関心の心理学②|注意と広告反応モデル

感情としての関心の応用研究は、主に教育分野を対象としていました。これは、教科書の内容への関心を高くし、児童や学生の学習意欲を高めたいからです。

しかし、これまであまり対象とされて来なかったけれども応用可能な分野として、マーケティング分野があります。特に、広告宣伝では重要になります。例えば、消費者に関心を持ってもらうために適切な宣伝方法は何か?といった問題は、消費者の関心を喚起する問題でもあります。

そこで、今回は、マーケティング分野の広告反応モデルへの関心の心理学の適用を考えてみたいと思います。

関心の心理学とマーケティング

広告反応モデル

マーケティング分野における広告反応モデルについては、こちらの記事で簡単に紹介しています。

広告反応モデルとは、提示された広告に対して消費者がどのように反応するのかをモデル化したものです。一般に、企業は広告を見た消費者の反応をつぶさに観察できないため、消費者の心理行動モデルを仮定する必要がありました。

現在では、消費者の心理と行動はカスタマー・ジャーニーを使って考えることが一般的かもしれません。一方で、古典的な広告反応モデルとしは、次の3つが挙げられます。

図1.古典的な広告反応モデル

AIDAモデルは、店舗での宣伝を想定したモデルです。店頭では看板や呼び込み、店内では陳列方法やポップなどで、来店者の注意を引き付け、関心を持った商品を手に取り、欲しいと感じれば、購入という行動をする、という推移をモデル化したものです。

AIDMAモデルは、テレビや雑誌などのマス広告を想定したモデルです。マス広告の場合、広告を見たとしても、その場ですぐに購入できるわけではありません。消費者は、広告で見た商品の情報を購入まで記憶しなければならないのです。そのため、記憶という段階が追加されています。

AISASモデルは、インターネット検索を想定したモデルです。インターネットが普及すると、マス広告や店頭で見た商品の情報をインターネットで検索し、比較サイトを見たり、レビューを参照したり、商品情報を精緻化する行動が消費者の中で一般的になりました。そのため、検索という段階が挿入されています。欲求や記憶の段階がありませんが、検索には、精緻化見込みモデルを通した態度変容(欲求)や、検索結果を外部刺激とした多重貯蔵庫モデルによる長期記憶形成が含まれると考えるべきでしょう。

また、インターネットでは、消費者は、情報のインプットだけでなく、アウトプットもすることができます。例えば、ウェブサイトやブログなどを使って不特定多数に向けて発信することもできますし、ソーシャル・メディアによって友人やコミュニティにだけ発信することもできます。情報通信技術の発展によって、いつでもどこでも簡単に発信できるようになり、企業にとっても消費者による発信は無視できなくなりました。そのため、AISASモデルには、最後に共有の段階が設けられました。

これら3つの広告反応モデルでは、「注意」「関心」という最初の2つの段階が共通しています。各モデルが提唱された時代が異なる点と、想定される消費者の購入行動が異なる点を考えると、「注意」と「関心」には普遍性があるのかもしれません。

関心の評価モデル

前回の記事で検討したように、Silvia(2006)は、関心感情の二段階評価モデルを次のように提唱しました。

このモデルは、何らかの出来事に対して、「広い意味で新奇な出来事なのか?」(広義の新奇性)を評価し、新奇であれば「理解できそうな出来事なのか?」(対処可能性)を評価することで、理解できそうであれば「関心」を持つ、というプロセスを表しています。

ここで、広義の新奇性は、新しさ以外にも、次のような性質も対象としていました。

  • 新しさ(new)
  • 曖昧さ(ambiguous)
  • 複雑性(complex)
  • 不明瞭さ(obscure)
  • 不確実性(uncertain)
  • 神秘性(mysterious)
  • 矛盾(contradictory)
  • 予想外(unexpected)
  • 未理解(not understood)

この中でも重要なのは「複雑性」です。複雑性は、関心の喚起要因ですが、楽しみ(enjoyment)の喚起要因ではないため、関心と楽しみを明確に区別する根拠になっています。楽しみ感情の場合は、逆に、シンプルさが喚起要因になることが確認されています。

関心感情における対処可能性は、多くの場合、理解可能性と考えて問題ありません。ただし、理解が簡単すぎても、難しすぎて理解不能でも関心感情にはつながりません。つまり、関心が生まれるには、「ほどよい複雑さ」や「ほどよい不確実さ」が必要だということです。これを、Silvia(2006)は、逆U字型ポテンシャルと呼んでいます。

図3.逆U字型ポテンシャル。Silvia(2006)を参考に、筆者作成。

「ほどよい複雑さ」の例としては、クロスワードパズルのような「頑張ればできる」程度と考えると良いかもしれません。また、「ほどよい不確実さ」は、ゲームアプリのガチャがいい例かもしれません。

広告反応評価モデル

これら2つのモデルは統合することを考えましょう。

まず、明示されていませんが、広告反応モデルでは「広告を見たり聞いたりした」という出来事に遭遇したことが前提となっており、これは関心の評価モデルにおける「出来事」に相当します。そこで、この「広告に接触した出来事」は、単に「広告」と呼ぶことにします。

次に、広告反応モデルの「注意」が向いた状態を考えましょう。この状態は、消費者が広告を気に留めたものの、関心を持つには至っていない状態です。例えば、「何だろう?」とか「どういうこと?」などのように疑問を持った状態と考えられます。このような疑問は、不明瞭さや矛盾のある刺激への反応と考えられます。そして、不明瞭さや矛盾は、広義の新奇性の1つでもありました。すなわち、「注意」は、広義の新奇性に対する一次評価の結果として現れる状態だと考えられます。

これらを踏まえると、2つのモデルは次のように統合できます。

図4.広告反応評価モデル、筆者考案。

このモデルは、広告を見たり聞いたりした消費者は、その内容に広義の新奇性があると評価すれば注意を向け、その内容を理解可能だと評価すれば関心を抱く、というプロセスを表しています。

広告への示唆

上記の広告反応評価モデルは、消費者が関心を持つためには、広告が次のような特徴を持たなければならないことを示しています。

  • 広告は、消費者が疑問を持つような「広義の新奇性」を持たなければならない
  • 広告は、消費者にとって簡単すぎず難しすぎない程度に理解可能な内容でなければならない

例えば、伝えたい価値と真逆のメッセージの奇妙さで注意を引き、少し補足説明を入れて伝えたい価値を理解可能にする、といった宣伝方法が考えられます。

関心と諸概念の違い

上記の説明で、「関心と注意は同じものでは?」と感じる方もいるかもしれません。

そこで、ここでは関心と近い概念の違いについて、説明しておこうと思います。

関心と注意

Silvia(2006)によれば、注意(attention)は、関心と機能的に関連していることは間違いありません。しかし、研究者たちは、注意と関心を同一視することには懐疑的です。

Smith&Ellsworth(1985,1988)は、関心を他の感情から区別する注意の割合を発見しました。関心は、一般に、視覚的注意によって測定されます。乳幼児の研究では、物体と顔に対する視覚的注意の効果は、関心の表情によって媒介されることが分かりました。

いくつかの研究では、以下の事実によって、注意と関心を同一視することに反対しています。

  • テキストの内容を変えて関心を上下させても、注意が向上しないことがある
  • 注意は、さまざまな感情と関係がある

ある研究によれば、文書の関心の高さ(interestingness)を向上させたとしても、単純に文書への注意が増えるわけではありませんでした。また、いくつかの実験では、関心の低い文書の方へ注意が逸れてしまいました。これは、関心が増えたのに、注意が減ったことを表します。つまり、関心と注意は別のものであることになります。

一方、注意は多くの感情と関係があり、関心とだけ関係しているわけではありません。例えば、歓喜(happiness)や悲しみ(sadness)は、人間の注意をコントロールする能力に影響します。また、恐怖(fear)は、潜在的な脅威の対象に対する前注意処理に相当します。

従って、今のところは、注意と関心を別の状態と考えた方が妥当でしょう。

関心と好奇心

関心と好奇心の違いは、あまり研究されておらず、決着がついていません。

Berlyneは、関心と好奇心をよく入れ換えて使用し、好奇心を関心と退屈の質問で測定しています。また、多くの研究者が、暗黙のうちに等しいものとして関心と好奇心を使用しています。

Reeve(1996)は、関心を「アプローチを動機づけるポジティブな状態」、好奇心を「それ自体の減少を動機づける回避的状態」として区別しました。

Litman&Jimerson(2004)は、2つの特性好奇心の違いと同様に、関心と好奇心を区別しました。関心としての好奇心が、活性化とポジティブ感情体験を含むのに対し、剥奪としての好奇心は、不確実性からの回避的感情を含みます。

Hidi&Berndroff(1998)は、関心と好奇心はほとんど共通だが、関心の方がより多くの要因によって喚起される、としました。

一般的な使い方としては、好奇心これから起こる物事を対象とするのに対し、関心現在進行中過去の物事を対象として使われることが多いです。例えば、これから見に行きたい映画に対しては「好奇心がある」と言い、すでに見た映画に対しては「興味深かった(interesting)」と言います。

もちろん、一般的な使い分けが心理学的な区別に等しいとは限りません。

まとめ

本記事では、次の説明をしました。

  • 関心の二段階評価モデルは、マーケティングにおける広告反応モデルに統合できる
  • 広告が関心を持たれるには、ほどよく理解可能な広義の新奇性をもつ必要がある
  • 関心は注意と異なり、好奇心とも異なると考えられる

参考文献

  1. Silvia, P. J. (2006). Exploring the psychology of interest. Psychology of Human Motivation.

参考記事

ざっくり学ぶ、マーケティング・コミュニケーション
購買行動が多様になる理由
消費者の記憶に残すには(多重貯蔵庫モデル)
関心の心理学①|関心の二段階評価モデル

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