こんにちは。やまもとです。
ある記事で「失業率と自殺率は相関がある」と書かれていて、「本当に?」と疑問に思ったので自分で確認して見ました。
失業率と自殺率の推移
まず、完全失業率(総務省統計局「労働力調査」より)と自殺死亡率(厚労省「自殺対策白書」、警視庁「自殺の状況」より)の推移を確認しました。2つのデータが同じような曲線を描いていれば、相関がある可能性が高いです。
これを見ると、前半(平成8年以前、1996年以前)は弱い相関があるかもしれない程度ですが、後半(平成9年以降、1997年以降)は強い相関がありそうです。男女別のデータで確認して見ると分かるのですが、この傾向は女性で顕著に見られます。
失業率と自殺率の相関
そこで、対象期間を前半(1978年〜1996年)と後半(1997年〜2020年)、および全期間(1978年〜2020年)に、対象者を総数と男女別にして、完全失業率と自殺死亡率のピアソン相関係数を計算しました。
一般的に、ピアソン相関では、相関係数が0.4~0.6なら弱い相関が、0.6~0.8なら中程度の相関が、0.8以上なら強い相関があると解釈されます。
計算の結果は、以下の通りです。
対象期間 | 総数 | 男性 | 女性 |
---|---|---|---|
1978年〜1996年 | 0.35 | 0.58 | -0.31 |
1997年〜2020年 | 0.89 | 0.87 | 0.87 |
全期間 | 0.88 | 0.91 | 0.52 |
これによると、男女を合わせた総数の全期間(1978年〜2020年)では強い相関(相関係数=0.88)が見られるので、確かに完全失業率と自殺死亡率は相関があると言えます。ただし、1996年以前のデータでは、完全失業率と自殺死亡率に相関はありません(相関係数=0.35)。すなわち、完全失業率と自殺死亡率に相関が見られるようになったのは、1997年以降の話ということになります。
男性だけに限れば、1996年以前でも弱い相関(相関係数=0.58)がありました。しかし、1997年以降では強い相関(相関係数=0.87)になり、失業が自殺により結びつきやすくなった傾向が見て取れます。
女性の場合はこの傾向がさらに顕著です。1996年以前では、失業と自殺に相関がなく、むしろ逆相関の様相が見えていました(相関係数=-0.31)。ところが、1997年以降では、男性と全く同じ強い相関(相関係数=0.87)を示しており、男性同様に失業が自殺に結びつくようになってしまったようです。
考察
この結果で重要なのは、失業率と自殺率の相関は1996年以前には見られなかった点です。なぜなら、1996年〜1997年を境に、社会が質的に変化したと考えられるからです。ただし、1996年と1997年での分割は恣意的に行なっているので、実際には1997年前後と考えておいた方が良いでしょう。
「1996年以前に、全体で失業率と自殺率に相関が見られない」ことは、女性の失業率と自殺率に全く相関がないことが影響しています。さまざまな理由が考えられますが、理由の一つとして、当時はまだ「寿退社」という文化が通用していたことが考えられるのではないでしょうか。「寿退社」文化があったおかげで、女性にとって結婚して退社すること(失業の一種)は、ポジティブなことと考えられていたのではないかと推測できます。ポジティブに考えていたら、当然、自殺しようなどとは夢にも思わないことでしょう。
「1997年以降、失業率と自殺率の相関が男女で全く同じだった」ことは、ある意味、男女間の差異が無くなってきたことを示しているかもしれません。今では、結婚してからも働き続ける女性も多いですし、そのために、失業に対する認識が男性と変わらなくなってきたのではないでしょうか。失業が自殺に結びつきやすくなったことは、決して良いことではありませんが・・・。
一方、「1997年以降、失業率と自殺率の相関が男女ともに強くなった」ことは、このデータからでは理由が分かりません。1998年以降のインターネットの爆発的な普及と時期は同じですが、関連性があるのかどうかは分かりません。近い時期に派遣労働者法が制定されていますし、金融緩和によって金融機関の統廃合が進んだ時期でもあります。あるいは、成果主義が声高に叫ばれた時期でもあります。成果主義は、成果を出せる人には優しいですが、成果を出せない人には厳しいので、これによって生きる意味を見失った方がいらっしゃった可能性は考えられるかもしれません。
まとめ
ある記事で見た「失業率と自殺率は相関がある」という言及をもとに調査を行い、以下の事実を確かめました。
- 1996年以前には、(特に女性の)失業率と自殺率に相関はない
- 1997年以降であれば、(男女共に)失業率と自殺率に強い相関がある
このことから、「失業率と自殺率の間に常に相関があるとは限らない」ことが分かります。つまり、普遍的な事実ではありません。従って、時期を設定せずに、さも普遍的に「相関がある」と言うのは問題があるこになりますね。
また、普遍的ではないということは、他の要因の変化の影響を受けたと考えられます。他の要因としては、媒介要因(「失業しても問題ないという自己認識」など)や背景要因(「寿退社」文化など)などが考えられます。
女性の場合は現代に近づく程失業率と自殺率の相関が低くなっていると予想していました。理由は昔よりも現代の方が女性の雇用意識が高くなっていることと就労支援事業が増えているため、再就職しやすくなっているはずだからです。失業→自殺とすぐに結びつかずに経過を辿っていくはずなので、その経過がある中、現代に近づくにつれて失業率と自殺率の相関がみられてきたというのは凄く興味深いです。年代ごとの独身×既婚の女性の4通りの離職率と自殺率の相関を算出していましたら、みてみたいと思いました。
なるほど。算出していませんが、確かに独身か既婚かでも様子が違うかもしれませんね!