経営組織論⑥|組織のコンティンジェンシー理論の成り立ち

お久しぶりです。やまもとです。

以前、ヒトに関する経営理論を振り返っていましたが、続きを書いてみたいと思います。と、その前に、以前の記事を簡単に振り返ってみましょう。

科学的管理法は、経営者と労働者の双方に公平な賃金設定をするために、課業(タスク)という考え方を導入し、計画と実行の分離を実現しました。しかし、動作や時間で課業を定義し、人間の主観的な状況を無視していることが問題となりました。そこで、発展中だった産業心理学の考え取り入れた人事管理論が考え出され、適材適所の考え方や独立機能としての人事部の必要性が提唱されました。さらに、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた実験では、従業員の感情や非公式組織の集団規範が生産高に決定的に効いていることが見つかり、人間関係論が提唱されました。人間関係論は、人事管理論の孤立的な人間観を覆し、労働においても社会性や人間関係を考慮に入れる必要性を指摘しました。一方で、人間関係論は仕事の側面を軽視しているという批判がなされました。行動科学的組織論は、当時流行していた行動科学とマズローの自己実現的人間観を取り入れ、従業員個人と組織の統合の必要性を提唱しました。

これらの組織論は「あるべき組織像」から演繹的に導かれた画一的な設計原則は提供しますが、「企業の複雑な組織構造をどのように設計するのか」といった経営者が直面する実践的な設計課題に役立つものではありませんでした(三浦, 2022)。組織論が実践の役に立たないため、1950-60年代の実践的な組織構造の設計には、科学的管理法に基づく「分業の原則」や「専門化の原則」などの素朴な設計原則が用いられていました(三浦, 2022)。実際には、所属する業界が異なれば事業の条件が異なり、従来の組織論が提唱する画一的な組織構造が適切とは限りません。また、業界内であっても、競合他社と同じ組織構造では組織による競争優位が得られず、組織が企業業績に寄与しません。そのため、実践的な組織設計には、事業環境の経済的・社会的条件や競合他社から受ける競争圧力などの不確実性も考慮する必要がありました。

ローレンスとローシュが提唱したコンティンジェンシー理論(条件適合理論、状況適合理論)は、基本的着想「組織構造や組織の成果は、それらが置かれている環境との適合度により規定される(Donaldson, 2001)」のもとに展開され、実践的な組織設計原則として「環境との適合(フィット)」を提唱しました。これは、事業環境ごとに異なる「あるべき組織像」が存在することを意味し、唯一の理想的な組織像を前提としていた従来の組織論とは異なります。

「フィット」の概念は、現代ではもはや当然視され、特別な意味はありません。しかし、今や常識となった概念を提唱した理論として、コンティンジェンシー理論は重要です。そこで、今回は、三浦(2022)のレビューをもとにコンティンジェンシー理論を振り返ってみたいと思います。

歴史

コンティンジェンシー理論の原型

コンティンジェンシー理論の原型は、1950-60年代に英国タビストック研究所が行なった一連の組織研究にあるとされています(三浦, 2022; 岸田, 1980)。タビストック研究所は、1947年に英国公的研究機関として設立され、英国の戦後復興に貢献するためにさまざまな組織研究を行いました。特に、効果が未知数であった人間関係論の考え方を実践投入した研究が特徴的でした。一連のタビストック研究の一環として、軍事技術の民生転用による技術の急速な変化に対して英国電機産業の生き残ることを目的として、バーンズとストーカーの実態調査が行われました(三浦, 2022)。

バーンズとストーカーは、タビストック研究所の支援を受けて、「技術革新を促進する管理方法や組織構造は、おそらく大量生産の工程を管理する手法や組織構造とは大きく異なっている(三浦, 2022)」という予想を検証するために、英国の各種産業で成功を収めている企業の管理手法と組織構造の実態調査を行いました。調査の結果(表1)で、バーンズとストーカーが強調したのは、事業環境と組織構造の関係でした。既に市場や技術が確立された事業環境では、大量生産工程の管理が中心的な家業となるため、組織構造は生産効率を重視した「機械的組織(Mechanistic System)」により近い構造となり、絶えず技術革新が必要な事業環境では、製品開発や市場開拓が中心的な課業となるため、組織構造は成員の創造性や成員間のコミュニケーションを重視した「有機的組織(Organic System)」により近い構造となっていました(三浦, 2022)。

表1、バーンズとストーカーの実態調査(1961)の調査結果、モーガン(1997)が作成し、三浦(2022)が翻訳したものを参考に、筆者が作成した。

ウッドワード(1965)は、より精巧な実態調査を行い、課業特性に見合った生産技術を導入し、それを円滑に運営するための構造特性を兼ね備えた組織が、より高い成果をあげていると結論づけました(三浦, 2022)。例えば、課業特性が小口品バッチ生産の場合は、20~30名の現業者を管理する構造特性の企業が成功し、課業特性が量産品プロセス生産の場合は、11~20名の現業者を管理する構造特性の企業が成功していました。この結果は、組織構造設計の問題だけでなく、もっと広範に生産性や利益率の向上といった企業経営の問題からも重要であることを意味していました。

コンティンジェンシー理論の提唱

米国のローレンスとローシュは、ウッドワードの研究をヒントを得て、英国の組織研究を、経営学の問題として組織構造の設計問題に応用しました。彼らは、構造設計問題を「職務の分化(Differentiation)」と「職務間の統合(Integration)」の組み合わせ問題と定義し、その組み合わせと組織の成果との関連性を定量的に検証しました(三浦, 2022)。

例えば、彼らは、ウッドワードの調査結果で判明した「事業環境−組織構造−組織成果」の関連性のうち、事業環境を固定して「組織構造−組織成果」の関係を調べるために、化学製品製造業6社を調査しました。この業界は、技術革新の影響で生産技術も市場も大きく変わり、事業環境の不確実性が課業の不確実性を高め、想定外の問題が起きやすく、職務が増設される傾向にありました。次に、各社の組織を課業特性に応じて4組織(基礎研究・製品開発・製造・販売)に分類し、職務分化度を6指標(統制の幅・組織階層数・評価頻度・評価方法の正確さ・公的ルール制定の程度・評価方法の細かさ)で測定し、職務間の相関係数で職務間統合度を評価しました。調査の結果、職務分化の程度・職務間統合の程度・コンフリクトへの対応モードの豊富さが高い次元で適合していることが、高い組織の成果に結びついていることが示唆されました(表2)。

表2.ローレンスとローシュの実態調査(1967)の調査結果、三浦(2022)が作成したものを参考に、筆者が作成した。

このような結果に基づいて、ローレンスとローシュは

  • 増え続ける課業の不確実性に対応して職務の分化を進めるだけでは、組織レベルの成果を高めることはできない
  • 組織レベルの成果を高めるには、職務の分化と同時に、より綿密に職務間を統合することが必要である

と主張し、従来の組織論と区別するために、これを「組織のコンティンジェンシー理論」と呼びました。

コンティンジェンシー理論の展開

コンティンジェンシー理論は、リーダーシップ論(Fiedler, 1967)や動機づけ問題などのミクロレベルな組織行動論へ展開されて行きました。しかし、組織構造設計の問題に限定すれば、主にフィットのダイナミック・モデルとマルチ・モデルに展開されていきました(三浦, 2022)。

ダイナミック・モデルは、時間を加味したコンティンジェンシー理論です。時間を加味すると、事業環境にフィットしていた組織構造は、そのうち事業環境の変化によってミス・フィット状態になります。ミス・フィット状態の組織はそのままでは満足な成果を上げられないので、経営は事業環境に合わせて戦略を転換し、現行の構造を変革してフィット状態に移行しようとします。そして、再度フィット状態になった組織は、満足な成果を上げられるようになります。このような、時間経過に伴った構造の適応プロセスが、ダイナミック・モデルの基本的着想です。

ダイナミック・モデルでは、戦略転換が組織適応のシグナルとなるため、岸田(1980)は「戦略」を含めた「環境−戦略−組織構造−組織プロセス」の適合をコンティンジェンシー理論の帰結の1つと述べています。戦略によって組織構造が変革されることは、経営歴史家チャンドラー(1960)の「組織は戦略に従う」という指摘と一致しています。後にGE社の社長となったルメルト(1974)は、米国企業が多角化戦略へと舵を切り、その戦略を効果的に実行するために、事業部制組織への構造変革を成し遂げたことを実証しています(三浦, 2022)。

マルチ・モデルは、組織構造以外の要素も加味した多元的フィット(マルチ・フィット)を考慮するコンティンジェンシー理論です。マルチ・フィット・モデルは、組織構造だけでなく、戦略や技術、人的資源や組織文化も環境に適合した方が、より高い組織の成果が得られるのではないかという考え方に基づいています。例えば、マッキンゼーの7S、オオウチのセオリーZ、エクセレント・カンパニーの8Cといったコンサルティングの組織分析手法は、マルチ・フィットの考え方に基づいています。

しかしながら、マルチ・フィット・モデルと組織の成果の関連性は十分に検証されていません(三浦, 2022)。数少ない実証研究の中で、ヴァン・デ・ヴェンとドレイジン(1985)は、作業ユニットレベルの成果は、環境-組織構造のフィットよりも、組織形態を構成する要素間の整合性(マルチ・フィット)の方が説明力が高いことを示しました。ただし、作業ユニットレベルの成果の向上が、組織レベルの成果の向上につながるかどうかは、更なる検討を要するとしています。

批判

組織論の一時代を築いたコンティンジェンシー理論にも、他の組織論から厳しい批判にさらされました。三浦(2022)には、組織制度論からの批判と意思決定論からの批判が紹介されています。

組織制度論では、「組織構造とは、組織が埋め込まれている経済的・社会的・文化的な要因を反映した安定的な体系」と想定されていますが、コンティンジェンシー理論では事業環境の不確実性以外を組織構造の要因に考慮していません。(三浦, 2022)。例えば、企業の管理部門の多くは、国家が定めた法体系に基づいて設計されます。人事部門は労働基準法、財務部門は会計法や税法に準じている必要があります。これらは、「法律に従って組織が設計される」のであって、コンティンジェンシー理論の言う「課業の不確実性を抑制するために組織が設計される」わけではありません(三浦, 2022)。このことから、組織制度論の視点では、コンティンジェンシー理論は現実の組織構造を部分的に説明しているに過ぎないという批判があります。

意思決定論では、人間の意思決定を単位として組織を考えるため「誰がフィットを判断するのか」「誰がミス・フィットを認識し、誰が構造変革に着手するのか」が問題になりますが、コンティンジェンシー理論はこれらをうまく説明できません(三浦, 2022)。例えば、ダイナミック・フィット・モデルでは環境と構造のミス・フィットが戦略転換を(受動的に)発動することを前提としていますが、実際の組織ではミス・フィットを認識していなくても意思決定を通じて(能動的に)戦略転換を行うことがあります。また、コンティンジェンシー理論は、ミス・フィットからフィットへの移行プロセスも説明しておらず、ミス・フィットから抜け出せない理由も説明できていません。結局、コンティンジェンシー理論は、環境と組織構造のフィット状態をうまく説明している理論と考えられます。(物理学で言えば、平衡状態は説明できても非平衡状態は説明できない熱力学や統計物理学に似ていると思います)

このような批判を基にして、三浦(2022)は、組織のコンティンジェンシー理論の限界を、①「現実の組織=組織構造」という前提、②組織構造の設計課題に問題が限定されたこと、③「現実の組織」の問題認識や意思決定といった重要課題に注意が向かなかったこと、の3つを挙げています。「現実の組織」を決定する要因には、組織構造以外にも問題認識や意思決定といった多くの変数があります。しかし、当時の米国経営学が構造設計課題に注目していたため、コンティンジェンシー理論は組織構造以外の変数を捨ててしまいました。例えば、ミス・フィットから抜け出せない組織は、自然に淘汰されると考え、解決すべき実践的課題とは考えられませんでした。結果として、多くの研究者が組織のコンティンジェンシー理論から離れていくことになりました。

功績

多くの批判を受けたとは言え、組織のコンティンジェンシー理論には、①「現実の組織」に目を向けたこと、②「組織の在り方は多種多様である」という認識を作ったこと、③「フィット」概念により組織構造設計課題を部分的に解決したこと、という功績があります(三浦, 2022)。

組織のコンティンジェンシー理論以前の組織論は、「理想の組織」を対象にして「分業の原則」などの規範論を展開していました。しかし、コンティンジェンシー理論以降では、バーンズとストーカーの実態調査のように「現実の組織」を分析することに研究者の目を向けさせることになりました。

また、組織のコンティンジェンシー理論は、「現実の組織」を対象としたことで、組織の成果を向上するのは、唯一絶対の理想の組織形態ではなく、環境に適合した多種多様な組織形態であるという認識を作り上げました。この認識は、限定合理性に基づく意思決定や組織行動論の認識と合致し、組織文化論などの後続の組織論の土台となりました。

そして、「フィット」概念は、少なくとも「組織の良い状態」を描くことに成功しました。これにより、組織構造設計課題に対して、問題認識や意思決定などの介入問題、フィットを実現するプロセス問題、といった新たな問題が提起され、その後の組織論の発展の礎になりました。

まとめ

今回は、組織のコンティンジェンシー理論(あるいは、条件適合理論、状況適合理論)について、三浦(2022)を参考にして、簡単にその成り立ちをまとめてみました。

コンティンジェンシー理論は、1970-80年代に一時代を築いた理論のため、他にも多くの研究があります。例えば、知識創造企業で有名な野中郁次郎は、統合条件適合理論という理論を研究していたようです。その後の研究に多大な影響があった理論として、コンティンジェンシー理論の重要性は今後も揺るがないでしょう。

また、「組織の多様性」や「フィット」といったコンティンジェンシー理論の基本的な考え方は、現在では実践の場面でも当然のように使われています。これを踏まえると、コンティンジェンシー理論は、研究だけでなく、実践にも定着したという意味でも重要と言えるでしょう。

しかし、考え方が当然視されるようになってしまったために、現在ではコンティンジェンシー理論の名前を聞かなくなってしまいました。生成AIなどの技術革新によって環境変化が激しい現在、変わりゆく事業環境に組織構造をいかに適合させていくかは重要な経営課題の1つです。実は、今こそコンティンジェンシー理論が必要な時代なのです。

多くの研究が行われたコンティンジェンシー理論には、現在にはあまり伝わっていない研究もあることでしょう。今後、そういった論文を追記していこうと思います。

参考文献

  1. 三浦雅洋, & ミウラマサヒロ. (2022). 組織のコンティンジェンシー理論はどのような役割を果たしたか?: 組織理論の展開からのレビュー (Doctoral dissertation, Kokushikan University Library and Information Commons).
  2. 岸田民樹. (1980, September). 経営組織と環境適応: 状況適合理論の展開 (現代経営学の基本問題). In 經營學論集 50 (pp. 236-240). 日本経営学会.

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