こんにちは、やまもとです。
創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。
創造性のコンポーネント理論の2つ目は、スターンバーグの投資理論です。残念ながら、原典となった書籍「Defying the Crowd」は読めなかったので、2006年の論文「The nature of creativity」を参考にまとめてみたいと思います
目次
投資理論とは
投資理論と聞いても、「創造性がなぜ投資なのか?」という疑問を持つのではないでしょうか?自分もそうでした。下記は、Sternberg自身による概要になります。
投資理論の概要
私たちが提唱する創造性の投資理論(Sternberg & Lubart, 1991, 1995)は、アイデアの領域で「安く買って高く売る」ことを厭わず、それができる人が創造的な人であるという合流理論です(経済理論の概念を用いている点については、Rubenson & Runco, 1992も参照)。「安く買う」とは、未知のアイデアや流行遅れのアイデアであっても、成長の可能性を秘めたものを追求することです。このようなアイデアは、最初に提示されたときには抵抗を受けることがよくあります。創造的な人は、この抵抗にもめげず、次の新しいアイデアや人気のないアイデアに移って、最終的に高く売るのです。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
つまり、「ほとんどの人が見向きもしないアイデアを追求すること=人気がなく安い商品を購入すること」と喩えて「投資」と言っているようです。
投資の考え方は、「世に広まった創造的なアイデアは、当初、創造的であるがゆえに誰にも共感されず、むしろ拒絶された」という経験則をうまく表現しています。実際、Sternbergも次のような記述をしています。
拒絶される創造的アイデア
創造的なアイデアは、新規性と価値を兼ね備えています。しかし、創造的なイノベーターが既得権益に立ち向かい、群衆に逆らうと、しばしば拒絶されてしまう(参照:Csikszentmihalyi, 1988)。群衆は、意図的に創造的なアイデアを拒否しているわけではない。むしろ、提案されたアイデアが有効で先進的な考え方であることを理解していないし、理解しようともしないことが多い。社会は往々にして、現状に反対することは迷惑であり、不快であり、革新的なアイデアを無視するのに十分な理由であると認識しています。
創造的なアイデアは、しばしば再検出されるという証拠がたくさんあります(Sternberg & Lubart, 1995)。文学や芸術の主要作品の最初のレビューは、しばしば否定的なものです。トニ・モリソンの『タール・ベイビー』は出版当初、シルビア・プラスの『ベル・ジャー』と同様に否定的な評価を受けました。ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクの作品がミュンヘンで初めて展示されましたが、批評家からの強い否定的な反応のために、その日のうちに閉幕しました。偉大な科学論文の中には、一人だけでなく何人ものジャーナルに拒絶されたものもある。例えば、著名な生物心理学者であるジョン・ガルシアは、古典的条件付けと呼ばれる学習形態が1回の学習試行で生成されることを初めて提案したとき、即座に非難された(Garcia & Koelling, 1966)。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
社会的拒絶の原因「(群衆は、)理解していないし、理解しようともしない」が実に的を射ていますね。こうして、悪気なく拒絶できてしまうので、拒絶した群衆には罪悪感は全くないでしょう。さらに、これは「現状に反対することは迷惑であり、不快であり」という本能的な安全欲求(の安定した構造を求める欲求)に根差していて、ほぼ無意識に判断されています。
つまり、「創造的なアイデアほど、当初拒絶される」という現象は、人間の本能に原因があるため、避けることができません。
このことから、Sternbergは投資理論を次のように説明しています。
投資としての創造性
投資の観点から見ると、クリエイティブな人は、最初は価値のないアイデアを提示し、その価値を他の人に納得してもらうことで安く買います。そして、他の人にそのアイデアの価値を認めさせ、投資の価値を高めた後、そのアイデアを他の人に託し、別のアイデアに移ることで高く売るのです。人は自分のアイデアを他の人に気に入ってもらいたいと思うものですが、あるアイデアがすぐに万人の喝采を浴びるということは、そのアイデアが特別に創造的なものではないことを意味します。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
ステージ理論に戻ると、創造性に必要なインキュベーション・ステージで、創造につながる再構築や洞察が必ずしも得られるとは限りません。そのため、その前の準備ステージで、知識の獲得に時間をかけたりすることは、ある意味「投資」と考えることができそうです。
投資理論のコンポーネント
投資理論によれば、創造性には、知的能力、知識、思考スタイル、性格、動機、環境の6つのコンポーネントが必要です。さらに、これらの合流(confluence)が必要と言っています。創造性の個人差は、6つのコンポーネントの差もありますが、むしろコンポーネントを使用する意思決定の方がより重要になります。
知的能力
知的能力は、料理で喩えると、調理技術のことです。料理には、切る技術、焼く技術、味付け技術、盛り付け技術などさまざまな技術が使われています。
同様に、知的能力は多種多様ですが、Sternbergは、特に重要なのは次の3つだと言っています。
- 合成・・・問題を新しい方法で捉え、従来の考え方の枠から抜け出す能力
- 分析・・・自分のアイデアのうち、どれに追求する価値があるか認識する能力
- 文脈・・・自分のアイデアの価値を、他人に説得し、売り込む能力
そして、この3つの能力の組み合わせが重要で、それぞれ単独で用いると負の効果が現れます。
- 合成のみ・・・次々とアイデアを出したまま検証しない
- 分析のみ・・・批判的思考が強くなり、反対意見ばかりになる
- 文脈のみ・・・売り込むことに必死になり、アイデアそのものの質を顧みなくなる
そのため、Sternbergの言う知的能力とは、3つの能力のバランスよく掛け合わせたものになります。
ちなみに、思考力の高い人は、大局的な計画に比較的多くの時間を費やす傾向があることがわかっています。逆に、思考力が低い人は、局所的な計画に比較的多くの時間を費やす傾向があります(Sternberg, 1981)。
大局的な計画とは、料理人が創作料理をする際に、最終的な完成形をイメージする作業と似ているでしょう。反対に、局所的な計画とは、目の前にある食材を使って、次にどう調理するかだけを計画するのと似ています。後者は、何が出来上がるのかわかりません。
知識
調理技術が優れていたとしても食材がなければ料理ができないように、創造には優れた知的能力を生かす材料となる知識が必要です。例えば、インドの食材を使って、和食を作れば、新しい料理ができるかもしれません。
しかし、知識は蓄積すれば蓄積するほど専門性が向上していきます。すると、専門性によって閉鎖的で凝り固まった視点になり、過去の方法を越えられなくなります。
専門性を高めつつ、創造性を阻害しない方法について、下記の記事を参考にしてください。
- 参考:専門性が洞察を阻害する
そのような現象について、Sternbergは自らの研究の例を上げています。
例えば、ブリッジの専門家と初心者を対象とした研究(Frensch & Sternberg, 1989)では、通常の状況下では専門家が初心者よりも優れていることがわかりました。ゲームの表面的な構造に変更が加えられた場合、熟練者も初心者もプレー中に少し傷ついたが、すぐに回復した。深い構造的な変化を与えると、最初は上級者の方が初心者よりも傷ついたが、その後上級者が回復した。その理由は、ゲームのルールが深く変更されたときに、初心者よりも上級者の方が、既存の構造をより深く利用しているため、思考を再構築しなければならないからだと考えられます。そのため、自分の過去の知識を使うかどうかを決める必要があるのです。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
思考スタイル
思考スタイルは、料理で言うと、伝統を守るのか、効率を優先するのかといった料理人の指向性に相当します。同じ技術と食材を持っていたとしても、指向性の違いによって、出来上がる料理は異なります。創造性に最も近いスタイルは、新しい料理を生み出していく創作料理スタイルになるでしょう。
この新しい方法で考える指向性を持つ思考スタイルを、Sternbergは立法スタイルと呼んでいます。法律という新しいルールを作るのが「立法」の役割だからでしょう。ただし、「新しいことを考えるのは好きだが、考えるのは苦手」という人(またはその逆の人)もいるので、この指向性と創造的に考える能力は区別する必要があります。
また、思考スタイルが同じ人から高い評価を受けやすいことも分かっています。
私たちの研究(Sternberg, 1997b; Sternberg & Grigorenko, 1995)では、立法的な人は、立法的でない人に比べて、創造性を重視する学校であれば、良い生徒になる傾向があることがわかりました。創造性を重視しない学校や、創造性を軽視する学校では、生徒の成績が悪くなる傾向があります。また、生徒は自分の思考スタイルに合った教師から高い評価を受けることがわかりました。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
つまり、創造的な人は、創造的な人がいる職場にいないと、その才能が埋もれてしまいます。
性格
創作料理は、万人受けするとは限りません。もし、万人受けしたいのであれば、その社会で普段食べられている一般的な料理にした方が無難です。つまり、創作料理を続けるには、一般の人々に逆らってでも貫く固い意志が必要になります。このことから、創造性には、料理人のある種の性格が関わっていると考えられます。
Sternbergらの研究では、リスクテイク傾向が創造性と関連していることが分かりました。そして、問題点も明らかにしています。
ある研究(Lubart & Sternberg, 1995)では、リスクを取る傾向が強いほど、作品の創造性と関連するが、エッセイではそうではないことがわかった。その理由を探ってみると、評価者の中には、人気のない立場の作文を採点する傾向があることがわかった。つまり、人が創造性を発揮するときに直面するリスクの一つは、たとえリスクを取る経験であっても、評価者が自分の信念に反するようなリスクは評価しないということだということがわかりました。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
これを料理で考えてみましょう。創作料理を食べた人が「和食こそ至高」という信念を持っていた場合、その料理をどのように評価するでしょうか?「これは和食じゃない」と低く評価するのではないでしょうか?すると、この創作料理は、創造性とは全く違う観点で、創造性がないという烙印を押されてしまいます。
モチベーション
調理技術、食材、創作指向性、リスクテイク志向を持つ料理人でも、料理という行動を取らなければ創造性は発揮されません。そのため、行動に移す動機(モチベーション)が必要になります。例えば、美味しい料理を食べさせたい、といった欲求です。
このような内発的モチベーションの必要性については、アマビールの創造性でも説明しています。
環境
料理人は、調理技術や食材を持っていても、調理器具やキッチンがなければ、料理で創造性を発揮することができません。
言い換えると、ある人が創造性を発揮するには、それを発揮できる環境が必要です。
ただし、フルコース料理をコンロ1つのアパートのキッチンで作るのは難しいでしょう。つまり、たとえ環境があったとしても、創造性を発揮するには十分ではない可能性があります。この場合、料理人に創造性が備わっていたとしても、創造的なアウトプットは出てきません。
また、環境には、評価者が「創造的である」と評価しやすい環境も含まれます。Sternbergらの研究によると、同年代の作品の方が「創造的」と評価しやすい傾向があるそうです。
環境の一部は、誰が評価をするかによって決まります。私たちの研究(Lubart & Sternberg, 1995)では、異なる年齢の人の創造的な製品を、異なる年齢コーホートの評価者に創造性を評価してもらいました。その結果、評価者はほぼ同年代のクリエイターの製品をより創造的と評価する傾向があるという、コーホートマッチングの非公式な証拠が得られました。例えば、人は自分の親や子供が育った世代のポピュラー音楽よりも、自分が思春期に育った世代のポピュラー音楽を好む傾向があると言われています。このように、創造性の成長パターン(Simonton, 1994)は、評価者による創造性の評価基準の変化によって決まることがあります。
Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
コンポーネントの合流
投資理論では、上記の6つの構成要素が合流点で、創造性が発揮されるとしています。
ただし、6要素の単純な合計ではなく、Sternbergは、以下のような要素の段階性あるいは要素間の相互作用の可能性を指摘しています。
- 構成要素が有効になるための閾値が存在する可能性(例えば、知識は一定以上の専門性が必要な場合)
- 構成要素間の補完効果の可能性(例えば、強い動機で劣った環境を克服できる場合)
- 構成要素間の相乗効果の可能性(例えば、知識が増えると動機が強くなる場合)
従って、創造性を発揮して貰うには、環境・知識・知能・性格・志向・動機が適合するように最適化する必要があります。
創造性の開発
投資理論では、創造性の大部分は「決断」だと考えます。これは、決断力を鍛えることで、創造性を高められることを意味しています。
例えば、知的能力が高くても、その力を使うことを決断しなければなりません。また、創造的アイデアでは、従来と異なる考え方をする必要がありますが、そのためには「従来とは異なる考え方をする」という決断が必要になります。これは、従来通りという安定を捨て、不確かで曖昧な考え方を選ぶという「決断」であり、リスクテイクする「投資」でもあります。
Sternbergは、創造性を決断として脱皮させる方法を提案しています。
- 問題を再定義する
- 仮定を疑い、分析する
- 創造的なアイデアが自分で売れるとは思わない
- アイデアの生成を奨励する
- 知識は創造性の助けにも妨げにもなることを認識する
- 障害を特定して乗り越える
- 賢明なリスクを取る
- 曖昧さを許容する
- 自分を信じる(自己効力感)
- 好きなことを見つける
- 満足を遅らせる
- 創造性のロールモデルとなる
- アイデアを掛け合わせる
- 創造性に報いる
- 低いミスを許容する
- コラボレーションを奨励する
- 他人の視点から物事を見る
- 成功と失敗に責任を持つ
- 人と環境の適合性を最大化する
- 知的成長を許容し続ける
創造性の種類
投資理論では、創造性が発揮される仕方を3カテゴリーで8種類に分類しています。
複製は、ある分野のアイデアを別の分野に適用していくことで、新しい適用を生み出します。再定義は、ある分野のアイデアを別の分野から捉え直すことで、新しい視点を生み出します。前進は、分野自体を進化させるアイデアのことで、ある分野を新しくします。飛躍は、前進と同じくある分野を新しくします。しかし、前進は周囲が準備できている中での進化なのに対し、飛躍は周囲の準備が追いついていない中での進化という違いがあります。
方向転換は、ある分野が進んでいる方向を変えるようなアイデアのことで、新しい方向を指し示します。再構築は、ある分野の進化を、一旦ある時点に戻し、そこで方向転換をすることで、新しい道筋を指し示します。再始動は、ある分野の進化の方向から外れた点に移り、そこから新たに進み始めることで、新しい開始点を示します。
統合は、異なる2つアプローチを組み合わせ、1つの考え方に統合することで、新たな考え方を示します。
まとめ
- 創造性が当初拒絶される現象を、不人気で安い経済現象に投影させた理論
- 不人気(安い)から採用し(買い)、人気(高い)が出たら譲る(売る)
- 構成要素は6個:環境、知識、知能、性格、志向、動機
- 構成要素は独立ではなく、創造性は構成要素の合流点
- 決断力の向上で創造性は開発できる
- 創造性は8種類:複製、再定義、前進、飛躍、方向転換、再構築、再始動、統合
参考文献
- Sternberg, R. J. (2006). The nature of creativity. Creativity research journal, 18(1), 87.
- Sternberg, R. J., & Lubart, T. I. (1995). Defying the crowd: Cultivating creativity in a culture of conformity. Free press.