コトラー教授の「コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略」が発売されていたので、読みながら内容をまとめていこうと思います。
今回は、概要として「マーケティング5.0とは何か?」をまとめておこうと思います。
目次
マーケティング5.0とは?
コトラー教授は、マーケティング5.0を次のように定義しています。
マーケティング5.0とは、人間を模倣した技術を使って、カスタマー・ジャーニーの全行程で価値を生み出し、伝え、提供し、高めることだ。マーケティング5.0の重要なテーマの一つが、マーケターの能力を模倣することをめざす一群のテクノロジー、いわゆるネクスト・テクノロジーである。こうしたネクスト・テクノロジーには、AI、NLP、センサー、ロボティクス、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、IoT、ブロックチェーンなどがある。これらの技術の組み合わせが、マーケティング5.0のイネーブラー〈実現を可能にする要因〉となる。
フィリップ・コトラー, ヘルマワン・カルタジャヤ,イワン・セティアワン. 「コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略 (Japanese Edition)」 (2022) p.26
つまり、マーケティング5.0とは、最新のデジタル・テクノロジーを使ってマーケターの一部を模倣・拡張し、個人に最適化された顧客体験を先回りして提供することで、マーケティングのレベルアップを図ることだと思われます。マーケティング業務をできる限りテクノロジーで置き換え、どうしても人間の主観・経験・勘に頼らないといけない部分にマーケターの時間を集中させることで、より適切で効率的なマーケティングを目指そうという意図があります。
したがって、マーケティング5.0は、人間模倣技術によるマーケティングと言えるかもしれません。
人間の主観・経験・勘に頼らないといけない部分とは、顧客の態度や価値観を読み取り、背後のある動機を解釈する部分です。デジタル・データは、そのほとんどが表出された顧客の行動に関するものなので、マシンは背後に隠された顧客の態度や価値観までを読み取ることはできません。
そのため、マーケティング5.0は、人間とデジタル・テクノロジーの共生を目指すことでもあります。これは、マーケティング3.0の人間中心マーケティングと、マーケティング4.0のデジタル・マーケティングの統合を意味しています。
技術は戦略に従う
コトラー教授は、マーケティング5.0の基本理念として、次のように述べています。
われわれの基本理念は、「技術は戦略に従うべきだ」である。したがって、マーケティング5.0のコンセプトはツールを問わない。企業は市場で入手できるいかなる支援ハードウェアや支援ソフトウェアを使ってでも、マーケティング5.0を実行できる。ただし、それらの企業には、さまざまなマーケティング上の使用例に適切な技術を使う戦略をどのように設計するべきかを理解しているマーケターが存在していなければならない。
フィリップ・コトラー, ヘルマワン・カルタジャヤ,イワン・セティアワン. 「コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略 (Japanese Edition)」 (2022) p.29
つまり、これは「技術主導になってはいけない」という戒めです。テクノロジー会社だと、つい「技術をどんなマーケティングに使えるか?」と考えてしまいますが、そうではなく「このマーケティングに必要な技術は何か?」と考えなければなりません。
しかし、このように考える人は、技術もマーケティングも戦略も知っており、技術とマーケティングを踏まえた戦略を立案できる人物になります。肩書きをつけるとすれば、マーケティング・アーキテクトとかストラテジック・アーキテクトといったものになるでしょう。しかし、そのような人物は少ないのではないかと思います。
5つの要素
最新のテクノロジーは、マーケティングの何を置き換えることができるのでしょうか?
コトラー教授は、次のような5つの例を挙げています。
すなわち、今までどうしても人間頼みだった、①セグメンテーション、②効果予測、③顧客対応、④顧客行動予測、⑤市場テストなどです。これらを、テクノロジーに置き換えて、マーケティングを強化することを、コトラー教授は提案しています。
このことから、コトラー教授は、次の5つを、マーケティング5.0で実現すべき要素としています。
このうち、データドリブンとアジャイルは「(組織の)規律」、予測とコンテクスチュアルと拡張は「アプリケーション」としています。
データドリブン・マーケティング
データドリブンとは「あらゆる決定は、十分なデータに基づいて行われなければならない」という規律を表しており、すなわちデータドリブン・マーケティングとは「マーケティング決定は、十分なデータに基づいて行われなければならない」ことを意味しています。
これを実現するには、「十分なデータが存在しなければならない」ため、企業内外のさまざまな情報源からデータを収集しなければなりません。このようにして収集されたデータは膨大な量になるため、いわゆるビッグデータと呼ばれるものになります。近年の歴史が示すように、ビッグデータは人間の情報処理能力では処理しきれなくなるため、自動分析技術が必然的に必要になります。そして、最終的には人間による分析結果の解釈が必要になります。
このようなデータの収集・分析・解釈の一連の流れの素早い実行は、次のアジャイル・マーケティングの前提になります。そのため、この流れを自動的に行うための「データエコシステムの構築」こそが、まず企業が取り組まなければならないことになります。
アジャイル・マーケティング
データドリブン・マーケティングが組織へのインプットの規律だったのに対し、アジャイル・マーケティングは組織のアウトプットの規律になります。
アジャイル・マーケティングとは、ソフトウェア開発における「アジャイル開発」という方法論をマーケティング・キャンペーンやソフトウェア以外の製品にも適用したもので、設計・開発・検証を迅速に行うことを指しています。例えば、コンセプト開発(=コンセプトがアウトプット)なども、アジャイル開発の対象に含めます。
この規律が必要になるのは、絶えず変化する市場に対処するために、組織の俊敏性が必要だからです。たとえ、データエコシステムが構築できたとしても、アウトプットに俊敏性がなければ、結局そのマーケティングは時期を逸してしまい、うまくいかないでしょう。一方、市場の変化を素早く読み取れるデータエコシステムがなければ、アジャイル・マーケティングはやりたくてもできません。
予測マーケティング
予測マーケティングとは、機械学習を用いた予測分析ツールを使用するなどして、マーケティング活動の結果を開始前に予測するプロセスのことです。
企画段階では、大抵の場合、マーケターの経験則、類似施策、あるいはマーケターの単なる勘によって、マーケティング活動の結果が予測されているのではないでしょうか。予測マーケティングは、このようなプロセスをテクノロジーに置き換えようという活動です。
コンテクスチュアル・マーケティング
コンテクスチュアル・マーケティング(文脈マーケティング)は、物理的世界を通して顧客個人の文脈(経験、体験、記憶など)に合わせたマーケティング施策をパーソナライズする活動のことです。これは、マーケティングの究極目標である「リアルタイム・ワン・トゥ・ワン・マーケティング」を実現するための基幹的活動でもあります。
ただし、コンテクスチュアル・マーケティングでは、顧客個人の文脈を知るために、既存のデジタルデータ(SNSなど)だけでなく、センサー(IoT)やさまざまなデジタル・デバイスを使って、非デジタルな物理的世界のデータも利用していきます。例えば、ウェアラブル機器を使った健康情報の収集なども含まれることでしょう。
拡張マーケティング
拡張マーケティングとは、顧客対応するマーケターの生産性を向上するために、チャットボットやバーチャル店員などの人間を模倣した技術を利用することを言います。付加価値が低い作業をマシンが担うことで、現場のマーケターの価値提供能力を拡張します。価値提供能力の拡張という意味で、VR・AR・XRといった新しい提供方法も、拡張マーケティングに含まれます。
人間を模倣するにあたり、「人間らしさ」を実現するのは特に難しく、NLP(自然言語処理)などの技術が必要になります。こうして、人間中心マーケティングとデジタル・マーケティングが共生することになります。
まとめ
マーケティング5.0とは、最新のテクノロジーを使って、人間の経験則に依存していたマーケティング作業の一部を置換し、マーケティング自体を進化させるコンセプトでした。人間とテクノロジーは排斥するものではなく、人間とテクノロジーの共生を目指すコンセプトでもありました。
マーケティング5.0の5つの要素は以下のようなものでした。
- データドリブン・マーケティング
- データエコシステム、ビッグデータ、自動分析
- アジャイル・マーケティング
- アジャイル開発、オープンソースプラットフォーム
- 予測マーケティング
- 機械学習、推奨技術
- コンテクスチュアル・マーケティング
- IoT、ウェアラブル
- 拡張マーケティング
- チャットボット、バーチャル店員、VR・AR・XR
次回以降、もう少し先を読んで、内容をまとめたいと思います。
ここまでの感想
IT企業に所属しているやまもとにとっては、業界内で散々言われてきたテクノロジーばかりなので、最新という印象はあまりありません。で、現場で起きている問題は、マーケティング業界でも同様に起きるだろうなぁと思いました。
例えば、次のようなことが起きています。
- ビッグデータもそのほとんどがゴミデータで、クレンジングの方が大変
- 自動分析したくても、「何を分析すれば何が言えるのか」を顧客も分からないから、手の打ちようがない
- プロジェクト終了でチームが解散するから、アジャイル開発で重要なチームビルディングの効果が持続しない
- 機械学習で予測しても、その結果になった理由が分からない(論理はブラックボックスなので)
- IoTセンサーは設置するまでの認可許諾が大変、ウェアラブルは装着してくれない
- チャットボットは、学習によっては倫理問題(差別発言)などを引き起こす
言うは易し、行うは難し・・・。
とても分かりやすく理解できました。丁度購入しようと思っていたところなので事前に概要を理解出来て助かります。
私はコンサルティングを始めているのですが、関わっている企業の感想として、どうもデジタルに頼りすぎて形にこだわっている傾向が感じられていているのと、だからといってデータを実際には有効に活用出来ていない実態(でも本人たちは活用出来ていると思っている)を感じていました。
お役に立てて良かったです!
AIもそうですが、デジタルも期待が先行しすぎていますよね。。