BtoB市場の顧客価値の源泉

こんにちは。やまもとです。

マーケティングはBtoC市場向けの研究が多く、BtoB市場向けの研究は少ないのですが、BtoBのブランド価値に関するMudambiらの研究Mudambi, Doyle & Wong (1997), Mudambi (2002)でBtoBの顧客が知覚する価値についての調査があったのでまとめておこうと思います。

参考文献:Mudambi, Doyle & Wong (1997), Mudambi (2002)

Mudambiらの研究はベアリング(軸受)市場を対象にしたものなので、BtoB市場全体で通用するものではないかもしれませんが、参考にはなると思います。

一般に、BtoBのブランド価値は、製品ブランドに対してはほとんど知覚されておらず、企業ブランドに価値が知覚されています。(参考記事

しかし、企業ブランドだけで製品やサービスが購入されるわけではないので、その他の部分にも顧客価値は存在しているはずです。それは、一体どんなものなのか?という点をまずは見ていきたいと思います。

今回は、BtoB市場における顧客価値の分類を行なったMudambi, Doyle & Wong (1997)の調査を紹介したいと思います。

顧客が知覚する価値の源泉

Mudambi, Doyle & Wong (1997)の調査は、英国ベアリング(軸受)市場を対象に、購買意思決定に寄与した要因を調べたものです。

調査概要

調査対象

英国の精密ベアリング市場の企業

  • 製造業者 最大手2社
  • 流通業者 大規模2社、小規模1社
  • 顧客   自動車、家電、重機械業界

調査方法

インタビュー調査を実施。インタビュー対象は下記。

  • 製造業者 マーケティング担当者、技術・技能担当者
  • 顧客   購買担当者

調査目的

Mudambiらが文献調査から作成したBtoB市場の顧客価値コンセプトモデルを検証すること。

コンセプトモデル

価格以外の顧客価値に関するもので、「製品」「流通」「サポート」「企業」の各観点に対し、有形の価値(tangible value)と無形の価値(intagible value)に分けて考えるというもの。有形の価値は、測定可能で数値で表すことができるもの。無形の価値は、測定不能で顧客認知に依存するもの。

Mudambiらのピンホールモデル

調査結果

価格

BtoB市場において、価格は重要な購買意思決定要因であることは間違いないようです。

  • サプライヤーもバイヤーも、インタビューの早い段階で価格に言及した。
  • 特に、バイヤーは価格を最も重要な基準と考えていた。
  • 逆に、サプライヤーの一部は、バイヤーが他の基準を重視するのではないかと考えていた。
  • 代替品やアフターマーケットでは、特に価格が重視されていた。
  • 大規模なバイヤーは、開発コストや想定マージンの精査が行われていた。

製品

製品の品質が、買い手の品質基準を満たすことは最重要です。ただし、品質は必要条件にすぎず、品質だけで購入するわけではありません。

  • 製品の品質は、技術仕様、設計上の特徴、信頼性、革新性の組み合わせで評価される
  • 製品の品質は、製品や会社全体の評判の基礎となると考えられている
  • バイヤーは、製品購入前後で、正式な品質管理手順に沿った技術テストを受けている
  • ただし、テスト結果は重要であるものの、それだけで購入を決めるわけではなく、「信頼の尺度」が必要と考えている
  • 製品の特徴は、技術者が仕様を決定するプロセスの初期段階で最も重要である
  • メーカーは、選ばれる理由として製品のユニークな特徴を売り込んでいる
  • バイヤーにとって評価の鍵は「品質問題が発生しないこと」であった

流通

入手可能性・配送信頼性・リードタイムは基本的な価値のようで、意思決定を左右するのは「緊急対応力」のようです。

  • 製品の入手可能性と配送の信頼性が、高く評価された(製品不足のため)
  • リードタイムも重要だが、「緊急時の対応力」の方がより重視されていた
  • バイヤーの在庫保有量を支援してくれる仕組み(ジャスト・イン・タイム納入など)は重要な要素だった
  • 「注文のしやすさ」も重要な要因の一つだったが、いくつか種類がある
    • EDIに接続していること
    • カタログの分かりやすさと網羅性
    • 効率的な電話応対
    • 有能な事務員のサポート
    • 緊急時の注文しやすさ(発注を忘れても快く対応してくれる)

サポート

継続的サポートや緊急サポートをしてもらえるのか、顧客のビジネスをどれだけ理解しているのかが価値につながっているようです。

  • 幅広いサポートサービスが一貫して評価された
  • 技術サポートやトラブルシューティングは、継続的にも緊急時にも重要
  • 手段としてホットライン、オンコールサービス、定期的な現場訪問などが挙げられた
  • 技術スタッフをトレーニングすることも期待されていた
  • 最近は、決定プロセスの早い段階で技術サポートが期待されるようになっている
  • メーカーは、技術サポートは戦略的資産(無償のドアノックツール)と考えている
  • メーカーは、将来の注文を期待して無償の技術サポートを提供している
  • メーカーは、技術サポートの専門知識を当然のことと思われたくない
  • バイヤーは、自社ビジネスのニュアンスを理解しているメーカーを信頼している
  • バイヤーは、サプライヤーとの一体感を重視している

企業

企業自体が購買意思決定に様々な影響を与えています。なぜなら、前述した価格・製品・流通・サポートを総合的に評価すると、競合他社との差がほとんどなくなり、最終的に価格交渉と会社選びをすることになるためです。そのため、会社を選ぶ正当性(マーケットリーダ、グローバル、安定供給、サポートの充実、価格など)が必要になっているようです。

  • 購入者には、価格で勝負する人もいたし、わざわざ特定のサプライヤーを選ぶ人もいた
  • メーカーのマーケティング担当者は、「我々のメッセージ」(技術的経験、革新の歴史、将来の安定供給、世界的カバレッジ)を買ってくれていると言っていた
  • マーケットリーダーからの購入には、「リスクが少ない」「説明や正当化の必要がない」などの価値を感じていた
  • マーケットリーダーからの購入に、「威信」「ステータス」「気分の良さ」「誇り」を感じるバイヤーもいた
  • バイヤーが業界のビックネームに影響されやすいかは、意見が分かれた
    • 中堅メーカーは、「大企業メーカーからの購入は中小バイヤーに自信を与えるが、大企業バイヤーにはそれほど価値はない」と言った
    • 大企業メーカーは、「大企業メーカーからの購入は、大企業バイヤーに安心を与えるため価値がある」と言った
  • サプライヤーの規模や市場シェアの大きさは、バイヤーに信頼感を与えるように見えるが、同時にマイナス要因にもなり得る。
  • 世界各地でサポートできる「グローバル」な企業から購入することの重要性を指摘する人もいた
  • 複数年(5〜7年)の契約が一般的で、特定の部品番号の契約は生産期間とサービス交換期間をカバーしていた
  • 「次の世代の製品のためにドアは開いている」というのが一般的な感覚のようだ

まとめ

Mudambiらは、価格以外の顧客価値について、有形の価値と無形の価値を下表のようにまとめました。

観点有形の価値無形の価値
製品・精度
・耐性(耐荷重性など)
・寸法
・イノベーション
・目的への合致具合
・過剰な設計(想定以上の品質)
流通・記載された可用性
・記載されたリードタイム
・EDIまたはJIT
・注文の簡便さ
・配達の信頼性
・緊急時の対応力
サポート・設計アドバイス
・製品テスト
・現場支援
・自社ビジネスの理解度
・自社ニーズの理解度
・トラブルシューティング
企業・財務安定性
・事業年数
・グローバルカバレッジ
・世界クラス企業
・技術的リーダー企業
・グローバルな視点
B2B顧客価値の源泉

この表はベアリング業界に特有のものですが、他のBtoBビジネスの場合にもフレームワークとして、あるいは考えるべき観点として使用できるかもしれませんね。

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