こんにちは、やまもとです。
創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。
創造性の研究は、問題解決の文脈で検証が行われることが多いです。例えば、答えが定まっていない問題に対して、解決策をたくさん提示してもらい、そのいくつが創造的な解決策だったかを判定する、といった実験で検証されます。
しかし、創造性が重要な分野である芸術では、必ずしも問題解決をするわけではありません。例えば、絵画を描いても何かの問題が解決されることはまずありませんが、その絵画が創造性の溢れていることはあり得ます。ピカソ、モネ、ダリ、ウォーホールなど新たな主義を立ち上げた芸術家は創造性に富んでいたと考えても違和感はないでしょう。
この記事では、問題解決と問題発見について書こうと思います。
問題とは
問題の定義
一般的に、問題とは「ゴールへ到達するために、乗り越えなければならない障害」のことです。
しかし、個人ごとにゴールと障害の捉え方が異なるため、問題の定義も個人によって千差万別になります。
つまり、ある人にとっては問題でも、別の人にとっては全く問題ではない、ということが起こり得ます。
芸術家と問題
芸術家が作品を通じて行う自己表現が、問題解決に相当するのか、問題発見に相当するのかは、問題を具体的にどう定義するのかによって変わります。
上記の定義に従って、ゴールを「最良の方法によって自己を表現すること」、障害を「最良の方法が分からないこと」とすれば、芸術活動も問題解決と考えることができます。
しかし、この手の自己表現は、芸術家自身には問題であっても、他の誰かにとっては問題ではありません。しかも、芸術家自身は探求をしているだけで、問題とは感じていない可能性もあります。
この場合、芸術家本人以外にとっては、活動中の芸術家は楽しんでいるだけに見えます。しかし、完成した作品を見たり聞いたりすることで、芸術家が問題を提示していることに気づきます。つまり、本人以外には、問題を発見したように見えます。
結局、問題とは、与えられるものでも客観的な存在でもなく、個人的な解釈にすぎません。
問題の種類
問題の分類にはいくつもの分類軸が考えられますが、創造性に関係する場合として、下記の分類がよく用いられます。
- 開放性
- 開放的問題(Open-end Problem)
- 答えがたくさんある(例)□+○=30、□と○に当てはまる数をたくさん書け
- 固定的問題(Closed-end Problem)
- 答えが1つしかない(例)18+22=□、□に当てはまる数字を書け
- 開放的問題(Open-end Problem)
- 定義性
- well-defined問題
- 何が問題なのか明確になっている。学校教育で多い。
- ill-defined問題
- 何が問題なのか分からない。現実社会で多い。
- well-defined問題
問題解決と創造性
芸術の例を考えると、すべての問題解決が創造性を必要とするわけではなく、創造的な活動が必ずしも問題解決につながるわけではありません。
ただし、創造的な問題解決の思考法として、発散的思考を別の記事で取り上げました。その中で、発散的思考を利用するには、開放的問題が必要でした。すなわち、創造的問題解決は、問題の開放性と関連があります。
問題の開放性
開放性による問題の分類は、発散的思考と収束的思考による問題解決に関わります。
開放的問題では、できる限り多くの答えを出すために発散的思考が有利に働きます。反対に、固定的問題(あるいは閉鎖的問題)では、1つの答えに向かっていく収束的思考が使われます。
発散的思考では、多くの連想が必要とされるため、創造性が発揮される可能性があります。反対に、収束的思考では、論理的に取捨選択していくため、創造性が発揮される可能性は低くなります。
ただし、別の記事で、発散的思考と収束的思考は、二項対立する方法ではなく、現実的には連続体的であろうと推測しました。これは、実際には、連想と選択が交互に行われるためです。
また、連想を重ねたからといって、その解決策が必ずしも創造的であるとは限りません。創造性の中心概念である独創性は、連想連鎖の後ろの方で出てきます。
問題発見と創造性
アインシュタインやヴェルトハイマーが昔から指摘しているように、問題解決よりも問題発見の方が重要と考える人々がいます。
問題の設定は、しばしばその解決策よりも重要である…. 新しい疑問や可能性を提起し、古い問題を新しい角度から見直すことは、想像力を必要とし、科学の真の進歩を意味する(Einstein & Infeld 1938, p. 83)
偉大な発見の中で最も重要なことは、ある疑問が見つかったことであることが多い(Wertheimer, 1945/1982)
現在、多くの研究で、問題解決と問題発見は別の能力であり、個人差があることが分かってきています。つまり、問題発見は得意だが問題解決は苦手な人もいれば、問題発見は苦手だが問題解決は得意な人もいるということです。
芸術家の例で言えば、問題発見を得意とする人は、探求や自己表現、あるいは技術を追求しているだけで、問題に無自覚な可能性もあります。問題発見とは、たとえ無自覚でも、曖昧だった問題が明確になっていく過程、すなわち問題が定義されていくことと考えられます。
問題の定義性
私たちは、「何かがおかしい」と漠然と感じても、それが何なのか分からないことがあります。
特に、現実社会や自然界では、このような「定義が曖昧な(ill-defined)問題」が多く、問題を発見し、定義することが必要になって来ます。何が問題かを知っていると思ったとしても、それが間違いであることも少なくありません。喩えると、障害物の位置を特定できていない様子が相当します。
反対に、学校のテストや試験で出題される問題は、問題が明確に提示され、受験者が正しいゴールに向かって進めるように「よく定義された(well-defined)問題」になっています。
問題発見のスキルは、下記が確認されています。(Getzels & Smilansky 1983; Mumford et al. 1991; Runco 1994a)
- 問題構築
- 問題識別
- 問題定義
- 問題発見
- 問題認識
- 問題生成
ただし、定義性による分類も、問題発見の程度によって連続体的であると考えられます。
まとめ
まだ、書籍の序章部分だと思うので、言及されていることにまとまりがありませんでした。そのため、この記事は、自分なりの理解でまとめています。まとめとしては、下記のようなことが分かりました。
- 問題とは、ゴールへ到達するときに乗り越えなければならない障害のこと
- 問題解決に創造性は必ずしも必要ではない(例:固定的問題の解決)
- 創造的な活動が必ずしも問題解決につながるわけではない(例:芸術活動)
- 問題解決と問題発見は別の能力で個人差がある
- 問題発見は必ずしも問題が自覚されているわけではない(例:探求、自己表現、技術向上をしているだけ)