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組織行動論③|リッカートの組織論

社会学や心理学の調査でアンケートを用いたことがある人なら、「リッカート式」回答方式は聞いたことがあるのではないでしょうか?他にも、現在でも用いられる原因変数・媒介変数・結果変数による調査モデルを提唱しており、リッカートは調査方法の進歩への貢献が著しい印象があります。それに比べると、リッカートの組織論はあまり知られていないかも知れません。

しかし、行動科学的組織論を調べていくと必ずと言っていいほど名前があがっていて、組織行動論に大きな貢献をしたことが分かります。

そこで、今回はリッカートが提唱していた組織論について学んでいこうと思います。

背景

リッカートが所長を務めていたミシガン大学の社会調査研究所では、さまざまな組織の業績が最も優秀な部門とそうでない部門におけるリーダーシップと諸要因を比較し、違いを明らかにするための実証研究をしていました。この研究は、企業・官庁・病院・団体を含む35組織を対象に、延べ75の調査プロジェクトが1947年から1961年の15年間にわたって行われた大規模なものでした。(山口1972)

この調査の結果を、リッカートは3つにまとめています。

図1.リッカートらの調査結果

この結果から、リッカートは、「業績の高い部門の管理者や監督者は従来理論とは異なるリーダーシップをとっている」が、「それらはまだ体系づけられていない」と結論づけました。

リッカート理論

上記の実証結果は、従来の組織論の仮説の欠陥を指摘したもので、この欠陥を補うために、リッカートは下図のような「モチベーション仮説」と「概念的フレームワーク」「リーダーシップ論」を理論の基礎としました。

図2.リッカート理論の構成仮説群

モチベーション仮説

従来の組織論が経済的動機だけで行動する人間観を持っていたのに対し、リッカートは「人間の行動の源泉には①自我動機、②安定動機、③好奇心、創造性、新体験への欲求、④経済的動機の4つがある」としました。

第一の自我動機は、マズローの自己実現欲求や承認欲求に近く、自分の存在価値や重要性を感じたいという欲求です。第二の安定動機は、マズローの所属の欲求と安全の欲求に相当し、不安を解消し安心したいという欲求です。第三の創造動機は、マズローが欲求階層には入れなかった基本的欲求である「知りたい欲求」と「理解したい欲求」に相当します。

つまり、従来の組織論との違いは前提とする人間観の違いであり、その違いは経済的動機以外の動機(自我動機、安定動機、創造動機)に原因があるという考えです。

概念的フレームワーク

後の心理学や社会学の測定法に大きな影響を残したリッカートは、社会科学の発展によって測定可能になった変数を組織論や管理論に適用しました。これらの変数は、概念的に3つの変数群(原因変数、媒介変数、結果変数)に分けることができ、それらを1つのフレームワーク「原因変数→媒介変数→結果変数」という時間軸と因果関係で表しました。このフレームワークは、現在では「Antecedents and Consequences」と呼ばれ、多くの研究で使用されています。

図3.リッカートの概念的フレームワーク

原因変数は、コントロール可能な独立変数の集まりで、リッカート理論では「リーダーシップ」が割り当てられています。媒介変数は、原因変数に影響され、結果変数に影響を与える中間変数で、態度やモチベーションが相当します。結果変数は、従属変数のことで、組織論では生産性や欠勤、収益などの組織業績の変数がよく用いられます。(山口1972)

媒介変数と結果変数は調査に合わせて選択する必要があります。例えば、結果変数として業績変数「生産性」を選んだ場合、媒介変数として行動変数「離職」を選ぶことがあります。一方で、結果変数として態度変数「離職意向」を選んだ場合、媒介変数として心理変数「職務満足度」を選ぶこともあります。したがって、「態度変数は媒介変数でなければならない」とか「結果変数は行動変数でなければならない」と限定されているわけではありません。

リーダーシップ論

上記の調査結果から、リッカートは、概念的フレームワークにおける原因変数にリーダーシップを考えました。リッカートのリーダーシップ論は、①支持的関係の原則、②監督の集団方式による高効率集団、③高い組織業績目標を達成する重複的集団形態と連結ピン機能の3つに分類されます。

図4.リッカート理論の概念的フレームワーク

支持的関係の原則

支持的関係とは、自我動機が充足されるような関係のことです(山口1972)。リッカートによれば、「組織体の中の人間が、自分の経歴・価値・欲求・期待のすべてについて組織のあらゆる相互作用・人間関係の中で支持されているという実感を持つこと、さらに人間としての尊厳性を自覚し、かつ信じ続けること、これを組織体のリーダーシップやその他のやり方によって最大限もたらすようにする」(岡田2004)ことが支持的関係の原則だといいます。そして、支持的関係が形成されると「組織の使命が、その構成員に心から重要なものと受け止められる」(岡田2004)ことで組織の成功に欠かせないものになります。

これは、人間関係論における「社会的技能」が発揮された関係、アージリスの「対人関係」そのもの、あるいはマグレガーのY理論における「組織と個人の統合」と同義と考えてもよさそうです。

そして、たいていの人は、個人が最も多くの時間を過ごす作業集団からの支持的関係を得るために、作業集団の目標や価値と合致するように行動を動機づけられます。こうして、「組織は、その構成員が高い業績目標を有する高度に効率的な作業集団の成員として働くとき、最高の機能を発揮する」(岡田2004)ことが、支持的関係の論理的帰結として導出されます。

集団的意思決定

従来に伝統的組織構造では、社長が役員に特定の権限と責任を移譲し、それぞれに対して結果責任を留保する。ついで、同様に、役員が部長に対して権限・責任の移譲と結果責任を課す、という連鎖が最下層まで続いています。この中では、方針伝達、指揮命令、審査承認、統制などが基本的に1対1のコミュニケーションで行われています。これに対して、リッカートは集団的意思決定と重複的集団型組織を提唱しています。

集団的意思決定とは、チームのような小集団で意思決定を行うことで、次のようなメリットがあります。

  • 問題をよりよく気づかせ、よりよい意思決定をもたらす効果的な情報伝達が生じる
  • 各集団の一人ひとりの成員は決定に参画していることになり、目標と自我との高度な一体感を持つことになる

しかし、複数の小集団の意思決定は整合しない可能性があります。そこで、小集団の代表1名を、小集団を束ねた上位集団へ送り込み、上位集団で各小集団の意思決定をふまえた意思決定を行うようにします。これを繰り返すと、各集団の代表者によって重複的に束ねられた組織(下図)が形成されます。これが、重複的集団型組織と呼ばれる仕組みです。

図5.集団的意思決定と重複的集団型組織

各集団の代表者は、必ず下位集団と上位集団の2つに所属し、両集団の意思決定を調整する役割になります。集団と集団を連結する役割になることから、この役割は「連結ピン」と呼ばれ、調整機能は「連結ピン機能」と呼ばれています。この役割は、通常、管理者が担います。

高い組織業績目標

重複的集団型組織は、いわゆるボトムアップ型組織で、組織の構成員一人ひとりが高い組織業績の目標を持つ必要があります。そうでなければ、小集団は達成可能な目標設定を意思決定してしまい、今まで通りの組織業績は得られても、高い組織業績は達成できないでしょう。

しかも、その高い業績目標は、組織の構成員の目標と自我の一体感を持つ必要があるため、決して頭ごなしに強制されてはいけません。そのため、構成員が高い目標を持てるような仕組みを作らなければなりません。

システム論

以上の結果と考察から、リッカートは組織におけるリーダーシップのスタイルを様々な変数と結びつけて、下図の4つの管理システムとして概念化しています(岡田2004)。リッカートの組織論では、自我動機を充足するシステム4が理想となります。

図6.リッカートのシステム1〜4(岡田2004より抜粋)

システム1

独善的専制型管理システム(Exploitive authoritative)

システム1の組織では、管理者は部下を信頼しておらず、管理統制しないと何をしでかすか分からない存在と考えています。そのため、意思決定や目標設定に部下を参加させません。上層部だけで決められた方針や目標は、命令系統で下層部に伝えられます。

従業員の意見を上層部が聞くことはなく、従業員は恐怖や懲罰あるいは金銭的報酬によって働かされています。従業員は、生理的欲求や安全欲求がかろうじて満たされますが、上層部に恐怖心や不信感を持っています。そのため、非公式組織ができやすいです。

ティール組織の文脈でいえば、レッド型組織に相当するでしょう。

システム2

温情的専制型管理システム(Benevolent authoritative)

システム2の組織では、管理者は部下を信頼していますが、それは部下が管理者の言いなりになっているからです。部下が言った通りに行動しないと、管理者は部下への信頼を失い、部下を躾けようとします。部下が服従することが前提なので、意思決定や目標設定は上層部だけで行われます。

管理者は、従業員を躾るためにアメ(報酬)とムチ(懲罰、懲罰の仄めかし)によって動機づけを行います。そのため、従業員には恐怖心や猜疑心が見られます。非公式組織は作られやすいですが、極端な軋轢は生じません。

階層構造が強固なピラミッド型組織は、システム2に相当するでしょう。ティール組織の文脈だと、アンバー型相当でしょうか?

なんというか、管理者が上から目線な感じですね。

システム3

相談型管理システム(Consultive)

システム3の組織では、管理者は部下を相当程度信頼しているものの、基本方針や全体的な決定は上層部で行われます。しかし、権限移譲も進んでいるため、個別的な意思決定は部下に任せています。

管理者と部下の交流は活発で、動機づけにはアメ(報酬)とムチ(懲罰)のほかに意思決定への参加が部分的に用いられます。そのため、従業員にも責任意識が共有されています。

ティール組織で言えば、うまく機能しているオレンジ型組織のイメージでしょうか。

システム4

集団参加型管理システム(Participative group)

システム4の組織では、管理者は部下を全面的に信頼し、意思決定は広く組織全体各部署で行われ、全体としても統合されています。統制機構は、広く権限移譲されて職場単位で責任が分掌されています。

上司部下間には緊密な交流が見られますが、それだけでなく同僚間でもコミュニケーションが活発です。従業員の動機づけには、報酬制度の策定、目標設定、作業改善、達成度評価など多岐にわたる参加とその関与が用いられます。

ティール組織の文脈だとグリーン型が近い気がしますが、グリーン型の特徴である家族的関係ではないと思うので、違うかもしれません。

まとめ

リッカートの名前は測定方法の方で知っていましたが、組織行動論の研究をしていたことは知りませんでした。リッカートのモチベーション仮説はその後のモチベーション研究ではあまり見ないですし、システム論の組織の分類は成人発達理論を基にしたティール組織の文脈に置き換えられてしまった印象があります。

しかし、リッカートの概念的フレームワークは、後の研究で本当によく使われていています。個人的には、このフレームワークを発明したのもリッカートだったことに驚きました。常識になってしまったたメカ、リッカートが作ったフレームワークだとはほとんど言及されていないんですよね。

システム4が実現するのが理想ですが、現実的には難しそうだという印象を持ちました。小集団や部署ごとに意思決定をすると、部門主義とサイロ化が進行してしまい、全体が統合できない事態に陥りそうだからです。

ただ、システム4の重要な特長である「意思決定への参加」は、制御可能なモチベーションの原因変数として以後の研究でも言及され続けています。もし、組織のモチベーションが下がっていると感じたら、制度や目標・評価を決める場面に参加させることを考えてみてはいかがでしょうか。

参考文献

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