前回、消費者行動分析の分析区分を、集合水準(レベル)と階層性(フェーズ)で分けました。
同時に、消費者行動に影響を及ぼす外的要因と内的要因の視点もリストにしましたが、これらを取捨選択するには分析の考え方(分析アプローチ)が必要になります。
分析アプローチを自分で考案することもできますが、ゼロから考案するのは骨が折れますし、せっかく苦労して考案しても既に誰かが考えていたものだったということもあります。
なので、既存の分析アプローチを押さえておくことは、効率的に分析するためには必要でしょう。
マーケティング検定試験の面で言うと、このあたりは「知識問題」が多くて、知らないと正解が分かりません。
そのため、分析はできなくとも、どういうものかを知っておくことは最低限必要だと思います。
今回は、階層性の中の消費行動の分析アプローチについて、まとめておきます。
目次
消費行動分析の目的
消費行動とは、生活資源の配分を決めることです。
生活資源は、狭義には所得を指しますが、実際には時間や空間も関わります。そのため、時間・所得・空間の配分と考えます。
おそらく、多くの方が「家賃は給料のX%くらい」「光熱費はY%くらい」「食費はZ%くらい」とか、一日の「睡眠はX時間くらい」「仕事はY時間くらい」「自由な時間はZ時間くらい」といったように、意識的あるいは無意識的に生活資源を配分されているのではないでしょうか?
この意識的あるいは無意識的に配分を決めている行動が、消費行動になります。
全ての物事を意思決定するのは脳に大きな負担がかかるため、人間の脳はパターン化して意思決定を減らし、省エネしようとします。
そのため、多くの方が、消費行動は生活の中でパターン化され、一定の様式になっていることでしょう。
消費行動の分析は、この生活様式や消費様式の選択メカニズムを解明し、変化の方向性を把握することです。
3つの分析アプローチ
考え方の「型」は、①分析対象にそのまま適用したり、②対象に合わせて少し変形したり、③問題点を見つけて新たな考え方を作ったりすることができて、思考を効率化します。
消費行動の分析アプローチにも、これまでよく使われてきた3つのアプローチがあるそうです。
- ライフサイクル・アプローチ
- ライフスタイル・アプローチ
- ライフコース・アプローチ
これらの分析アプローチの違いは、下図のようになります。
「ライフサイクル・アプローチ」は、マーケティングでも使われますが、保険業や結婚産業でよく使われているので馴染みがあるのではないしょうか?
特に、生命保険や健康保険では、ライフステージに合わせて保険料を変えていますよね。
ただ、ライフサイクル・アプローチの問題点は、「人間はだいたい同じ人生を送る」ことを前提にしている点です。
そんなわけないですよね。
特に、日本では、女性の社会進出、未婚化・晩婚化、少子化が進み、人生の多様化が進んでいます。
そのため、ライフステージ・アプローチは、時代に合わなくなってきたと考えた方が良さそうです。
そこで、個人の価値観に注目した「ライフスタイル・アプローチ」や、個人の選択経路に注目した「ライフコース・アプローチ」が生まれてきたようです。
個人的には、価値観だけで人生が決まる訳でもないし、経路の中でも価値観によって選びやすい経路が存在する気がします。
実際に選択機会に直面した時、価値観が複数の選択肢からどれを選ぶかという行動に影響を与えると考えられるためです。
なので、実際には、ライフスタイルとライフコースを統合したアプローチがいいのかな?と思いました。
ライフサイクル・アプローチ
ライフサイクル・アプローチは、人の一生をライフステージに分けて分析するアプローチです。
主に、家族ライフサイクルを軸にして分析します。
結婚、子供の誕生、子供の独立、退職などのライフイベントで、次のライフステージに移り変わっていきます。
ライフステージが変わると時間・所得・空間の配分が変わり、マーケティング施策も変える必要があるため、このようなアプローチが取られます。
家族ライフサイクルにおけるライフステージは、主に次のように設定されます。
- ライフステージ
- 独身段階
- 新婚段階
- 満杯の巣(子供が生まれる)
- 空の巣(子供が独立する)
- 老齢単身
ライフスタイル・アプローチ
ライフスタイル・アプローチは、人の価値観に注目して分析するアプローチです。
人は、その価値意識に応じて、時間・所得・空間の配分を変えるため、このようなアプローチが取られます。
この分析アプローチは、心理学を源流としているため、価値意識を測定するための心理尺度が存在します。
AIOアプローチ
AIOアプローチは、ライフスタイル・アプローチの代表的な手法です。
AIOとは、分析の観点を示す頭文字で、次のような3つの観点を表しています。
- Activities・・・活動=どのようなことに時間を使っているか
- Interests・・・関心=どのようなことに興味・関心を持っているか
- Opinions・・・意見=政治や社会問題などの出来事について、どう思っているか
これと、人口統計的属性を加えて、ライフスタイルを測定します。
VALS(Values and Lifestyles)
VALSは、スタンフォード大学が開発したライフスタイルの測定方法で、Values(価値観)とLifestyle(ライフスタイル)を合成した用語です。
価値やライフスタイル、消費行動に関する約800問の質問(多い!)を使って、ライフスタイルを以下の9つの型に分類します。
- VALSのライフスタイル型
- 生存者型
- 受難者型
- 帰属者型
- 競争者型
- 達成者型
- 私は私型
- 試行者型
- 社会意識型
- 統合型
改良型のVALS2や、日本社会向けのJapan-VALSなどもあるそうです。
LOV(List of Values)
LOVは、ミシガン大学で開発されたライフスタイルの測定方法です。
消費者の価値意識を、AIOやVALSに比較して簡易な調査で測定します。
具体的には、下記の9つの項目から重要な項目を2つ選び、そのほかの項目を相対的に順位づけます。
- LOVの測定項目
- 帰属意識
- 人生の楽しみや喜び
- 他人との温かい関係
- 充足感
- 他人からの尊敬
- 興奮
- 達成感
- 安心感
- 自尊心
ライフコース・アプローチ
ライフコース・アプローチは、人が一生の間にたどる人生経路に着目して分析するアプローチです。
人生の中で、人は様々な選択をしていきますが、それがライフコース(人生の軌跡)になっていきます。
ライフサイクル・アプローチが1つの経路しか扱わないのに対し、ライフコース・アプローチは選択によって樹形図的に経路が多様化する点が異なります。
例えば、一昔前は女性は結婚すると「主婦になる」選択が多かったですが、現在では「仕事を続ける」選択も普通になってきているため、ここでライフコースが分岐します。そのほかにも、出産を契機に「主婦になる」選択をされる方とされない方がいて、この段階でもまたライフコースが分岐します。
このようにして、ライフイベントを経るごとにコースが分岐していくと考えるのがライフコース・アプローチの特徴です。
まとめ
消費行動の分析アプローチを3つ見てみましたが、ライフサイクル・アプローチは現代日本には合わない印象でした。
「昔はこういう考え方もあった」とか、「保険業界はライフサイクルの考え方を使っている」といった理解の方法として利用することがあるかもしれません。
ライフスタイルの測定方法や、ライフコースの考え方は初見だったので覚えておこうと思います。
特に、AIO・VALS・LOVは、知らないと試験で全く回答できないので、特徴を押さえておく必要がありそうです。
というか、AIO・VALS・LOVのどれかは、前回の受験でも出題された気がします。「なんのこと?」と思った記憶が・・・。