こんにちは、やまもとです。
創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。
前回で、創造性のプロセス理論(または、ステージ理論)はひと段落したので、今回からはコンポーネント理論群の学習に移ります。
プロセス理論とコンポーネント理論の違いは、前者には時間的な順序が存在するのに対し、後者には時間的順序が無い点です。簡単に言うと、プロセス理論は「AからBになって、Cになって、Dになる」と説明するのに対し、コンポーネント理論は基本的に「〜の要素は、AとBとCとDである」と説明します。ただし、順序が含まれないコンポーネント理論でも「AとBは関連する」「CとDは関連する」といった相互作用は示されます。物理学者的には、プロセス理論はダイナミクス(動力学、時間依存)、コンポーネント理論はメカニズム(静力学、時間非依存)と考えれば、理解しやすいのでは無いでしょうか。
さて、書籍「Creativity」の中では、T.M.Amabile (1990)のコンポーネント理論が最初に紹介されていました。当初、Amabileは「個人の創造性」の研究をしていましたが、1990年以降は「組織の創造性」へと研究テーマをシフトしていったようです(参考:Harvard Business Review)。
参考:Harvard Business Review 「組織の創造性を高めるマネジメントとは何か」テレサ・アマビール ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授
今回は、個人の創造性を中心に、1988年の文献を紐解いてみようと思います。
個人の創造性
Amabileは、個人の創造性と組織の創造性をきちんと分けて考えていて、前者をCreativity、後者をInnovationと呼んでいます。そして、Creativityに必要な構成要素(コンポーネント)は、1983年の論文で発表しました。
創造性の定義と評価について考察し、創造性を概念化するための構成的枠組みを提示している。創造性の必要かつ十分な構成要素として、領域関連スキル(domain-relevant skills)、創造性関連スキル(creativity-relevant skills)、タスク・モチベーション(task motivation)を含め、認知能力、パーソナリティ特性、社会的要因が創造的プロセスの段階にどのように寄与するかを説明している。また、これまで軽視されてきた社会的要因を強調し、創造性の社会心理学が創造的パフォーマンスの包括的な見方に貢献できることを強調している。
Amabile, T. M. (1983). The social psychology of creativity: A componential conceptualization. Journal of Personality and Social Psychology, 45(2), 357–376.
コンポーネントモデル
この論文は購入しないと読めませんが、閲覧可能な1988年の論文で、3つのコンポーネントの説明がされています。
- 領域関連スキル(Domain-relevant Skills : DRS)
- 個人が持つ創造的生産性の原材料であり、土台となるスキルセットのこと。
- 基礎知識、技術スキル、特別な才能といった、情報を合成し、判断するためのスキルセット。
- 料理で言えば、食材知識、調理技術、鋭敏な味覚など。レシピ通りの料理はできる。
- 創造性関連スキル(Creativity-relevant Skills : CRS)
- 領域関連スキルを除いた、創造性を促進するスキルのこと。
- 新しい視点を好む認知スタイル、新しい道筋を探索するヒューリスティックの適用、粘り強く、エネルギッシュに働けるワークスタイルなども含まれる。
- 料理で言えば、創作料理を作るためのスキル。レシピを超えることができる。
- 内発的タスクモチベーション(Intrinsic Task Motivation : ITM)
- 「何ができるか」ではなく「何を成したいか」を表すマインドのこと。
- 重要だが、創造性研究ではコンポーネントに含まれることが少ない。
- 領域間移動だけでなく、領域内の作業間移動も促進する。
- 2つの下位要素がある
- タスクに対する基本的態度(好きか、能動的か)
- タスクを引き受けた理由の個人的認知(重要か、意味があるか)
- 料理で言えば、「美味しい料理を食べてもらいたい」などのマインド。
1983年当時はコンセプトモデル止まりだったようですが、その後、1987年に科学者へのインタビュー調査を実施し、1988年に次のような創造性の促進要因と阻害要因を特定しました。
順位 | 促進要因 | 阻害要因 |
---|---|---|
1 | 多様な個人特性 (41%)【CRS/ITM】 Various Personality Traits | やる気なし(30%) 【ITM】 Unmotivated |
2 | 自己動機 (40%)【ITM】 Self-motivation | 未熟 (24%)【DRS】 Unskilled |
3 | 特別な認知能力 (38%)【DRS】 Special Cognitive Abilities | 融通が利かない (22%)【CRS】 Inflexible |
4 | リスク志向 (34%)【CRS】 Risk-orientation | 外発的動機(14%)【ITM】 Externally Motivated |
5 | 領域の専門性 (33%)【DRS】 Expertise in the Area | 社会的未熟 (7%)【CRS】 Socially Unskilled |
6 | グループの資質 (30%)【CRS】 Qualities of the Group | |
7 | 広範な経験 (18%)【CRS】 Diverse Experience | |
8 | 社会的スキル (17%)【CRS】 Social Skill | |
9 | 英才さ (13%)【DRS】 Brilliance | |
10 | 天真爛漫さ (13%)【CRS】 Naivete |
促進要因と阻害要因は、簡単に説明すると次のようになります。
促進要因/阻害要因 | 説明 |
---|---|
多様な個人特性 | 知覚、好奇心、熱意、知的誠実さを含む問題解決の個人特性 |
自己動機 | 自発的、仕事自体が楽しい、熱狂的、挑戦的問題に惹かれている、仕事が重要な意味を持つ、アイデアにコミットしている、などの状態のこと |
特別な認知能力 | 問題解決の特定領域に特別な才能を持つこと |
リスク志向 | 非保守的で、挑戦に魅了され、リスクテイクを厭わず、他人と違う考え方をすること |
領域の専門性 | 才能、経験、特定領域における専門知識 |
グループの資質 | チームメンバー個人の知的・人間的・社会的な質によって生まれるシナジー |
広範な経験 | 広範な領域における広く一般的な知識と経験 |
社会的スキル | 良い社会的・政治的スキル、他者とのラポール、良い聞き手で良いチームプレイヤーであること、広い心や他者のアイデアにオープンであること |
英才さ | 一般的知能レベルの高さ |
天真爛漫さ | その分野で素人か新参者であり、前提条件によるバイナスがないか、昔のやり方に縛られないこと |
やる気なし | 仕事の動機がない、問題が挑戦的ではない、効果に悲観的な態度 |
未熟 | 問題領域における能力不足と経験不足 |
融通の利かなさ | 自分のやり方に固執する、ご意見番がいる、異質な考えを望まない、教育や訓練による強すぎる制約 |
外発的動機 | 金銭・承認・仕事以外の要素によって動機づけられること、他人が設定したルールや目標に従うこと、誰かの成功に対する嫉妬や競争心に動機づけられること |
社会的未熟 | チームメンバーの社会的・政治的スキルの低さ |
ステージモデル
Amabileは、上記の創造性のコンポーネントを使ったステージモデルも提案しています。
このステージモデルは、Wallas(1926)の4ステージモデルに基づいており、前回まとめたステージ理論とほぼ同じプロセスになっていることが分かるでしょう。
前回の記事によれば、準備ステージ(上図の第2ステージ)が開始するのは、創造者が高感度・高解像度センサーを使って「漠然とした問題」をとらえた時でした。このようなセンサーには、センシングする対象が必要になります。その対象が、上図の第1ステージに当たる「外部源泉・内部源泉」になります。外部源泉は、創造者の周囲の環境や他者が提起した問題など、自分の外側の対象物になります。一方、内的源泉とは、創造者の内面心理の対象物(例:違和感)のことです。
上の図から分かるのは、前節の3つのコンポーネントはステージモデルの推進剤だということです。内発的タスクモチベーションに含まれる「好奇心」は、外部源泉や内部源泉から漠然とした問題を読み取るセンサーの感度を向上させます。仮説構築を行う「準備」ステージと、仮説検証を行う「アイデア検証」ステージでは、考え方や検証スキルに問題領域の専門性が必要になります。ただし、高すぎる専門性は創造性を阻害するので注意が必要です。最後に、無意識的にインキュベーションを行う「アイデア生成」ステージでは、考え続ける根気と制約にとらわれずに発想する創造性スキルが必要になります。
Amabileのステージモデルの特徴は、最後にアウトカム評価を行なっているところです。特に、評価の結果に「前進」が含まれており、第1ステージに戻るパスが存在しています。これは、創造によって前進したと感じると、よりやる気が出て内発的タスクモチベーションが向上し、新たな問題を捉えやすくなることを表しています。この点が、前回までのステージ理論との大きな違いです。実際、1つの疑問が解決すると別の疑問が出てきて思考が次へ次へと進んでいくことは、研究者をしているとよくあることです。むしろ、1回で終わることが珍しく、このフィードバックサイクルは、1回の創造で終わってしまうステージ理論の弱点を補完しています。
組織の創造性
Amabile(1988)では、個人の創造性(Creativity)は補足に過ぎず、むしろ組織の創造性(Innovation)がメインの内容です。下記は、Amabile(1988)のabstractです。
記述モデルの一部の基礎として、組織における創造性とイノベーションに影響を与える要因を広く検討した研究が紹介されています。続いて、個人の創造性のモデルを説明し、組織イノベーションの予備的なモデルに統合した。組織イノベーションのモデルには4つの基準が設定されており、この基準を満たすために本モデルが設計されている。(a) 個人の創造性のプロセス全体が、組織イノベーションのプロセスにおける重要な要素であると考えられるべきである。(b) イノベーションに影響を与える組織のあらゆる側面を取り入れる試みがなされるべきである。(c) モデルは、組織のイノベーション・プロセスにおける主要な段階を示すべきである。(d) モデルは、個人の創造性に対する組織要因の影響を記述すべきである。ここで提示されたモデルは、これまでのモデルと比較対照され、その限界が議論され、実践への示唆が示されている。
Amabile, T. M. (1988). A model of creativity and innovation in organizations. Research in organizational behavior, 10(1), 123-167.
モチベーション
個人の創造性と組織の創造性を結びつける鍵はモチベーションです。
個人の創造性では、コンポーネントの1つあるいは最初のステージが、モチベーションに関わる要素でした(図1)。Amabile(1988)によれば、内発的モチベーションはタスクに対して可能性のある解決策の探索に影響を与え、より広範囲に制約を超えて探索することを可能にします。そのため、内発的もチーべションが高い人ほど、意外な解決策(すなわち創造的な解決策)を見つけやすくなります。
このことから、組織の創造性を高めるために組織がしなければならないのは、個人の創造性を喚起するように個人の内発的モチベーションを高めることです。しかし、組織が採用できる手段は、外発的動機付けしかありません。そのため、外発的動機づけが内発的モチベーションにどのような影響を及ぼすのかを確かめる必要があります。
まず、言っておくべきなのは、外発的動機付けが必ずしも悪いわけではないということです。例えば、締め切り、評価の期待、監視、報酬の契約などの外部制約(=外発的動機付け)の下では、仕事は正確に行われ、時間通りに行われる傾向があります。また、人は、金銭的報酬やその他の報酬、フィードバックや認識、行動のガイドラインなどの安全欲求は強く求められます。つまり、品質(正確性・精密性など)や安全欲求(安心・安全・安定など)に価値を求める場合は、外発的動機付けだけで何も問題ありません。
ただし、外発的動機付けだけで上手く機能するのは、アルゴリズム的問題(「やれば終わる」問題)の場合に限ります。アルゴリズム的な解決法がわかっている問題では、図1の第3ステージ(アイデア生成)が不要なのでスキップすることができるためです。アイデア生成ステージで内発的モチベーションが主に必要とされるため、アルゴリズム的問題では創造性を必要としません。特に、目標に向かって一心不乱になっている場合、探索・設定打破・リスクテイクといった創造性のヒューリスティックスが最も使われなくなります。ただし、会社などの組織の中の問題は大部分はアルゴリズム的問題なので、大抵は外発的動機付けだけで上手くいきます。
これに対して、ヒューリスティックス的問題(「どうすればいいか分からない」問題)は、図1のアイデア生成ステージを必要とするため、創造性(と内発的モチベーション)が必要になります。しかし、図1の第2ステージと第3ステージが、外発的動機付けでも駆動することを考えると、内発的モチベーションと外発的モチベーションは共存することがわかります。
実際、組織の強い制約の下でも、内発的動機や創造性を維持したままの人々がいる、という実験結果があります(Amabile & Gryskiewitz, 1987)。また、外発的動機が、内発的動機の限界を超えて、創造性を発揮させたという研究結果もあります(Aamabile, et. al, 1986)。このことから、内発的モチベーションの高さが違う人に、外発的動機付けを行なった場合に何が起こるのかをまとめたのが、次の図になります。
ある領域に対して、内発的な関心や興味が全くない人には、外発的動機付け(例:問題を説明する)によって興味関心を喚起させて内発的なモチベーションが高まることがあります。しかし、中程度に興味関心を持つ人には、外的統制(例:目標を設定する、進捗を監視する、成功したらボーナスを出す、など)による外発的動機付けは逆効果(=やる気を削いでしまう)になってしまいます。これは、アンダーマイニング効果(外発動機付けによって内発的モチベーションが消滅する効果)として知られています。ところが、内発的モチベーションが非常に高い人(例えば、起業家をイメージしてください)は、外的統制を気にせず、創造的に乗り越えようとするため、逆に創造性が高まることになります。
コンポーネントモデル
それでは、組織が創造性を高めるために、行うべき外発的動機づけ(外部制約)は何でしょうか?これには、Amabileら(1987)が科学者へのインタビュー調査を行い、促進要因と阻害要因をそれぞれ9個特定しています。
順位 | 促進要因 | 阻害要因 |
---|---|---|
1 | 自由(74%) Freedom | 多様な組織特性(62%) Various Organizational Characteristics |
2 | 良いプロマネ(65%) Good Project Management | 制約(48%) Constraint |
3 | 十分なリソース(52%) Sufficient Resources | 組織的無関心(39%) Organizational Disinterest |
4 | 励まし(47%) Encouragement | 悪いプロマネ(37%) Poor Project Management |
5 | 多様な組織特性(42%) Various Organizational Characteristics | 評価システム(33%) Evaluation |
6 | 承認(35%) Recognition | 不十分なリソース(33%) Insufficient Resources |
7 | 十分な時間(33%) Sufficient Time | 時間の逼迫(33%) Time Pressure |
8 | 挑戦(22%) Challenge | 現状維持志向(26%) Overemphasis on the Status Quo |
9 | プレッシャー(12%) Pressure | 競争(14%) Competition |
各促進要因と阻害要因の簡単な説明は、次の通りです。
促進要因 | 説明 |
---|---|
自由 | タスクを達成するのに、何をどうするかを決める自由があること。あるいは、アイデアや作品を自分でコントロールできている感覚のこと。最重要なのは、オペレーションの自律性・裁量。 |
良いプロマネ | マネージャーが、良いロールモデルで、熱意があり、良いコミュニケーション・スキルを持ち、外部とのインターフェースとなり、プロジェクトチームを守ること。メンバーのスキルと興味が合致し、タイトすぎない明快な方向性を示されていること。 |
十分なリソース | 必要な設備・道具・情報・お金・人といったリソースにアクセスできること |
励まし | 新しいアイデアの熱意をマネジメントし、脅迫的な評価を受けない雰囲気を作ること。 |
多様な組織特性 | 新しいアイデアを検討するメカニズム、階層や部門を超えた協力と連携ができる企業風土、イノベーションが賞賛され、失敗が深刻にならない雰囲気のこと |
承認 | 創造的な仕事をすれば、適切なフィードバック・承認・報奨がもらえるという一般的感覚のこと |
十分な時間 | 問題について創造的に考える時間、あるいは、これまでとは異なる視点から探索するための時間のこと。 |
挑戦 | 問題自体の複雑な性質や組織にとっての重要性から生じるチャレンジ精神。 |
プレッシャー | 外部組織との競争や、何か重要なことを成し遂げたいという一般的な願望から、内部で発生する緊迫感。 |
阻害要因 | 説明 |
---|---|
多様な組織特性 | 不適切なリワードの仕組み、階層や部門を超えた協力ができない企業風土、一般にイノベーションを重視しない雰囲気 |
制約 | タスクを達成するのに、何をどうするかを決める自由が欠落していること。あるいは、アイデアや作品を自分でコントロールできている感覚が欠落していること。 |
組織的無関心 | 組織の支援も、興味も、プロジェクトの信頼もなく、プロジェクトの成功に無関心なこと。 |
悪いプロマネ | マネージャーが、クリアな方向性を定められず、技術的スキルもコミュニケーションスキルも弱く、極めてタイトにコントロールしようとするか、気晴らしやチームの分散かを許してしまうこと。 |
評価 | 不適切で不公平な評価やフィードバックの仕組み、非現実的な期待、批判や外部評価だけの環境のこと。 |
不十分なリソース | 必要な設備・道具・情報・お金・人といったリソースが不足していること |
時間の逼迫 | 問題について創造的に考える時間が不十分なこと、非現実的スケジュールにより作業負荷が大きすぎること、火事場泥棒が多いこと。 |
現状維持志向 | 自分のやり方を変えることに消極的な姿勢、リスクテイクを避ける姿勢 |
競争 | 組織内での対人関係やグループ間の活動で、自己防衛的な態度を養うこと。 |
この説明を見てわかることは、促進要因と阻害要因が反対の意味になっているものが多いことです。例えば、自由ー制約、良いプロマネー悪いプロマネ、十分なリソースー不十分なリソース、良い組織風土ー悪い組織風土、などです。基本的には、組織は阻害要因を促進要因へ改善していけば良いのですが、下記は単純に改善すればよいというわけではなく、絶妙なバランスが必要になります。
- ゴール設定
- ルーズすぎるゴール設定はチームがバラバラになるが、タイトすぎるゴール設定(例:日々のゴールを決める)はチームメンバーのモチベーションを下げるため、絶妙なバランスが必要になります。
- 報奨制度
- 自分の行動のすべてが表彰・昇給・昇進に結びついていると感じるとリスクを侵せなくなりますが、創造的努力が報われなければ組織で創造性が評価されていないと感じられてしまうため、絶妙なバランスが必要になります。
- コツは、優れた仕事の結果に対して寛大な報奨をする制度を作り、組織に創造的な努力が報われた実績を作ることです。この実績があれば、その組織の従業員は創造性に価値があると感じ、自分も同じように報われると感じることができます。
- 評価制度
- 評価のプレッシャーによって従業員はリスクテイクできなくなり(その結果創造性が低下し)ますが、一方で彼らの注意を仕事に向け、マネージャは適切なタイミングで建設的なフィードバックを返さなければなりません。そのため、絶妙なバランスが必要になります。
- 年に1〜2回の形式的な業績評価では創造性は損なわれます。そうではなく、マネジメントとメンバーの間で進捗状況に関する建設的で堅苦しくない情報交換を行うようにする(要するにアジャイルにする)と、評価が創造性を支援するようになります。
- プレッシャー
- もし、時間的緊急性を感じなければ、メンバーはそのプロジェクトを重要ではないと思います。しかし、時間のプレッシャーが高いと、創造性を必要としないお手軽な解決策を講じようとします。そのため、創造性にとっては、ほどよいプレッシャーが必要になります。
- 自グループ内の競争プレッシャーは、脅威と感じられて創造性を低下させます。しかし、外のグループとの競争プレッシャーは、良い結果を出そうとして創造性を向上させます。したがって、グループの内外の競争について、絶妙なバランスを取る必要があります。
ステージモデル
組織の創造性のステージモデルを考えるにあたって、Amabileは4つの基準を設けています。
- 組織の創造性(イノベーション)の中で、個人の創造性(クリエイティビティ)の完全なプロセスが重要な役割を占める。
- このモデルは、イノベーションに影響を与える組織のすべての側面を組み込もうとするものでなければならない。
- モデルは、組織のイノベーションプロセスの主要な段階を示していなければならない。
- 組織イノベーションのモデルでは、個人の創造性に対する組織要因の影響を記述しなければならない。
このような基準の下に、当時、Amabile(1988)が提案していた組織イノベーションのステージモデルは下図のようなものでした。
図1で示した個人の創造性に関するステージモデルは、図3にも完全に取り込まれ(=基準1)、組織イノベーションの第3ステージ「アイデア生産」で影響を与えています。組織のステージモデルでは、第1ステージでミッションを定めることから始まり、第2ステージで目標設定や各種資源(設備・道具・人・情報・お金)の収集、市場調査などを行い、第3ステージでアイデアや製品を考案し、第4ステージでそれらを実装、最後に第5ステージで評価をするというイノベーションプロセスになっています(=基準3)。このモデル、会社経営の中で新規事業を作るときにすべきことをほぼ網羅しており(=基準2)、他に挙げるとすれば人材開発くらいでしょうか。最後に、3つ組織コンポーネントで、組織要因が個人の創造性に影響を与えること(=基準4)を示しています。
Amabileは、組織の創造性にも3つのコンポーネントがあることを提唱しています。
- イノベーション・モチベーション(Motivation to Innovate:M2I)
- 組織がイノベーションへと向かう基本的な方向性を作り上げる企業ビジョンと考えて良い。
- 方向性は経営層から発信されるべきだが、中間層のコミュニケーションや解釈といった対応も重要である
- タスク領域のリソース(Resources in the Task Domain:RTD)
- 組織があるイノベーション領域で事業を行うために必要なもの全てを含んでいる
- その領域に詳しい人や、お金、システム、市場調査、データベースなどを含む。
- イノベーション・マネジメント・スキル(Skills in Innovation Management:SIM)
- プロジェクトから部門レベルまでのマネジメントのスキルとスタイルを含んでいる。
図3では、これらの組織のコンポーネントが、それぞれ個人のコンポーネントに影響を与えることが示されていました。例えば、経営層がイノベーションの方向性を示すことで、従業員はタスクに正当性が与えられて内発的モチベーションが上がります。組織が領域リソースを揃えることによって、個人の領域スキルが活かせるようになります。組織やプロジェクトにおいて、良いマネジメントが行われれば、従業員は創造性スキルを発揮することができます。
3つのコンポーネントは、どれか1つが必要なのではなく、3つのバランスが取れていることが重要です。Amabileはこれを、Creativity Intersectionと呼び、次のような図で示しています。
この図は、モチベーションとリソースとスキル(テクニック)の重なった部分でイノベーションが起こり得ることを表しています。
まとめ
今回は、Amabile(1988)で言及されている個人の創造性と組織の創造性についてまとめてみました。HBRの記事によれば、Amabileは、1990年以降、組織の創造性を研究テーマの中心に据えていきます。そのため、この記事で記載したコンセプト・モデルは、後年修正されている可能性があります。
個人の創造性のコンポーネント
- 領域関連スキル(Domain-relevant Skills : DRS)
- 創造性関連スキル(Creativity-relevant Skills : CRS)
- 内発的タスクモチベーション(Intrinsic Task Motivation : ITM)
組織の創造性のコンポーネント
- イノベーション・モチベーション(Motivation to Innovate:M2I)
- タスク領域のリソース(Resources in the Task Domain:RTD)
- イノベーション・マネジメント・スキル(Skills in Innovation Management:SIM)
参考文献
- Harvard Business Review 「組織の創造性を高めるマネジメントとは何か」テレサ・アマビール ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授
- Amabile, T. M. (1983). The social psychology of creativity: A componential conceptualization. Journal of Personality and Social Psychology, 45(2), 357–376.
- Amabile, T. M. (1988). A model of creativity and innovation in organizations. Research in organizational behavior, 10(1), 123-167.
- Amabile, T. M. (1998). How to kill creativity. Harvard Business Review, Sep.-Oct., 77-87 (Amabileを有名にした論文)
- Amabile, T. M.; Conti, R.; Coon, H.; Lazenby, J.; Herron, M. (1996). Assessing the Work Environment for Creativity. The Academy of Management Journal, 39(5), 1154-1184 (アセスメントKEYSを開発した論文)
- Amabile, T. M., Collins, M. A., Conti, R., Phillips, E., Picariello, M., Ruscio, J., & Whitney, D. (2018). Creativity in context: Update to the social psychology of creativity. Routledge.(書籍が出版されている)