cozy coffee house with creative decorated menu board

ターゲットリターン法の価格決定公式

マーケティングのこちらの記事で、損益分岐点に基づく価格戦略(ターゲットリターン法)の説明を書きました。その中で、目標利益を出せる販売量は導出できるものの、実際にその量が売れるのかどうかは、需要曲線を見て決める必要があるとしました。

でも、少し考えたら、公式として導出できそうだったので、メモとして残しておきたいと思います。

ターゲットリターン法の販売量の公式

ターゲットリターン法では、販売量を未知数として、目標利益を変動費と固定費から次のように計算できます。

 r = p x(p) - c x(p) - C

ここで、rは目標利益で入力値なので定数になります。また、x(p)は価格pを変数とした販売量、cは1製品あたりの変動費、Cは総固定費です。p x(p)は、価格と販売量の積なので総売上高になります。

この式から、販売量x(p)は、次のように計算されます。

 x(p) = \displaystyle\frac{r+C}{p-c}

損益分岐点(branch-point)は、利益r=0になる点なので、損益分岐点における販売量は、次のようになります。

 x_{bp}(p) = \displaystyle\frac{C}{p-c}

総固定費を1製品あたりの利益で割れば、損益分岐点の販売量が計算できるという、言われてみれば当たり前の公式になります。

需要曲線の近似式

需要曲線は、価格pを変数とした販売量y(p)で与えられますが、どのような曲線を描くのか一般には分かりません。そこで、テーラー展開で近似します。精度良く近似するためには、二次近似にしたほうが良いですが、ここでは簡単のために一次近似にします。

 y(p) = y(p_0) + \displaystyle\frac{{\rm d}y(p)}{{\rm d}p}{\displaystyle\Large |}_{p=p_0}(p-p_0) + O(p^2)

ここで、テーラー展開の中心点であるp_0は現在価格と定義します。

一方、価格弾力性の定義は、次のようなものでした。

 \eta(p) = \displaystyle\frac{p_0}{y_0}\frac{{\rm d}y(p)}{{\rm d}p}

ただし、y_0は、現在価格の販売量y_0=y(p_0)になります。

2つの式を合わせると、需要曲線は次のように表せます。

 y(p) = y(p_0) + \displaystyle\frac{y(p_0)}{p_0}\eta(p_0)(p-p_0) + O(p^2)

この公式を整理すると、

 y(p) = y(p_0) \left[1+ \eta(p_0)(p/p_0-1)\right] + O(p^2)

となります。

ターゲットリターン法の価格決定公式

ターゲットリターン法で得られた販売量曲線と需要曲線の交点は、x(p)=y(p)となる点です。すなわち、

 \displaystyle\frac{r+C}{p-c} = y(p_0) \left[1+ \eta(p_0)(p/p_0-1)\right] + O(p^2)

となり、二次以上の項を無視すると、価格pに関する代数方程式になります。

\eta(p_0)p^2-\left\{(\eta(p_0)-1)p_0+\eta(p_0)c\right\}p+(\eta(p_0)-1)p_0c-\frac{p_0}{y(p_0)}(r+C)=0

これは、二次方程式なので、\eta(p_0)\neq0の場合、解の公式を使って解くことができます。

 p= \displaystyle\frac{ \left\{(\eta(p_0)-1)p_0+\eta(p_0)c\right\} \pm \sqrt{ \left\{(\eta(p_0)-1)p_0+\eta(p_0)c\right\}^2-4\eta(p_0)\left\{(\eta(p_0)-1)p_0c-\frac{p_0}{y(p_0)}(r+C)\right\} } }{ 2 \eta(p_0) }

これを簡略化していくと、次のようになります。

 p= \displaystyle\frac{ \left\{(\eta(p_0)-1)p_0+\eta(p_0)c\right\} \pm \sqrt{\left\{(\eta(p_0)-1)p_0-\eta(p_0)c\right\}^2+4\eta(p_0)\frac{p_0}{y(p_0)}(r+C)} }{ 2 \eta(p_0) }

これにて、需要曲線と損益分岐点から求まる販売量曲線の交点、すなわち販売量が一致する価格を求めることができました。

価格を決めるパラメータ

上記で求めた価格はp=p(r,c,C;p_0,y_0,\eta_0)という関数の形をしており、目標価格・製品あたり変動費・総固定費とともに、現在の価格・現在の販売量・現在価格の価格弾力性が変数となっています。前者3つは、所与の定数として与えられるパラメータです。しかし、後者3つについては、未知の場合があります。これを調べるために、テストマーケティングなどの手法を用いて、いくつかの価格で販売してみる必要があるかもしれません。

価格弾力性は、微分で定義されているので、2点間(2つの価格)の差分で求めることができます。

 \eta_{12} = \displaystyle\frac{p_1}{y_1}\frac{y_2-y_1}{p_2-p_1}

そのため、未発売製品の場合は、少なくとも価格を変えて2回テストマーケティングをする必要があります。

感想とか

需要曲線と販売量が一致する価格の公式を導出しました。

ただ、ターゲットリターン法はコスト・ベースの価格決定法の1つなので、顧客の知覚価値なんかは全く入っていませんね。

まあ、少なくとも、数式で出せることがわかったのでよしとしますか。

コメントを残す