティの突出は、顧客のトップ・オブ・マインド(第一再生)になるための必要条件だからです。もちろん、トップ・オブ・マインドになるには、ブランド再認の段階から、ブランド再生の段階へ到達する必要があります。(Keller, 2001 )
Keller(2001) によれば、ブランド・セイリエンスには3つの機能があります。
- ブランド・セイリエンスは、ブランド連想の形成と強さに影響する。
- ブランド・セイリエンスは、顧客の想起集合に含まれる可能性を高める。
- ブランド・セイリエンスは、関与水準の低い顧客に購入される可能性を高める。
つまり、特徴が明確であるほど、思い出しやすくなるためブランド連想が強くなり、購入・消費の候補に挙がりやすくなり、目立つために深く情報処理をしない顧客に買われやすくなります。
高いブランド・セイリエンスを創造するには、ブランド・アイデンティティの深さと広さが指標になります。ブランド・アイデンティの深さとは、顧客のブランド再認とブランド再生の容易さのことです。ブランド・アイデンティティの広さとは、顧客のブランド再認とブランド再生が起こる状況の多様さのことです。つまり、多くの状況で容易に思い出されるブランドほど、ブランド・セイリエンスが高いということになります。言い換えると、顧客の中のマインド・シェアが高く、トップ・オブ・マインドに近いほど、ブランド・セイリエンスが高いと言えます。
ただし、ブランド・セイリエンスは、ブランド・エクイティの必要条件ではありますが、十分条件ではありません。
②ブランド・ミーニング
第二段階はブランド連想の段階で、顧客の頭の中でブランドの意味づけ(ブランド・ミーニング)が行われる必要があります。ブランドの意味づけは、大きく2つの考慮事項に分けられます。1つは機能や性能に関する事項で、もう1つは抽象的なイメージに関する事項です。そこで、ブランド・ビルディング・ブロックでは、ブランド・ミーニングを、性能に関するブランド・パフォーマンス(性能)とイメージに関するブランド・イメージの2つのサブカテゴリに分けています。(Keller, 2001 )
以下では、2つのサブカテゴリごとに見ていきましょう。
ブランド・パフォーマンス
ブランド・パフォーマンスは、製品自体の属性や機能的価値に関するサブカテゴリです。Kellerが提唱したブランド知識の中の「製品関連の属性」「価格」「機能的便益」に相当します。製品やサービスが消費者のニーズやウォンツを完全に満たすことは、結局のところ、マーケティングがうまくいく前提条件になります。(Keller, 2001 )
製品やサービスの属性や便益はその製品やサービスによって様々ですが、それでも5つの重要なタイプに分類することができます。(Keller, 2001 )
属性タイプ | 説明 |
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主な特徴と二次的機能 | 「使用の難易度」や「得られる特別な機能」に関する消費者の信念 |
製品の信頼性・耐久性・保守性 | 信頼性:再購入までの性能の一貫性、耐久性:期待された製品寿命、保守性:修復の簡便さ |
サービスの有効性・効率性・共感 | 有効性:ブランドに対する顧客の満足度、効率性:効果が出るまでのスピードや反応速度、共感:サービス提供者への信頼、安心、興味深さ |
スタイルとデザイン | 大きさ、形、素材、色などの美的な機能 |
価格 | 価格の妥当性やブランドのレベル感 |
つまりは、ブランド・パフォーマンスとは、製品やサービスを構成する「素材」の価値を超えた部分(付加価値)のことです。
ブランド・イメージ
ブランド・イメージは、顧客の心理的・社会的ニーズを満たす抽象的なイメージのことで、無形のブランド価値です。ブランド知識の中では、価格を除く「非製品関連属性」や「象徴的便益」のことを指します。ブランド・イメージは、大きく4つに分類できます。(Keller, 2001 )
ブランド・イメージの種類 | 説明 |
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ユーザー・プロファイル | ブランドを使用する人や組織のタイプ。人口統計的属性や心理的属性で説明されたり、「ポピュラー」「マーケット・リーダー」といった表現をされたりする。 |
購入状況・利用状況 | 購入場所(デパート等)・購入店(ユニクロ等)・購入特典、使用頻度(月1回等)・使用場所(屋内等)・活動タイプ(冠婚葬祭等)などが連想される |
性格と価値観 | より豊かな使用イメージのこと。①誠意(現実的・正直・健康的・陽気など)、②興奮(大胆・元気・創造的・最先端など)、③能力(信頼性・知的・成功など)、④洗練(上流階級・魅力など)、⑤頑丈(アウトドア・タフさなど)の5つの要素に分けられる。 |
歴史・遺産・経験 | ブランドの過去や歴史的イベントのこと。個人的な体験やエピソード、あるいは知人や家族の体験や振る舞いも含まれる。 |
マーケティング活動によって消費者の中に形成されたブランド・イメージは、必ずしも良いものとは限りません。ブランド知識にもあるように、ブランド・イメージ(またはブランド連想)を評価する軸は、次の3つがあります。(Keller, 2001 )
- 強さ・・・ブランド連想で特定されたブランドは、どのくらい強いか?
- 好ましさ・・・連想されたイメージは、顧客にとってどのくらい重要で価値あるものか?
- ユニークさ・・・ブランド連想で特定されたブランドは、どのくらいはっきりしているか?
つまり、強く・好ましく・ユニークなブランド・イメージを作ることが、マーケティング活動の目標になります。
次は、第3段階の「ブランド・レスポンス」について見ていきます。
③ブランド・レスポンス
ブランド・レスポンスは、製品・サービスのブランドについて消費者が考えたり、感じたりするもののことです。ブランド・レスポンスは、ブランド・ジャッジメントとブランド・フィーリングに区別できますが、これは端的に言うと「頭」と「心」に分けられるということです。(Keller, 2001 )
極端に言えば、ブランド・レスポンスは消費者のポジティブな反応を引き出すかということに尽きます。ただし、そのためには、消費者の記憶から簡単に引き出せること、またその準備ができていることも重要になります。(Keller, 2001 )
ブランド・ジャッジメント
ブランド・ジャッジメントは、ブランドに対する消費者の個人的な意見や評価のことです。消費者は、ブランド・パフォーマンスとブランド・イメージに基づいて、自らの個人的な意見を作り出します。そのため、意見は多種多様になりますが、強いブランドを構築するという観点では、次の4つのポイントが重要になります。(Keller, 2001 )
強いブランドの観点 | 説明 |
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ブランドの品質 | 品質に対する消費者の価値感や満足感のこと。知覚品質(顧客が知覚できる品質)が最も重要になる。 |
ブランドの信用 | ブランドを提供する企業や組織への信用(credibility)のこと。企業の「知覚専門性」「顧客指向性」「好感度」の3要素で構成される。 |
ブランドの検討 | 消費者が購入を検討する想起集合の中に入っていること。 |
ブランドの優越 | そのブランドがユニークで、他のブランドより良いものであると消費者が考えること。 |
ブランド・フィーリング
ブランド・フィーリングは、ブランドに対する顧客の感情的な反応のことです。ブランド・フィーリングには、社会的な通貨(個人の信用、知名度、ステータスなど)も含まれます。強いブランドの構築のためには、6つの重要な感情の種類があります。(Keller, 2001 )
重要な感情 | 説明 |
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暖かさ | 落ち着きや平和的な感覚、感傷、心温かさ、愛情深さといった宥められる感情のこと。 |
楽しさ | 面白さや気軽さ、嬉しさ、遊び心、陽気さといった明るい感情のこと。 |
興奮 | 消費者にエネルギーを与え、生きる実感をもたらす、格好良さやセクシーさといった感覚のこと |
安心 | 心配をなく、安心安全や快適さ、自信といった感情のこと。 |
社会的承認 | ブランドを通して、他者から好意的に見られること。 |
自己尊重 | 消費者が、誇りや達成感、充実感を感じること。 |
前半の3つは体験的・即時的な感情で一瞬で感情を引き出しますが、後半の3つはより個人的・永続的な感情でじわじわと効いてきます。
最後に、第4段階である「ブランド・リレーション」を見ていきましょう。
④ブランド・リレーション
最後のブランド・リレーションの段階は、顧客がブランドに対してもつ関係性や識別レベルに注目します。ブランドと顧客の強い関係性をブランド・レゾナンス(共鳴)と言い、顧客がブランドとシンクロ(同期)している状態を指します。(Keller, 2001 )
ブランド・レゾナンスは、顧客とブランドの心理的な結びつきのことですが、4つのカテゴリに分解することができます。
レゾナンス・カテゴリ | 説明 |
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(振る舞い)ロイヤルティ | ブランド関連商品の購買頻度と1回あたりの購入量のこと。 |
(態度)アタッチメント | 単なる好意以上の特別な何かとしてブランドを見ている態度のこと。 |
(感覚)コミュニティ | コミュニティに所属し、それに意味を見出している感覚のこと。 |
(活動)エンゲージメント | 購買行動を超えて、ブランドに対して顧客が自身の時間・エネルギー・お金等の資源を投資する意思を持っている状態のこと。 |
ロイヤルティだけは、ついで買いかも知れず、レゾナンス(共鳴)しているとは言えません。レゾナンスには、アタッチメント(愛着)が必要になります。アタッチメントした顧客は、お気に入りのブランドとして「愛している」と言ったり、「ちょっとした喜び」を期待していたりします。コミュニティ感は、所属していることの喜びで、親族的つながりや所属のつながりを顧客が感じていると、社会現象になることがあります。エンゲージメントはロイヤルティが強く肯定的な場合のことで、エンゲージメントが高い顧客は、ウェブサイトを見たり、メンバーシップに加入したり、非公式情報を集めようとしたり、チャットで情報交換をしたりします。(Keller, 2001 )
以上の4要素は、ブランド・レゾナンスの「深さ」と「頻度」を表しています。アタッチメントとコミュニティ感は、心理的な要素で、レゾナンスの「深さ」を表しています。ロイヤルティとエンゲージメントは、購買と非購買の行動的な要素で、レゾナンスの「頻度」を表しています。(Keller, 2001 )
だいぶ長くなってしまいましたが、Kellerの主張したブランド・エクイティを構築するまでに必要な要素「ブランド・ビルディング・ブロック」を見てきました。
ブランド・ビルディング・ブロックは、ブランド構築の4段階(アイデンティティ、ミーニング、レスポンス、リレーション)に基づいて6個のブロックから構成され、6個のブロックのそれぞれにも下位要素が存在しました。下位要素で表したブランド・ビルディング・ブロックは、次のようになります。
これを下層から順番に積み上げていき、ロイヤルティだけでなく、アタッチメントやコミュニティ、エンゲージメントまで高められた時、ブランド・エクイティが構築できたと考えられます。ただし、中間段階では、合理的ルートと情緒的ルートが存在し、理性と感情の両面でブランド価値を高めなければなりません。でも、これは一朝一夕にできないでしょうね・・・。
ということで、「ブランド・エクイティを作るには何が必要なのか?」の答えは、「ブランド・ビルディング・ブロックを下層から地道に積み上げること」と言えそうです。