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組織行動論④|ハーズバーグの二要因論

ハーズバーグの二要因論は、あまりにも有名なため、あらためて調べる必要はないかと思っていました。

しかし、(1)調査対象が特定の職業に偏っていること、(2)動機づけ要因と衛生要因に分類できない要因が見つかっていること、(3)文化の違いが影響すること、といった問題点もあるそうです。

そこで、今回は、日本で行われた総合的な調査の結果を学んでおきたいと思います。

動機づけ-衛生理論

ハーズバーグは、アメリカのピッツバーグ地域の企業に勤務する技術者や会計担当者を対象として職務態度に関する調査を行い、職務満足の要因とそれが職務遂行に及ぼす影響について分析しました。(岡田2004)

図1.ハーズバーグの調査結果(岡田2004を参考に筆者作成)

調査の結果、職務満足の要因としては①達成、②承認、③仕事そのもの、④責任、⑤昇進などの職務内容に関するものが多く、職務不満足の要因としては①会社の政策と経営、②監督技術、③給与、④対人関係、⑤作業条件など職務環境に関するものが多くなりました。そして、職務満足をもたらす要因を「動機づけ要因」、職務不満足をもたらす要因を「衛生要因」と名付け、以下のような動機づけ-衛生理論を展開しました。(岡田2004)

動機づけ−衛生理論(岡田2004)

  1. 満足要因は「動機づけ要因」とも呼ばれる。それは、この要因が人間の心理的成長(自己実現)への積極的欲求を充足させるからである
  2. 不満足要因は「衛生要因」とも呼ばれる。なぜなら、人はいくらこの要因を充足しても満足は得られず、ただ、不満足に陥るのを予防することができるだけだからである
  3. 「動機づけ要因」は主として満足感に作用し、不満足感に作用しない。逆に「衛生要因」は不満足感に作用し、満足感につながらない
  4. 満足感の対極は不満足ではなく「没満足」であり、不満足の対極は満足ではなく「没不満足」である。従って、「動機づけ要因」は、「満足ー没満足」の連続体に影響を及ぼし、「衛生要因」は逆に「不満足ー没不満足」の連続体上で作用する
  5. 故に、満足と不満足は、一つの線上の対極に位置する感情ではなく、相互に独立で並行的な二つの連続体を構成し、その各々に独特の要因が作用することによって、満足・不満足感情が生み出される。

簡単に言うと、ハーズバーグの功績は、従来の「ある要因の不満を解消すれば、その要因については満足する」という素朴な考えに対して、「満足の要因と不満足の要因は異なり、不満を解消したからといって満足するわけではない」という点を明らかにしたことでした。

日本の場合

日本文化の下での動機づけ-衛生理論は、約10年をかけて、杉村・大橋・三木らによって実証研究がなされています。

層別比較

村杉・大橋・五百蔵(1974)は、関西地域の日本企業12社に対してハーズバーグと同様の調査を実施して、図2のような結果を得ました。ただし、ハーズバーグがインタビュー調査だったの対し、村杉らは質問紙調査で、調査方法に違いがあります。

図2.村杉・大橋・五百蔵(1974)の全体結果

また、得られたデータを、会社別・性年代別・職位別(管理者or労働者)・職務別(ホワイトカラーorブルーカラー)に分けて比較を行い、次のような結論を得ました。

  • 動機づけ-衛生理論は、男性30歳以上と管理者で成立する
  • 対人関係」は、衛生要因とは決められず、動機づけ要因でもある。(他の日本の研究でも同様)
  • 女性、特に30歳未満の女性で「対人関係」の動機づけ-衛生要因の混合が顕著である。
  • 不満要因が高かったのは「対人関係」「(本来、満足要因である)達成
  • 「達成」と「人間関係」に関心が深いのが日本文化の特徴と言える

これによって、ハーズバーグの二要因論には文化差が存在し、日本では二要因論をそのまま適用することはできないことが分かりました。

二元性の検証

ハーズバーグの二元論は、動機づけ要因が衛生要因に影響を及したり、衛生要因が動機づけ要因に影響を及ぼすこと、つまり交差効果はないものとしています。これに対して、村杉・大橋・五百蔵(1975)は、村杉・大橋・五百蔵(1974)で獲得したデータとモラルサーベイの結果を使って、交差効果について検討しました。

調査方法

ハーズバーグの調査が過去の職務満足要因を尋ねるものだったので、村杉・大橋・五百蔵(1974)の調査結果も過去についてのデータになっています。反対に、モラルサーベイは現在について尋ねるもので、動機づけ要因や衛生要因に近い質問も含まれていました。例えば、動機づけ要因の「承認」に相当する質問として「あなたが良い仕事をすれば認めてくれますか?」が選ばれています。

分析方法

こうして選ばれた各質問に対して、「はい」と回答した者を好意的回答者群、「いいえ」と回答した者を非好意的回答者群とし、動機づけ要因と衛生要因について群間比較を行いました。その結果を、①動機づけ要因だけに有意差がある、②衛生要因だけに有意差がある、③両方に有意差がある、④どちらにも有意差がない、の4つに分類し、①動機づけ要因、②衛生要因、③複合要因、④不明、と考えられるとしました。

調査結果

このような分析を経て、村杉・大橋・五百蔵(1975)は、次のように結論づけています。

  • 達成」「仕事そのもの」「昇進(成長)」は、動機づけ要因である
  • 承認」は、動機づけ要因と衛生要因の二面性を有する複合要因である
  • 会社の政策と経営(経営ポリシーと管理)」は、衛生要因である
  • 「仕事そのもの」の満足の影響受ける「給与」は、仕事と給与のバランスが必要な複合要因である
  • 監督技術」「対人関係」「作業条件」は、どちらとも言えない

さらに、詳細要因同士の関係性を整理したところ、下図のような結果になりました。

図3.村杉・大橋・五百蔵(1975)の結果

図3において、動機づけ要因から衛生要因に伸びる矢印と、衛生要因から動機づけ要因に伸びる矢印は、ハーズバーグの理論では想定していない交差効果になります。

リーダーシップ

村杉・大橋(1976)では、動機づけ要因・衛生要因とPM式リーダーシップとの比較が行われています。

調査方法

村杉と大橋は、2つの企業に対してPM式リーダーシップ論とハーズバーグ理論の質問紙調査を行い、2つの質問紙の結果を突合して分析を行いました。ただし、職位の違いを見るために、A社では一般の従業員に回答してもらい、B社では管理職層に回答してもらっています。

PM式リーダーシップ論は、P機能(Performance, 業務遂行機能)とM機能(Mentenance, 集団維持機能)をそれぞれ10問ずつの質問紙調査で、PM型・Pm型・pM型・pm型の4種類のリーダーシップ型に分類し、PM型のリーダーがその他の型のリーダーよりも、メンバーのモラルや生産性を高めることを主張するリーダーシップ理論です。

調査結果

上記の主張に従えば「上司をPM型と評価しているメンバーの動機づけ要因は、上司をpm型と評価しているメンバーの動機づけ要因よりも、満足が高い」と考えられます。ところが、この研究の結果は次のようなものでした。

  • PM式リーダーシップは、一般従業員および管理職の衛生要因の不満に寄与していた。
  • PM式リーダーシップは、管理職の動機づけ要因の満足に寄与していた。
  • PM式リーダーシップの違いによる動機づけ要因と衛生要因の不満の差が、会社の業績(生産性)の差に影響していた。
図4.PM式リーダーシップとハーズバーグ理論の関係

この結果は、リーダーシップが衛生要因であること、リーダーシップは不満の解消によって会社業績に影響があることを表しています。

対人関係

ハーズバーグの調査結果と村杉らの調査結果の大きな違いの1つは、「対人関係」要因が満足も不満足も大きいことでした。そこで、村杉・大橋・羽石・地代(1982)では、「対人関係」の対象者を上司・同僚・部下に分け、関係性もそれぞれ仕事上の関係(公式な関係)と仕事以外での関係(非公式な関係)に分けて調査を行なっています。

調査結果

結果の一部は、図5のようなものでした。

図5.対人関係要因の分析結果(村杉・大橋・羽石・地代1982)

対象の違いでは、「監督者(上司)との関係」はハーズバーグの結果と同様で衛生要因と考えられます。しかし、「同僚との関係」は大きく結果が異なり、満足にも不満足にも関係する複合要因を表しています。「部下との関係」は、満足にも不満足にも寄与しておらず、動機づけ要因でも衛生要因でもないと考えられます。

次に、上司と同僚との公式・非公式な関係性で分類してみると、「上司との公式な関係」は不満足に寄与する衛生要因、「同僚との非公式な関係」は満足に寄与する動機づけ要因、「同僚との公式な関係」は満足・不満足に寄与する複合要因、「上司との非公式な関係」はどちらにも寄与しないとなりました。

性別比較をしてみると、「同僚との公式な関係」は、男性にとっては動機づけ要因ですが、女性にとっては複合要因になっていることが分かりました。さらに、女性を年代別に分けてみると、「同僚との公式な関係」の不満足は主に20代の女性が感じており、30代と40代の女性では不満足よりも満足への寄与が大きく、動機づけ要因になっていると分かりました。

以上をまとめると、対人関係要因は次のように動機づけ要因と衛生要因に分別することができました。

図6.対人関係要因の分類(村杉・大橋・羽石・地代1982)

図6によれば、「同僚との非公式な対人関係」は動機づけ要因に分類されています。これは、人間関係論が主張する非公式組織が、批判は多いものの無視し得ないことを表しています。

要因の合成

ハーズバーグは動機づけ要因や衛生要因の各要因が合成される場合を考慮していません。しかし、村杉・大橋・羽石・地代(1982)の結果を受けて、村杉・大橋・地代・羽石(1983)は、複数の要因の合成が再び動機づけ要因や衛生要因になることを確認しています。

調査方法

村杉・大橋・地代・羽石(1983)は、日本企業を対象として、ハーズバーグの各要因に相当する12個の選択肢の中から、満足したものを3つ、不満足なものを3つ選んでもらう質問紙調査を行いました。満足の設問と不満足の設問では選択肢の文言を変えており、例えば「ある目標を達成したこと、1つの仕事を成し遂げたこと(達成、満足)」や「仕事でミスした理、失敗したこと、目標を達成できなかったこと(達成、不満足)」となっています。

分析方法

選択した3つの選択肢のうち2項目が同じだった人数を数え、満足・不満足のそれぞれについて人数の多かった組み合わせを10個抽出しました。各組み合わせについて、満足・不満足の人数差を検定し、有意性を確認しました。

調査結果

集計結果は、図7に示します。検定は、「達成と公式的対人関係」を除いて有意水準5%で有意となりました。

図7.要因の組み合わせによる二要因論

満足が有意に多かった組み合わせでは、ハーズバーグの動機づけ要因である「達成」「責任」「成長」「承認」で構成される組みが5つと、片方が「非公式的対人関係」の組みが3つ、片方が「公式的対人関係」の組みが1つ、「公式的対人関係」と「非公式的対人関係」の組みが1つという結果でした。このことから、動機づけ要因同士は、合成しても動機づけ要因として機能すると言えそうです。

不満が有意に多かった組み合わせでは、ハーズバーグの衛生要因同士の組み合わせが5つ、衛生要因と動機づけ要因の組み合わせが5つありました。このうち、片方が「給与」の組みは7つあり、日本人の衛生要因には「給与」が重大な影響を及ぼすと示唆されます。

また、「非公式的対人関係」は、満足の組み合わせには出現したにもかかわらず、不満足の組み合わせには出現しませんでした。このことから、ハーズバーグによれば「対人関係」は衛生要因ですが、「非公式的対人関係」は動機づけ要因として機能していると考えて良さそうです。これは、ハーズバーグの二要因論を超える結果です。

欲求階層

村杉・三木(1983)は、ハーズバーグの各要因に基づいて、マズローの欲求階層(5階層)を検討しています。

調査方法

Provision-Desire方式モラルサーベイの質問項目からマズローの欲求階層に相当する11項目を抽出した質問紙を使い、日本の3企業の従業員(労働者中心)400名に回答してもらいました。Provision-Desire方式とは、現に与えられているものの満足・不満足(provision)とその質問の重要度や関心度(desire)を尋ねるタイプのサーベイです。

分析方法

欲求要因:満足の人PHの高欲求DHHが不満の人PLの高欲求DHLよりも有意に高い場合(DHH/PH > DHL/PL)を成長欲求と判定し、逆に不満の人PLの高欲求DHLが満足の人PHの高欲求DHHが有意に高い場合(DHH/PH < DHL/PL)を欠乏欲求と判定する。

階層性:欲求強度が高い人DHの異なる欲求要因への高欲求D’HHが欲求強度が低い人DLの異なる欲求要因への高欲求D’HLより大きい場合(D’HH/DH > D’HL/DL)を相対的欲求強度の差があり、階層性があると判断する。

先行性:ある欲求の満足PHが異欲求の欲求強度D’HHを高める場合、その欲求に先行性があるとする。

調査結果

欲求要因・階層性・先行性の分析結果は、図8のようになりました。

図8.マズローの欲求階層と動機づけ-関係-衛生仮説

欲求要因の分析によって、「生理的欲求」と「安全の欲求」は欠乏欲求、「尊重の欲求」と「自己実現欲求」は成長欲求と判定されましたが、「社会的欲求」は有意な差が出ず、欠乏欲求でも成長欲求でもあリませんでした。

次に、階層性と先行性の分析では、次のような結果になりました。

  • 「生理的欲求」と「安全の欲求」の間には階層性も先行性もなく、これらを明確に区別することはできない
  • 「社会的欲求」は、「安全の欲求」と階層性があり、「安全の欲求」が先行する
  • 「尊重の欲求」は、「社会的欲求」とは階層性も先行性も無い
  • 「尊重の欲求」は、「生理的欲求」と「安全の欲求」には階層性があり、これらが先行する
  • 「自己実現欲求」は、他の全ての欲求と階層性があり、他の全ての欲求が先行する

この結果から、村杉と三木は、欲求は3階層(欠乏欲求・社会的欲求・成長欲求)であり、欠乏欲求には衛生要因、社会的欲求には関係要因(非公式的関係)、成長欲求には動機づけ要因が相当すると結論づけています。したがって、日本の場合は、ハーズバーグの二要因論(二元論)ではなく、関係要因を含めた三要因論で考えた方がいいのかもしれません。

まとめ

ハーズバーグの二要因論(動機づけ-衛生理論)について、日本で行われた村杉らの実証研究を振り返りました。

ここで分かったことは、「ハーズバーグの二要因論には適用条件が必要であり、誰にでも当てはまるわけではない」ということでした。

日本企業の場合では、ハーズバーグ理論は男性30代以上管理職には適合すると言えそうですが、その他の性年代や一般従業員にはうまく適合しませんでした。

その原因は主に「承認」や「対人関係」が複合要因となっているためで、特に「対人関係」は関係性の対象と性年代の違いで動機づけ要因にも衛生要因にもなりました。

そのため、日本の場合は「関係要因」とも呼ぶべき第3の要因が必要で、二要因論ではなく三要因論(動機づけ-関係-衛生理論)で考えるべきかもしれない、という示唆が得られました。

調べてみたら、意外な結果が出てきましたね。

参照文献

  1. 岡田行正. (2004). 行動科学的管理の出現と特徴. 北海学園大学経営論集, 2(1): 1-31
  2. 村杉健, 大橋岩雄, & 五百蔵隆治. (1974). 層別比較を中心とした動機づけ-衛生理論の吟味: ハーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 1 報). 日本経営工学会誌25(3), 227-232. [pdf]
  3. 村杉健, 大橋岩雄, & 五百蔵隆治. (1975). モラール・サーベイとの関連における動機づけ-衛生理論の吟味: ハーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 2 報). 日本経営工学会誌25(4), 299-304. [pdf]
  4. 村杉健, & 大橋岩雄. (1976). リーダーシップと関連した動機づけ: 衛生理論の吟味: バーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 4 報). 日本経営工学会誌27(2), 161-166. [pdf]
  5. 村杉健, 大橋岩雄, 羽石寛寿, & 地代憲弘. (1982). 動機づけ衛生理論の対人関係因子: ハーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 5 報). 日本経営工学会誌33(2), 148-153. [pdf]
  6. 村杉健, 大橋岩雄, 地代憲弘, & 羽石寛寿. (1983). Multivariate approach による動機づけ衛生理論: ハーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 6 報). 日本経営工学会誌33(6), 416-421. [pdf]
  7. 村杉健, & 三木信一. (1983). Maslow の欲求理論と MRH 仮説: ハーズバーグの MH 理論の実証的研究 (第 7 報). 日本経営工学会誌34(1), 44-50. [pdf]

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