confusion of wildebeests grazing on spacious savanna

自然界の生存戦略② ナンバー1になる

こんにちは。やまもとです。

前回に引き続き、「弱者の戦略」(稲垣栄洋、2014)で紹介されている内容を、振り返られるようにまとめておきたいと思います。

前回は、弱い生物が生き残るために「群れる」「逃げる」「隠れる」「ずらす」といった戦略をとっていること、および生物界の例をまとめておきました。今回は、「ずらす」戦略の詳細の話になります。

confusion of wildebeests grazing on spacious savanna
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ナンバー1しか生き残れない

弱者の戦略」では、ナンバー1しか生き残れない理由として、競争排除則(ガウゼの法則)が紹介されています。競争排除則は、1920年代に捕食-被食関係を数理モデル(ロトカ=ヴォルテラ競争モデル)として提唱され、ガウゼのゾオリムシの実験やイースト菌の実験によって確かめられました。

競争排除則とは、「完全に同じ生態的地位(ニッチ)を持つ2種の生物は、共存し続けることはできず、どちらか一方が絶滅する」というものです。ガウゼの実験では、ニッチが同じ2種類のゾウリムシ(ゾウリムシとヒメゾウリムシ)を同じ水槽に入れ、十分な水や餌を与えましたが、ヒメゾウリムシが生き残り、ゾウリムシが絶滅してしまいました。また、餌や水といった環境条件を変えて、ゾウリムシが生き残るように操作することもできたそうです。

こうして、閉鎖的環境で、全く同じニッチにいる2種間競争では、競争排除則が成立していることが確かめられました。そのため、外部の影響から隔離された理想的な環境(実験室系)に2種しかいないという条件付きですが、競争排除則は種間競争の大原則として考えなければいけません。

underwater photography of fish
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プランクトンのパラドックス

さて、競争排除則は少なくとも実験室系では確かめられたものの、実際の自然界では競争排除則では説明のできない現象もあります。その例として、プランクトンの場合が考えられています(津田, 1995)。

プランクトンは、1測点の採集で80種類も採集されることがあり、これは同一の環境に多数の種類が共存していることを示しています。この事実は、一見すると競争排除則と相容れません。つまり、「競争排除則という大原則があるにもかかわらず、何故かくも均一な環境にこのように多くのプランクトン種が共存しているのか?」というパラドックスが存在していることになります(津田, 1995)。

このパラドックスを抽象化すると「一種類しか生き残れないのに、自然界には何故多様な生物が存在しているのか?」という生物多様性のパラドックスとなります。このパラドックスを説明する候補を集約すると2つの説があります。

lightning and tornado hitting village
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撹乱と非平衡

1つ目は、競争排除則が成立するのは平衡(安定した環境)の場合であり、自然界で競争排除則が成立しない場合があるのは「非平衡(不安定な環境)が持続し、平衡に達しないためである」という説です。非平衡が持続する原因は、何らかの要因によって撹乱が起こるためと考えられています。

撹乱は、様々な生態系において種の多様性を維持する本質的メカニズムと考えられています(Connell,1978)。例えば、山火事で草木が焼けてしまうとか、火山が噴火して日光が届かなくなる、生態系で優勢な種が捕食によって激減してしまうこと、などが撹乱に相当します。撹乱を受けた場所には新しい生態系のサブシステムが形成されて、サブシステムがモザイク状に組み合わされた生態系のシステム全体では多様性が高く保たれることになります。

つまり、「撹乱によって種の多様性が高いため、プランクトンは1箇所で80種類も採集される」と考えることができます。ただし、動物プランクトンでは緻密な検証により非平衡説が否定されていて、これで全てが説明できるわけでもないそうです(津田, 1995)。

bird perching on outdoors
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ニッチの分割

2つ目は、撹乱が起きない安定した環境の場合、「移動能力のある生物では、種によるニッチの分割が起こり多くの種が共存する」という説です。分割の軸としては、大きくは(餌、時間、空間)の3次元があります。さらに細かい微小環境でも分割が起こることがあります。

餌によるニッチの分割は、食い分けと呼ばれています。食い分けの例は、「弱者の戦略」に書かれているので引用しておきます。

たとえば、アフリカのサバンナを考えてみよう。サバンナには、さまざまな草食動物がいる。

シマウマは草原の草を食べている。一方キリンは、地面に生える草ではなく、高いところにある木の葉を食べている。つまり、シマウマとキリンは、同じサバンナの草原にいるが、争わないようにエサ場を分けているのである。

しかし、草原の草を食べる動物は、シマウマの他にもいる。たとえば、ヌーやトムソンガゼルはどうだろうか。じつは、これらの動物もエサを少しずつずらしている。

ウマの仲間のシマウマは、草の先端を食べる。次のウシの仲間のヌーは、その下の草の茎や葉を食べる。そして、シカの仲間のトムソンガゼルは地面に近い背丈の低い部分を食べている。こうして、同じサバンナの草食動物も、食べる部分をずらして、棲み分けているのである。

弱者の戦略」(稲垣栄洋、2014)

空間によるニッチの分割は、ダーウィンが進化論を思いついたダーウィンフィンチの棲み分けの例があったので引用しておきます。

代表的な例としては,ダーウィンフインチとして知られる Geospizinaeはガラパゴス諸島にのみ生息し, 14 種 (1種はすでに絶滅)が知られている. これらの烏は空間(島及び草原,森林といった環境)の 軸と食性(硬い種子,軟らかい種子,虫など)の柚でできる 2次元空間をきれいに棲み分けている(Lack1947)

津田, 1995

時間によるニッチの分割は、1日の中で昼行性・夜行性といった時間単位の分割もあるし、季節単位の分割の場合もあります。

SPILLERの 研究例は注目に値する。彼はカリフォルニアの汽水性の沼 の周囲の土手にすむゴミグモの1種Cyclosa turbinataとコガネグモ科の1種Meteperia grinnelliの種間関係 を調べた。ゴミグモは春 と夏に繁殖する年2世 代で、成 体の体サイズ は小型であるがMeteperiaは秋に繁殖する年一世代で、成体は前種より大きい。そのため、春にはゴミグモのほうが大きいが、夏から秋にかけてはMeteperiaの方が大きくなり、サイズの大小関係が季節によって逆転する。種の共存区とそれぞれの種の除去区を設けて、さ まざまなパラメータを比較した。そ の結果、ゴ ミグモの除去はMeteperiaの体長や餌条件、産卵数を増大させ、Meteperiaの除去はゴミグモの体長や密度、造網場所の高さに影響 した。SPILLERは、ゴミグモ除去の効果は餌をめぐる消費 型 の競 争(exploitativecompetition)の証拠であり、Meteperia除去の効果は干渉型競争(interference competition)の 現れであると考えている。ま た、ゴミグモ除去の効果は本種が大型である春に顕著で、Meteperia除去の効果は本種が大型の夏以降顕著であった。こうしたことから、競争能力の季節による逆転が、2種の共存を可能にしていると考えられる。

宮下、1996

もっと微小な環境の違いによるニッチの分割も、確認されています。

Tilmanは、2種の栄養塩(例えば窒素とリン)の存在比に注目し,いくつかの栄養塩存在比下で淡水珪藻のケモスタット培養を行い平衡状態 における種組成を調べた(Tilman1981)。その結果、栄養塩存在比によって勝ち残る藻類が決定され、 競争モデル(Tilman1980)で予想された結果とよく一致した。よって、水界において 微小なスケールで栄養塩などの存在比のばらつきがあるため、多くの種が共存できるとした。

津田, 1995

プランクトンの場合は、「細かく分割されたプランクトンの複数のニッチを縦断して採集したため、80種類ものプランクトンを採集してしまった」と考えられるということです。

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小さな領域でナンバー1になる

こうしてみると、自然界で生きる生物は、小さな領域でナンバー1になっているから生き残ることができていると考えられます。

不安定な環境では、撹乱によって生まれた空きスペースに素早く対応し、空きスペースを支配する自らに有利な生態系サブシステムを構築することで、サブシステム内でナンバー1になっています。安定的な環境では、餌・時間・空間・微小環境を分割し、他の種と競争を避ける生態的地位(ニッチ)を獲得することで、小さな領域ではナンバー1になっています。もし、同じ領域に生態的地位が同じ種がいれば、種間競争が起こり、競争排除速によってナンバー1だけが生き残ります。

結果として、自然界の生物多様性は、生物の数だけサブシステムやニッチが存在していることを示しています。逆に言えば、生態系とはサブシステムやニッチがモザイク状に組み合わされた集合体になっていると考えられます。


ビジネスとの類似性

このような自然界の生存戦略は、ビジネス戦略にとても示唆的です。すなわち、

  • 不安定なビジネス環境では、変化により生まれた空きスペースに、素早く小さいエコシステムを築き、ナンバー1になるべき
  • 安定的なビジネス環境では、ビジネス地位を顧客・時間・空間・他環境を軸に分割し、他企業と競争を避け、小さな領域でナンバー1になるべき
  • 全く同じビジネス地位に複数の製品・サービスがあると、どちらか一方しか生き残れないため、ビジネス地位をずらす必要がある

といったことが言えるのではないでしょうか。

また、「ナンバー1」とは、ブランド連想における「トップ・オブ・マインド」とも関連づけられます。新しい事業やベンチャー企業は、「とにかく小さな領域で良いから、顧客に最初に連想される存在にならなければならない」と言えるのかもしれません。

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