man and woman holding hands walking on seashore during sunrise

マズローのB価値

組織行動論を調べる中でマズローの自己実現欲求について言及している文献を読んで、B価値(values of Being、存在価値)というのを知ったのでメモに残しておこうと思います。

自己実現とは

まず、マズローが想定する自己実現欲求概念は時代と共に変遷しています。このことを、三島(2009)が次のように整理しています。

  • 1943年の自己実現の概念(三島, 2009a)
    • 自己実現の欲求は、最も高次な基本的欲求である
    • 自己実現の欲求は、通常、他の基本的欲求が満たされてから生じる
    • 自己実現の欲求は、個人が潜在的に持っているものを実現しようとする欲求である
  • 1955年までの自己実現の概念(三島, 2009b)
    • 成長欲求は、自己実現の欲求である
    • 自己実現の欲求は、欠乏欲求と比較して長期的性格をもつ
    • 自己実現の欲求は、人間をより非利己的・問題中心的にならせる
  • 1959年以降の自己実現の概念(三島, 2009b)
    • 自己実現の欲求とは、存在価値を反映して生きたいという欲求である
    • 自己実現とは、存在価値に基づいて生き続けることである
    • 自己実現は、非常に困難である

1943年の自己実現は、有名な欲求五段階説における最上位層として定義された概念で、相対的位置はわかりますが、自己実現自体はやや曖昧な定義になっています。アリストテレスの四元因で言えば、形相因に近いでしょうか。

1955年では、基本的欲求を成長欲求と欠乏欲求に分類し、自己実現欲求は成長欲求に分類しています。自己実現が人間を非利己的・問題中心的にならせるものという定義は、アリストテレスの目的因による定義と言えるかもしれません。

そして、1959年以降では「自己実現欲求=存在価値を反映していきたいという欲求」「自己実現=存在価値に基づいて生き続けること」と自己実現欲求の始動原因を突き止めました。これは、アリストテレスの始動因・作用因による定義と言えそうです。

この始動原因である存在価値を、マズローは「values of Being」あるいは「”B” values(”B”価値)」と呼んでいます。マズロー自身はこれを「メタニーズ(meta-needs)」とも呼んでいると書き残しています(Maslow, 1965)。

B価値とは

B価値とは、人間がその探索に人生を捧げることができると感じる究極の内的価値です。B価値は、他のどんな価値にも代え難いと感じます。これを、マズローは次のように述べています。

One devoted his life to the law, another to justice, another to beauty or truth. All, in one way or another, devote their lives to the search what I have called the “Being” values, the ultimate values which are intrinsic, which cannot be reduced to anything more ultimate.

Maslow, 1965

マズローは、”B”価値を14個特定しており、著書「Religions, Values and Peak Experience」の付録に書いたとしていますが(Maslow, 1965)、残念ながらこの書籍は絶版のようです。三島によれば、論文”A Theory of Metamotivation : The Biological Rooting of The Value-Life”(Maslow, 1962)にも記載があり、メタモチベーションであるB価値を15個を特定しているそうです。15個のB価値は、インタビュー調査やアンケート調査、マズローに届いた手紙の内容も検討し、次のようなリストになっています。

  • 真実(Truth)
  • 善(Goodness)
  • 美(Beauty)
  • 統合(Unity)、全体性(Wholeness)、二分法超越(Dichotomy-Transcendence)
  • 躍動(Aliveness)、過程(Process)
  • 独自性(Uniqueness)
  • 完全性(Perfection)、必然性(Necessity)
  • 完成(Completion)、終局(Finality)
  • 正義(Justice)、秩序(Order)
  • 単純(Simplicity)
  • 富裕(Richness)、全体性(Totality)、総合性(Comprehensiveness)
  • 無為(Effortlessness)
  • 遊興性(Playfulness)
  • 自己充足(Self-Sufficiency)
  • 有意義(Meaningfulness)

B価値

価値の公理

ビジネスの場面では、よく顧客価値や製品価値、市場価値等、「価値」を考える場面が多いです。

しかし、「この顧客価値は、どの機能的価値によって規定されているのか」を考えると、「価値」はいくらでも遡ることができてしまいます。どこかで遡行を終わらせるには、「これ以上は遡ることができない価値=究極の価値」が必要になります。その「究極の価値」として「B価値」が使用できるのではないかと思って、今回、メモしておくことにしました。

もし、B価値が究極の価値であれば、数学で言うところの「公理」のようなもの(価値の公理)があるかもしれません。それがあれば、公理を指導原理として、価値の体系を構築することもできるかもしれませんね。

参考文献

参考記事

以前、マズローやアリストテレスの記事をnoteに書きました。もし、ご興味があればご覧ください。

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