創造性の心理学14|ウッドマンの相互作用主義モデル

こんにちは、やまもとです。

創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。

創造性のコンポーネント理論で3つ目に紹介されたのは、ウッドマンの相互作用主義モデルでした。個人の創造性について相互作用主義モデルを提唱した論文(Woodman & Schoenfelt, 1990)は、残念ながら読めませんでした。しかし、組織の創造性に関する相互作用主義モデルを提唱した論文(Woodman, et al., 1993)は読めました。こちらにも、個人の創造性に関する相互作用主義モデルは内包されていますので、これを参考に内容をまとめてみたいと思います。

なお、Woodmanらは、組織的創造性をイノベーションの部分と定義しています。また、イノベーションを組織変革の部分と定義しています。

相互作用主義

WoodmanとSchoenfeldtは、個人レベルの創造的行動の相互作用主義モデルを提唱しました。これは、創造性は人の行動と与えられた状況によって生み出されるというものでした。状況は、文脈的影響と社会的影響から構成され、これは創造性の促進要因にも阻害要因にもなります。人は、さまざまな先行条件に影響され、認知的能力と非認知的特性(または予測)を発揮します。

相互作用主義モデル

先行条件とは、その人の生物学的特徴や、学習・経験などです。認知的能力は専門知識や発散的思考力など、非認知的特性はモチベーションや自尊心などの感情に相当します。社会的影響は、有名になる・褒められるなどの人や社会との関係性による影響です。文脈的影響は、目標や締め切りなどの論理的・物理的な制約などの影響です。

結局のところ、相互作用主義とは、人と状況の相互作用によって創造性が発揮されるかどうかが決まるという立場です。創造的な人がいても、創造的な状況が無ければ、創造的アイデアは実現されません。反対に、創造的な状況があったとしても、創造性を持った人がいないと、結局は創造的アイデアは出てきません。つまり、創造性は、人と状況の両方が揃って初めてアイデアとして実現するということです。

コンポーネント理論として見ると、相互作用主義モデルは、①先行条件、②認知的能力、③非認知的特性、④社会的影響、⑤文脈的影響の5要素で創造性が構成されていることになります。

組織的創造性への拡張

Woodmanら(1993)は、相互作用主義モデルを組織の創造性に拡張しました。

相互作用主義のダイナミクスモデル

Woodmanらは、これをダイナミクスモデルと呼んでいます。基本的な構造は、創造的な個人が集まってグループを構成し、創造的なグループが集まって組織を構成し、創造的な組織の行動(例えば、発明)として組織的創造性が発揮されたことがわかるというものです。

フィードバック構造

もう一つの重要な構造は、4つのフィードバック構造です。一方通行な直線型の基本構造に対して、フィードバック構造は、逆向きに影響を及ぼします。

フィードバックの1つ目は、文脈的影響です。経営者と現場担当者は、通常人間的な関わりが薄く、経営方針や目標といった形式的情報でのコミュニケーションが主になります。現場担当者は、情報から文脈を読み取り、自分のタスクを制約(例、納期、品質など)を加えることで、個人やグループの創造性の影響を及ぼします。

フィードバックの2つ目は、社会的影響です。チームメンバーやチームリーダーとは、直接的関わりを持ち、そこには情報化されない信頼などの人間関係(つまり、社会)が生まれます。チームメンバーは、直接的なコミュニケーションによって、他のメンバーの創造性に影響を及ぼします。

3つ目のフィードバックは、個人やグループの創造的行動が、個人やグループの創造性に影響を及ぼすことです。例えば、1つの発明が、別の発明の呼び水になり、次々と発明が生まれることがあります。これは、製品の発明に限らず、新しいプロセスの発明の場合でも同様です。

最後のフィードバックは、個人の創造性から社会的影響や文脈的影響へ、グループの創造性が文脈的影響へ影響を及ぼすことがあることです。社会的影響は、グループの関係者から自分が影響を受けることを示しています。しかし、もちろん逆に自分が影響を与えることもあります。

以上から分かるように、個人の創造性で創造的な状況を示した社会的影響と文脈的影響は、フィードバック構造として埋め込まれました。

コンポーネント

個人とグループの創造性には、フィードバックの他に、それぞれ必要な要素(コンポーネント)があります。

先行条件

初期の創造性研究は、天才たちの共通の特徴を見出し、その特徴から創造性を予測しようというものでした。そのため、創造性が発揮されるより前に、創造性を予測可能な、先行条件があると考えられています。

Singh (1986) は、人格的データと生物学的データの相互作用によって、創造性が予測できることを実証したそうです。このことから、先行条件が、パーソナリティや個人の認知特性に影響をお呼びしていると考えられます。

個人の創造性

個人の創造性には、先行条件、社会的影響、文脈的影響の他に、個性(パーソナリティ)と認知能力(または認知スタイル)、内発的動機(内発的モチベーション)、知識が必要としています。

パーソナリティと認知能力は、先行条件の影響を受け、比較的先天性が大きい要素です。内発的モチベーションや知識は、先天性は比較的小さい要素です。

それぞれについて、創造性と関連が見出されているものを挙げて行きます。

パーソナリティ

  • 経験に基づく美的センス、幅広い興味、複雑さへの関心、高いエネルギー、判断の独立性、自律性、直感、自信、自己概念の対立解消力、矛盾受容力、創造意識の強さ(Barron & Har-rington, 1981, p. 453)
  • 粘り強さ、好奇心、エネルギー、知的誠実さ(Amabile,1988)
  • 内的統制の所在(Woodman & Schoenfeldt, 1989)

認知能力

  • 発散的思考(Guilford, 1984)
    • 流暢性・・・アイデアの数
    • 柔軟性・・・アイデアのカテゴリーの数
    • 独創性・・・他者から出なかったアイデアの数
    • 精密性・・・具体的に説明できるアイデアの数

内発的モチベーション

  • 注意と目標
    • 注意の制御(Simon, 1967)、注意の自己調整(Kanfer, 1990)が創造性に影響
    • 目標が、注意の自己調整を促進させる(Kanfer & Ackerman, 1989)
  • 評価への期待
    • 期待が創造性を損なうが、技術的側面には影響しない(Amabile, 1979)
    • 将来の評価の予期が創造性に大きな影響を与える(Amabile, 1983)
  • 外発的報酬
    • 選択余地のない課題に対する金銭的報酬は創造性を高める。
    • 自ら選択した課題に対する金銭的報酬は創造性が低下する。
  • 自己決定
    • タスクの遂行方法に関する選択が、人の内発的興味と創造性を高める(Amabile, 1983)

参考:アマビールの創造性

知識

グループの創造性

グループによる創造的成果には、個人の創造性とは別に、グループ構成・グループ特性・グループプロセスなどが創造性を促進するものでなければならない。

グループ構成・グループ特性

  • KingとAndersonの特性
    • 協調的リーダーシップ、グループの凝集性、グループの寿命、多様なメンバー構成、有機的構造(King & Anderson, 1990)
    • グループの凝集性、グループの寿命は創造性と曲線的(逆U字)な関係(Nystrom、1979年)
  • Payneの特性
    • 資源の利用可能性、リーダーシップ、グループのサイズ、凝集性、コミュニケーションパターン、グループの多様性(Payne , 1990)
    • グループの多様性が研究開発チームの科学的認知、効果、出版記録における分散の 10 パーセントを説明する(Andrews, 1979)

問題解決プロセス

  • 集団問題解決技法(例:ブレインストーミング)
    • アイデアの評価を抑制するルールや規範があれば、他の人のアイデアを基にすることができ、より多くの新しいアイデアが生み出されるという信念のもとに開発された
    • 集団では個人によるアイデアの生成が少ないという圧倒的な証拠が示されている(Stein, 1974)
  • HackmanとMorris (1975) のグループ効果変数
    • プロセス損失・・・タスク・パフォーマンス戦略のエラー
    • 調整の損失・・・グループメンバーの努力の不十分な統合
    • 動機の損失・・・不適切な行動を強化する報酬システム
    • 動機の取得・・・社会的促進や他のメンバーからの生産圧力
  • 相互作用的グループ
    • 名目的なグループよりも相互作用的なグループの方が創造性課題の達成度が高い(Yetton & Bottger, 1982)
    • 最も能力の高い人の回答に重きを置くことができるためと考えられる(Yetton & Bottger, 1982)

社会的情報(情報共有、知識共有)

  • 定義
    • 人々が職場においてどのような要素を重視し、現在の状況においてそれらの要素をどのように評価しているかについて他者に与える口頭および口頭以外の合図や信号
  • 効果
    • 個人の知覚、態度、行動のさまざまな結果に影響を与える(Griffin, 1983; Griffin, Bateman, Wayne, & Head, 1987)
    • 高い創造性を必要とする非構造的な問題解決タスクの認識は、創造性をあまり必要としない構造化されたルーチンタスクの認識よりも社会的影響を受けやすい(Bateman, Griffin, & Rubinstein, 1987 )

組織の創造性

組織の創造性は、グループの創造的行動と内外環境の状況(文脈的影響)に依存しています。ここでは、文脈的影響についてあげていきます。

組織文化

  • 文化と認知スタイルの一致は、創造性を支援する組織条件
  • 組織のコンテキストは、認知スタイルが一致する人を惹きつける(Schneigder, 1987)
  • 職業によって、支持される認知スタイルが異なる(Hayward & Everett, 1983)
  • 古い組織に魅力を感じる人は新しい認知スタイルに抵抗があるため、組織文化を変えることは困難なことが多い
  • 無理に組織文化を変えると、認知スタイルが合わない人が離れていく

評価システム

  • 問題に対する代替案の生成とその評価を分離すべき(Cummings & O’Connell, 1978)
  • マトリックス構造のプロジェクト・マネジャーと機能的マネジャーの適切な役割分担が、R&D 全体の生産性を向上させる(Katz & Allen, 1985)
    • プロジェクトマネジャーの役割
      • 組織全体に対する影響力
      • 組織の他の構成要素との相互作用
      • 重要なリソースの獲得など
    • 機能的マネジャーの役割:
      • プロジェクトの技術的内容に関する意思決定
      • スタッフの技術的専門知識に関する理解
      • スタッフの適切な配置
    • 業績報酬コントロールの最善な方法
      1. プロジェクトマネジャーが行う
      2. プロジェクトマネジャーと機能的マネジャーの間で共有する

イノベーション

  • イノベーションと負の相関
    • 正式な監督レベルの数と研究開発要員の数(Paolillo & Brown, 1978)
  • イノベーションと正の相関
    • 自律性、情報の流れ、創造性、病棟、トレーニング(Paolillo & Brown, 1978)
    • 研究プロジェクトチームの規模(最大5人)(Paolillo & Brown, 1978)
    • 業績報酬依存性、柔軟性、知覚された革新性(着手・採用・実施で相関、Abbey & Dickson, 1983)
    • 報酬の水準と達成動機(着手で相関、Abbey & Dickson, 1983)
    • 革新に対するリーダーシップのサポート、従業員のアイデアの所有、多様性と継続的な開発のための規範、プロセスと製品の間の一貫性(Siege & Kaemmerer, 1978)

外部環境

  • 環境の不確実性は、特定の経営方針をもたらし、それが後にイノベーションの開始をもたらす(Ettlie, 1983)
    • 技術的イノベーションの方針→急進的なプロセス・イノベーション
    • 経営陣のマーケティング志向→直販→急進的な製品イノベーション
    • 環境の不確実性⇄業績格差の認識、経営トップと顧客の関与の方針、市場直販の方針
  • 外部環境との情報交換は、アイデア創出に影響を与える(Cummings & O’Connell, 1978)
  • 技術サービスプロジェクトは、研究開発プロジェクトに比べ、組織内コミュニケーションが有意に多い(Allen, Lee, & Tushman, 1980)
  • 組織が外部情報を認識し利用する能力がイノベーションに重要である(Cohen & Levinthal, 1990)

システムモデル

Woodmanら(1993)は、以上の検討を踏まえて、創造性の相互作用主義のシステムモデル(下図)を提唱しました。

相互作用主義のシステムモデル

このモデルでは、創造的な個人・グループ・組織を入力として、創造的行動と創造的状況に変換され、それらの相互作用によって組織的創造性(組織的創造的成果)が出力されることを表しています。

感想

組織的な創造性が、状況に左右されるというのは、企業人であればよく分かるのではないでしょうか。創造的アイデアは、尖ったアイデアであればあるほど、他人から理解されず、上層部から抵抗にあいます。つまり、社会的影響も文脈的影響も受けます。

かなり昔の論文でしたが、評価システムのプロジェクトマネージャーと機能的マネージャーを分けた方がいいという結果は、スクラム開発におけるスクラムマスターとプロダクトオーナーの関係に似ている気がしました。もしかしたら、この結果を参考にしているのかもしれませんね。

また、外部環境との情報交換がアイデア創出に影響するというのは、現在のオープンイノベーションの考え方につながってくるのでしょうね。

それにしても、ブレストではアイデアは出ないという結果は、1974年に提出されていたんですね。。。みなさん、知っているのでしょうか。。。

参考文献

本来、文献1が参照されていましたが、それよりも引用が多い文献2を主に参考にしました。文献1は個人の創造性について、文献2は組織の創造性についての論文です。後世では、文献2の方が重要度が高いようです。

  1. Woodman, R. W., & Schoenfeldt, L. F. (1990). An interactionist model of creative behavior. The Journal of Creative Behavior.
  2. Woodman, R. W., Sawyer, J. E., & Griffin, R. W. (1993). Toward a theory of organizational creativity. Academy of management review18(2), 293-321.

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