こんにちは、やまもとです。
マーケティング検定を受験したとき、主題文に出てきて全く分からなかった言葉の一つが「多重貯蔵庫モデル」でした。
試験後に「多重貯蔵庫モデル」で検索しても、ちゃんとした情報は出てこなかったので、一般には知られていないのかも知れません。
しかし、今回、学んでみたところ、要するに短期記憶や長期記憶といった記憶の階層構造のことでした。
記憶についてのより詳しい事実は、脳神経科学の研究成果に譲ることにして、テキストに記載されたマーケティングで知っておくべき点を整理したいと思います。
記憶と情報処理
私たち人間の脳は、視覚や聴覚などの五感を使って外部から情報を取得し、その中から有用そうな情報を選び、すでに持っている知識と照合して解釈したり、いつか使うために知識を記憶するという情報処理を行なっています。
この情報処理を、感覚記憶・短期記憶・長期記憶の3層に分けたモデルが、多重貯蔵庫モデルです。
コンピューターで言うと、「感覚記憶」はCPU内部に設置され各種命令に利用されるレジスター、「短期記憶」は様々な情報処理を行うための作業領域と利用されるメインメモリー(主記憶装置)、「長期記憶」は処理結果などのあらゆる情報を蓄積しておくSSDやハードディスクが相当するでしょう。
もちろん、脳の仕組みがコンピューターに似ているのでなく、コンピューターの方が脳の記憶のメカニズムを模倣したのだろうと思います。
感覚記憶
感覚記憶は、視覚や聴覚といった五感で感じた刺激を、一瞬だけ保持する機能です。
例えば、熱い茶碗に触った時、「あちっ!」という感覚を持ちますが、手を離すとその熱いという感覚は一瞬でなくなると思います。
この一瞬感じた「熱い」という感覚が、感覚記憶です。
もちろん、「熱い茶碗に触れると火傷する」といった記憶は残りますが、これはすでに情報処理により意味づけされて、長期記憶になった情報です。
マーケティングでは、メッセージを消費者の記憶に残さねばならない広告が、感覚記憶と強く関係しています。
広告なので、視覚と聴覚が特に重要で、特別な名前がついています。
- アイコニック・メモリー(視覚記憶:iconは目で見ると覚える、持続時間:数百ミリ秒)
- エコイック・メモリー(聴覚記憶:echoは耳で聞くと覚える、持続時間:数秒)
ただし、見たもの聞いたものが全て記憶に残るわけではありません。
おそらく、皆さんも経験がある「見えているのに、見ていない」という現象があるように、人間の脳は注意を向けた情報だけを次の短期記憶に転送し、情報処理をおこないます。
短期記憶
短期記憶は、感覚記憶から注意を向けられた情報と、長期記憶に保存されている情報を結びつける情報処理(意味づけ)を行なっています。
短期記憶は、その名の通り、短時間しか記憶を保持できません。しかも、保持できる容量も少ないです。
- 保持時間 15秒〜30秒
- 保持容量 7±2チャンク
ここで、チャンクというのは処理の単位となる情報のかたまりのことで、情報量ではないことがポイントです。
例えば、headbodyhandfootという文字列をアルファベット単位で覚えようとすると、16チャンクあって覚えにくいですが、head、body、hand、footと四文字を1チャンクと見ると、4チャンクなので覚えやすくなります。
では、なぜこのようにチャンクに分けられるかというと、頭・体・手・足という人体に関する知識を長期記憶から取り出し、視覚情報である文字列に対して、head=頭、body=体、hand=手、foot=足と意味づけを行なっているためです。
このように、感覚情報に対して意味づけを行う処理操作を「知覚符号化」と言い、関連する複数のチャンクを1つのチャンクへまとめる処理操作を「チャンキング」と言います。
- 知覚符号化 解釈や意味づけ
- チャンキング 複数のチャンクを1チャンクにまとめる
一方、短期記憶の保持時間は短いので、記憶を意識的に留めて置くか、長期記憶に転送する必要があります。
このために、行われる処理操作のことを「リハーサル」と言い、リハーサルには2種類あります。
- 維持リハーサル 短期記憶を失わないように単純に反復すること(短期記憶を維持)
- 精緻化リハーサル 知覚符号化やチャンキングをすること(長期記憶へ転送)
これらを、マーケティング・プロモーションに応用すると、
- 記憶に残りやすいように、メッセージは7チャンク以内にする
- 記憶維持のために、何度も繰り返し見させる
- 精緻化リハーサルを促し、1つのチャンクにまとめあげる
ということが言えそうですね。
長期記憶
長期記憶は、知識の貯蔵庫で、短期記憶で意味的に関連づけられた形で情報が蓄積されています。
基本的に、長期記憶は永続的に保持され、容量にも制限がありません。
- 保持期間 永続的
- 保持容量 無限
長期記憶には、知識や思い出といった言語で記述できる「命題記憶」と、体で覚えていて言語で記述できない「手続記憶」があります。
脳神経科学的には、「命題記憶=陳述記憶」といい、「手続記憶」は「非陳述記憶」の1つのようです。(参考:脳科学辞典)
手続記憶の例としては、自転車の乗り方があります。みなさんは、自転車の乗り方を説明できますか?
命題記憶も非陳述記憶も、さらに細かく分類できます。再び、脳科学辞典を参考にしてみましょう。
- 長期記憶
- 命題記憶(陳述記憶)
- エピソード記憶 思い出などの時間的空間的に文脈をもった記憶
- 意味記憶 概念や知識
- 非陳述記憶
- 手続記憶 体で覚えたスキル
- プライミング 以前の経験に無意識に引きづられる現象
- 古典的条件付け 刺激→反応が自動的に起きる現象(例:パブロフの犬)
- 非連合学習 同じ刺激に反応が弱くなったり(慣れ)、強くなったり(感作)する現象
- 命題記憶(陳述記憶)
非陳述記憶は、無意識に使っている記憶なので、言われてみれば確かにという感じですね。
ブランドの形成
短期記憶で行われる知覚符号化は、ブランドの全体的評価(ブランド・イメージ)が、消費者の中でどのように形成されていくのかに関係があります。
例えば、自分はMuscle Pharmのプロテインが好きなのですが、1スクープあたりのタンパク質含有量が25gで、カロリー120kcal(その内、脂質が10kcal)といった客観的に測定可能な情報が特性情報に相当します。
ここから、一日60gぐらいのタンパク質量が必要だとすると、大体2スクープ摂取すればよく、栄養補給として十分であろうという主観的判断が属性情報に相当します。
一方、タンパク質含有量だけであれば、他の製品でも似たようなものなのに、なぜMuscle Pharmなのかというと、「水に溶けやすい」とか「味が甘めである」といった属性情報があるからです。
不足している栄養成分を補充できるという機能的価値や、溶けやすく調理時間が短縮できる機能的価値、および味が甘めで飲みやすいといった情緒的価値が、便益情報に相当します。
これらの便益情報を統合した結果、自分には「Muscle Pharmは好ましい」というブランド・イメージが出来上がっています。
このように、いくつか客観的な特性情報から主観的な属性情報が形成され、いくつか主観的な属性情報から価値を感じるかといった便益情報に集約され、いくつかの便益情報が統合されてブランド・イメージになる過程で、何度もチャンキングが行われています。
これは、逆算すると、作りたいブランド・イメージを便益情報・属性情報・特性情報に分解して考えることが必要なのかも知れません。
終わりに
結局、消費者の選好を作るには、人間の記憶の仕組みに合わせてマーケティング施策を考えた方がいいということなんでしょうね。
脳に関しては、科学的に分かっていない部分が多いので、何か発見があれば多重貯蔵庫モデルも改訂されるかも知れませんね。