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経営組織論⑤|組織行動論の成り立ち

こんにちは、やまもとです。

最近、「人材版伊藤レポート」(経済産業省)のおかげで、人的資本経営が注目されています。そこで、これまで提唱されたヒトに関する経営理論を振り返っています。

科学的管理法は、経営者と労働者の双方に公平な賃金設定をするために、課業(タスク)という考え方を導入し、計画と実行の分離を実現しました。しかし、動作や時間で課業を定義し、人間の主観的な状況を無視していることが問題となりました。

そこで、発展中だった産業心理学の考え取り入れた人事管理論が考え出され、適材適所の考え方や独立機能としての人事部の必要性が提唱されました。

さらに、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた実験では、従業員の感情や非公式組織の集団規範が生産高に決定的に効いていることが見つかり、人間関係論が提唱されました。

人間関係論は、人事管理論の孤立的な人間観を覆し、労働においても社会性や人間関係を考慮に入れる必要性を指摘しました。一方で、人間関係論は仕事の側面を軽視しているという批判がなされました。

行動科学的組織論

1950〜1960年代の米国では行動科学が一大ブームとなっており、組織論についても行動科学に基づいた行動科学的組織論の研究がなされるようになっていきました。これは、科学的管理法や人事管理論が重視した合理性と人間関係論が重視した人間性を統合し、合理性と人間性が両立する組織のあるべき姿を描こうとするものでした。これらは、現在では組織行動論と呼ばれています。

歴史

行動科学的組織論は、曖昧だった人間性の理解にマズローの欲求階層性理論を用いました。そのため、行動科学的組織論は、欲求階層性理論を起源として、以下のように発展していきました。

行動科学的組織論の歴史

  • 1943年、マズローが欲求階層性理論を論文”A Theory of Human Motivation”で提唱する。階層化されたのは、(1)生理的欲求、(2)安全の欲求、(3)所属と愛の欲求、(4)承認の欲求、(5)自己実現の欲求の5つの基本的欲求。(三島,2009)
  • 1955年、マズローが基本的欲求を欠乏欲求成長欲求に分類する。欠乏欲求は、生理・安全・所属・承認の4つ。成長欲求は、自己実現の1つとした。(三島,2009)
  • 1957年、アージリスが「パーソナリティと組織」でパーソナリティと公式組織の対立に対する順応行動として非公式組織を説明する。
  • 1959年、マズローが成長欲求の源泉としての存在価値の9つを提唱する。(三島,2009)
  • 1959年、ハーズバーグが職務態度の原因として16個の要因を特定し、職務満足を生み出す要因と職務不満を生み出す要因が異なることを発見する。(山口, 1972)
  • 1961年、リッカートがモチベーションを4種類(自我動機、安定動機、好奇心・創造性・新体験の欲求、経済的動機)に分類し、提唱する。それまでは、経済的動機しか考えられていなかった。(山口, 1972)
  • 1962年、アージリスが「対人能力」で、ピラミッド型組織観が対人能力の減少を招くことが公式組織の不具合を生み出してしまうと説明する
  • 1964年、アージリスが心理的エネルギーを提唱し、組織中核活動を行うことで「個人と組織の統合」が組織の要諦として提唱する。
  • 1966年、ハーズバーグが「動機付け-衛生要因仮説」を提唱する。動機付け要因は職務構造の要因で、(1)達成、(2)評価、(3)労働自体、(4)責任、(5)昇任の5つ。衛生要因は職務環境の要因で、(1)管理方式、(2)仕事上の監督関係、(3)仕事以外の監督関係、(4)物的報酬・給与、(5)労働条件の5つ。(山口, 1972)
  • 1967年、マズローが成長欲求の動機の源泉としての存在価値を15個を抽出し、B価値と名づける。(三島,2009)
  • 1967年、リッカートが、社会科学の手法を用いて測定フレームワークに媒介変数を導入し、「原因変数-媒介変数-結果変数」の概念的フレームワークを提唱し、動機は媒介変数とした。(山口, 1972)

人間観

マズローの欲求階層性理論に基づいているため、行動科学的組織論における個人は自己実現欲求を持つ存在「自己実現人モデル」と考えられました。「自己実現人モデル」は、科学的管理法の「経済人モデル」や人間関係論の「社会人モデル」と対比して、図1のような違いがあります。

図1.人間観モデルの違い

科学的管理法は課業の定量化を通して「仕事をした分の給料がきちんと支払われる」という経済的安全性を確保し、人事管理論は産業心理学の測定法を導入することで人間の内面を考慮した主観的安全性を確保することを目指しました。このことから、科学的管理法と人事管理論は従業員の安全の欲求を充足させることに注目していたと言えるでしょう。

人間関係論は、ホーソン実験の結果から「生産性に影響していたのは作業集団内の人間関係」という事実を発見し、作業集団(非公式組織)に所属し、その中で認められることが重要だと主張しました。このことから、人間関係論は所属の欲求と尊重の欲求を充足すること目指した理論と考えられるのではないでしょうか。

このように、従来の組織論は「個人の自己実現を組織が阻害している」ことを無視してきました。しかし、高度成長期を経て、人々の生活が豊かになってきていた1960年代の米国では、労働組合との衝突など従来の組織論では上手く説明できなくなりました。そこで、行動科学的組織論では「人間は自己実現を目指すもの」という自己実現人モデルを前提とすることで、組織論の再構築を行なっていきました。

アージリスの理論

アージリスは、初期の三部作によって、非公式組織問題の原因が「個人と組織の衝突」にあることを見抜き、「個人と組織の統合」を実現する方法を提唱しました。

アージリスは、当時の企業が、個人の自己実現欲求を否定するピラミッド型組織に対し、自分が認められる居場所として社員によって非公式組織が作られ、非公式組織が公式組織に対抗行動をとることによって、公式組織の制度やルールがより厳格化していく悪循環に陥っていると考えたのです。

これに対して、個人の自己実現と組織の目的が同じ方向を向いている状態を「個人と組織の統合」された状態と考え、公式組織は組織中核活動(組織目的の達成、外的環境への適応、内的体系の維持)をバランスよく実施することが必要と考えました。「組織目的の達成」は科学的管理法を、「内的体系の維持」は人間関係論をベースとしており、これらを統合した理論を提唱しました。

詳細は、下記の記事に書いたので、ご参照ください。

組織行動論②|アージリスの組織論

マグレガーの理論

マグレガーは、組織がピラミッド構造を作ってしまう原因を、「本来、人間は仕事を回避したい」という前提に求め、これを「X理論」と名づけました。仕事をしたくない人間を働かせるためには懲罰が必要であり、懲罰を正当化するには権限が必要であり、権限を正当化するためには階層が必要であるとして、古典的組織(ピラミッド型組織)の成り立ちを説明しました。

しかし、自己実現人は「自己実現のために何かしたい」と考えているため、仕事をすることが自己実現につながるのであれば積極的に仕事をしようとし、X理論の前提が成り立ちません。そこで、マグレガーは「本来、人間は仕事を嫌わない」という前提を「Y理論」と名づけ、X理論と区別しました。

Y理論では、人は主体的に仕事をするので、その人がしたい仕事と組織の進みたい方向を一致させることが重要になります。マグレガーは、この個人目的と組織目的の統合を「(目的の)統合と自己統制の管理」と呼んでいます。ここで、自己統制とは、人が主体的・自律的に仕事をすることを指しています。

X理論とY理論が実は対立概念ではないことや、「統合と自己統制の管理」はリーダーシップの問題ではないかといった指摘は、以下の記事に書きましたので、ご参照ください。

組織行動論①|マグレガーのX-Y理論

リッカートの理論

リッカートは、「お金のために仕事をする」ことを経済動機と呼び、この他にも人が仕事をする動機には自我動機・安定動機・創造動機があると考えました。自我動機は「自分の存在価値や重要性を感じたい」という動機で、自己実現欲求に相当します。

伝統的組織構造は、人が経済動機のみで働いることを前提としており、労働者に賃金分の労働をさせるための指揮命令系統が構成され、ピラミッド型構造になっていきます。しかし、リッカートらの調査によれば、この構造では「自分が支持されていると実感できる」支持的関係がなく、そのため自我動機が充足されません。この時、周囲からの支持的関係を得ようとして、非公式組織が形成されます。

リッカートは、自我動機を満たすために集団的意思決定が必要だと提唱しています。これは、組織の成員が意思決定に参加することで、組織の目標と自我の高度な一体感を生起させることが狙いです。リッカートは、集団的意思決定を実現するためには、重複型集団的組織が良いとしています。

重複型集団的組織とは、小集団(例えば「係」「課」「部」)で意思決定し、「連結ピン」(例えば「係長」「課長」「部長」)が上位の小集団(例えば「課」「部」「社」)に参加して、上位小集団で意思決定を行うことを繰り返すボトムアップ型組織構造です。

最終的に、リッカートは4種類の組織構造をシステム1〜4としてまとめています。ここで、システム1が伝統的組織構造、システム4が重複型集団的組織を表しています。詳細については、下記の記事をご覧ください。

組織行動論③|リッカートの組織論

ハーズバーグの理論

ハーズバーグは、職務満足に関する要因には不満を解消する要因(衛生要因)と満足を充足する要因(動機づけ要因)が存在し、「不満を解消したからといって、満足するわけではない」ことを明らかにしました。そして、衛生要因は主に職務環境に関する要因が多く、動機づけ要因には職務内容に関する要因が多いことが分かりました。

しかし、ハーズバーグの調査は、米国ピッツバーグの技術者や会計担当を対象にしていたため、文化差や職務差があるかもしれません。そこで、日本で行われた調査については、以下の記事にまとめました。

組織行動論④|ハーズバーグの二要因論

まとめ

行動科学的組織論で代表的なアージリス・マグレガー・リッカート・ハーズバーグの理論についてまとめると、下表のようになります。

表1.行動科学的組織論の比較

これらの共通点として、次のことが言えるのではないでしょうか。

  • 上位下達な組織の変革が必要だと考えている
  • 人間の本質的な欲求を踏まえた組織が必要と考えている
  • 個人の欲求と組織の目的を統合する方法を考えている
  • 科学的管理法や人間関係論を内包した理論を導出しようとしている

総じて、組織行動論の時代は、人間性への理解を深めた組織論を紡ぎだそうとしていたと言えるかもしれません。

参考文献

  1. 山口博幸. (1972). 「モーティベーションの行動科学」 と労務管理論 (1)—リッカート理論とハーッバーグ理論の比較研究を中心に—. 香川大学経済論叢45(1), 46-67.
  2. 三島重顕. (2009). 経営学におけるマズローの自己実現概念の再考 (1): マグレガー, アージリス, ハーズバーグの概念との比較. 九州国際大学経営経済論集15(2/3), 69-93.
  3. 三島重顕. (2009). 経営学におけるマズローの自己実現概念の再考 (1): マグレガー, アージリス, ハーズバーグの概念との比較. 九州国際大学経営経済論集15(2/3), 69-93.

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