こんにちは。やまもとです。
前回は、Mudambiらの1997年の研究(Mudambi, Doyle & Wong, 1997)を紹介しました。今回は、もう一つの研究Mudambi (2002)を簡単にご紹介しようと思います。
前回の記事はこちらです。
Mudambi (2002)は、BtoB市場の顧客が3つクラスタに分かれるという論文です。
BtoC市場のセグメンテーションでは、地理的要因・人口統計的要因・心理的要因・行動的要因を使って市場を細分化しますが、BtoB市場の場合は産業分野・企業規模・購買額・購買層などを使って細分化することが一般的です。
しかし、BtoB市場のセグメンテーションで心理的要因に相当する細分化の軸が検討されることは少ないのではないでしょうか?
心理的要因はブランド価値に関わるため、ブランド価値がほとんどないと考えられていたBtoB市場では心理的要因を考えてこなかったためだと考えられます。
ところが、Mudambi (2002)によって得られた3つクラスタは、顧客企業群を心理的要因に分けた分類になっており、BtoB市場細分化の1つの軸として使うことができます。
Mudambiらの研究はベアリング(軸受)市場を対象にしたものなので、3つのクラスタがBtoB市場全般で成立するのかは未知数ですが、考え方として知っておくと良いかもしれません。
B2B顧客の3クラスタ
調査概要
調査目的
どのようなバイヤーがブランディングを受容するのか?
調査方法
- インタビュー調査をもとに調査票を作成
- 対象者に調査票を郵送
- 返送された調査票データをクラスタ分析
調査対象
インタビュー調査(予備調査)
- 企業 製造業者、販売業者、購入者
アンケート調査
- 産業 自動車、重工業、機械・エンジニアリング、電気
- 企業 精密ベアリング(軸受)を購入している企業
- 回答者 ベアリング購入の責任者 282名(回答率41%, 116名)
調査票
主な測定項目
- 【製品】物理的な製品特性
- 【価格】価格
- 【サポート】テクニカル・サポート
- 【流通】注文・配達サービス
- 【関係】仕事上の関係の質
- 【認知】供給業者をよく知っているか
- 【評判】供給業者の一般的評判
- 【ロイヤルティ】過去の購入回数
回答方法
- リッカート式7件法(1:かなり重要〜7:極めて重要)
調査結果
3つのクラスターが存在した。
- 有形価値重視クラスタ(Highly Tangible)
- 無形価値受容クラスタ(Branding Receptive)
- 低関心クラスタ(Low Interest)
クラスタの特徴
アンケートの測定項目ごとの平均値を、下図に示す。
有形価値重視クラスタ
有形価値(測定可能な価値)に関心を示す一方、無形価値(測定不能な価値)に関心を示さない企業群。サンプルの49%を占め、最も多い。
- 価格や製品の物理的特性など、より具体的な側面を最も高く評価する
- 無形の価値への重要性が著しく低い(p<0.01)
- 物理的な製品特性の評価を、無形価値受容クラスタよりも客観的と見なす(p=0.053)
- 過去の購入履歴、評判、技術サポートの属性の客観性を、低関心クラスタよりも高く評価する(p < 0.05)
無形価値受容クラスタ
有形価値(測定可能な価値)に関心を示す一方、無形価値(測定不能な価値)にも関心を示す企業群。サンプルの37%を占め、2番目に多い。
- 下記3つのブランディング要素の重要性を有意に高く認識している(p<0.01)
- メーカーの知名度(ブランド名の認知度)
- メーカーの評判(ブランドイメージやレピュテーション)
- メーカーからの過去の購入回数(ブランド購入のロイヤルティ)
- 下記サービス面の重要性を有意に高く認識している(p< 0.01)
- 注文・配送サービスの質
- 仕事上の関係の質
- 他のクラスタに比べて、市場への参入に関する知識が有意に高いと認識している(p < 0.05)
- 他のクラスタに比べて、過去の購入履歴や一般的な評判の重要性の評価が他のクラスターよりも客観的であると考えている(p < 0.01)
- 有形価値重視クラスタに比べて、直近の購入時に利用したサプライヤーの数が有意に多い(p < 0.05)
- 有形価値重視クラスタに比べて、最終選択したサプライヤーからの過去の購入回数も有意に多い(p < 0.05)
低関心クラスタ
有形価値(測定可能な価値)にも、無形価値(測定不能な価値)にも関心を示さない企業群。サンプルの14%を占める。
- どの測定項目も他のクラスタよりも重要視しない
- 下記の測定項目は、他のクラスタと比較して、統計的に重要度が低い(p < 0.01)
- 価格
- 技術サポート
- サプライヤーの知名度
- サプライヤーの評判
- サプライヤーからの過去の購入回数
クラスタの共通項
以下の点については、クラスタ間で差異が見られなかった。
- 購入した商品の使用目的
- 購入した商品の購入層
- 知覚されたリスク
- 意思決定プロセスの特性
クラスタの識別
抽出された3つのクラスタを戦略的セグメンテーションの軸として利用するには、顧客企業がどのクラスタに属しているのかを識別できなければならない。そこで、インタビュー調査段階で得られたクラスタの特徴を表すキーワードを下表に示す。
有形価値重視クラスタ | 無形価値受容クラスタ | 低関心クラスタ | |
---|---|---|---|
購買者 | ・伝統的 ・中程度(適量購入) | ・大量購入 ・洗練された | ・無関心 ・無頓着 |
購買状況 | ・典型的 ・製品志向 | ・重要度の高い ・ハイリスク | ・ルーティーン ・ローリスク |
意思決定プロセス | ・教科書的 ・客観的 ・構造化された | ・オープンマインド ・徹底している | ・利便性 ・低関与 ・非公式 |
クラスタの距離(類似度)
無形価値受容クラスタと低関心クラスタの距離が最も大きく(類似度が最も低く)、有形価値重視クラスタは中間に位置している。
結局のところ、BtoB市場の約半分は有形価値重視(あるいは機能的価値重視)であり、無形価値(あるいは意味的価値、ブランド価値)を感じるのは40%程度であるということでした。これにより、BtoB市場でも40%ほどの企業は、ブランド価値を感じているということになります。つまり、BtoB市場でもブランド価値を構築する意味はあるということですね。
無形価値受容型の企業には、機能的価値にブランド価値を上乗せして販売できるため、利益率が高まります。もし、上澄み吸収価格戦略を採用する場合は、無形価値受容クラスタの企業を顧客ターゲットにした方が良いことになりますね。