市場競争、産業と戦略グループ

マーケティングの勉強では、ファイブフォース分析による企業間競争の分析は必須項目の一つです。

でも、マーケティング検定2級では、もう少し深掘りした内容を知っておく必要があるようで、その内容をまとめてみます。

今回も、参考書籍は「マーケティング検定2級試験 公式問題集&解説 上巻」です。

構造とプロセス

勉強するまで知りませんでしたが、市場競争は「構造としての競争」と「プロセスとしての競争」の2つがあります。

この2つは、競争によって企業にもたらされるものが異なります。

  • 構造としての競争・・・市場の魅力度や競争的地位による競争。市場の収益性が規定される。
  • プロセスとしての競争・・・企業の熱心さや努力による競争。新たな知識や情報を生み出す。

ドラッガー教授は、究極的には企業に必要な機能はマーケティングとイノベーションだと述べていますが、「構造としての競争=マーケティング」「プロセスとしての競争=イノベーション」という対応関係が見えます。

構造としての競争

構造としての競争は、まさに、ポーター教授のファイブフォース分析で分析するような競争です。

ファイブフォース分析は産業の競争構造を分析するフレームワークですが、使い所を間違えないために「産業」とは何かを正しく認識している必要があります。

そのためには、競争がどこで起きているか(競争の場)を分けて考える必要があるようです。この観点は、議論をするときに重要になる気がします。

参考図書では、下図のように、産業は「技術の共通性」(技術による競争の場)に基づく競争グループと定義しています。

図:構造としての競争

例えば、化学産業と繊維産業では、必要となる技術は全く異なることは簡単に想像できるでしょう。逆に、産業内部では、ほぼ共通した技術が必要になることも想像に難くありません。

一方、同じ産業の中にも、多くの場合、儲かっている企業と儲かっていない企業があります。

この違いは、事業構造(事業戦略)の違いによって生まれます。

例えば、同じ自動車産業でも、トヨタは自家用車全般をフルラインアップしているのに対し、日野自動車はトラックにラインナップを絞り込んでおり、事業戦略が異なります。

この事業構造が類似した企業群を、産業より小さな単位として戦略グループといいます。

産業レベルの競争

産業レベルの競争は、ポーター教授による産業の魅力度(ファイブフォース分析)や同じく競争地位(リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャー)によって分析される競争です。

この分析では、産業の収益性(どの程度儲かりそうか)を見積もります。

産業の収益性

ファイブフォース分析で考えるように、市場規模、競合の数、参入障壁、差別化の程度などが競争の構造を決める要因になります。

一般的に、価格決定権を持つため高価格を設定でき、規模の経済性で単位あたりコストが下がる市場独占に近づくほど収益性は高くなります

そのため、参入障壁が低い産業ほど、競合企業が増え、独占状態から遠くなり、収益性が下がります。

どの製品・サービスも似たり寄ったりで、差別化の程度が低い産業では、価格競争に陥り、収益性が下がります

また、外食産業のように差別化変数(軸)が多い産業では、簡単に差別化できるため参入障壁が低下し、収益性が下がります

参入障壁

企業に参入を思いとどまらせる主な参入障壁は、下記があげられます。

  • 回収が見込めないほどの、莫大な初期投資が必要な場合
  • 規模の経済による最適生産規模までの単位コストダウンが見込めない場合
  • 異なる方法で同じような機能が実現されるまでの特許や、自社の独自性や希少性が高まる技術を持つ場合
  • 特定企業に調達(川上)や販売(川下)が支配されて、チャネルが閉鎖的になっている場合
  • 航空・銀行・放送・電力・電波など、政府の許認可が必要で、新規認可がほとんど行われない場合

莫大な初期投資が必要な産業としては、技術が更新されるたびに数千億円の生産工場が必要な半導体産業があげられます。

半導体の設計・開発・生産を行なっていた企業はこの規模の初期投資が難しくなり、半導体産業は台湾のTSMC社に代表されるEMS(Electronics Manufacturing Service)企業と工場を持たず設計・開発を専業とするファブレスメーカーに水平分業化が進みました。

技術については、一般的に、技術の向上が収益性の向上につながると考えがちですが、これは自社の独自性・希少性が高まる場合に限定した話です。同じ技術を持ったライバルが市場に参入してくると、独占が遠のき、収益性が下がります。

同様に、特許についても、特許の取得が収益性の向上につながると考えがちですが、同じ機能を異なる方法で簡単に実現できる特許はほとんど障壁になりません

最適生産規模

規模の経済性は、生産量が増えるほど単位生産コストが下がる現象でしたが、生産規模を大きくすると調整コスト(原材料入手、土地確保、要因確保などの手間)が増加します。

そのため、単位生産コストには、下図のような最小値(最適生産規模)が存在します。

しかし、生産規模を大きくしても市場に需要がなければ販売できないため、生産量は産業の需要によって制限されます。

そのため、産業の需要に対して、最適生産規模までのコストダウンが見込めない場合、新規参入を自主的に思いとどまる可能性があります。

すなわち、コストダウンが見込めない予測が、参入障壁として働きます。

この最適生産規模を使うと、下記の公式で産業内の共存可能な企業数を推定することができます。

産業内の共存可能な企業数 = 産業全体の需要の大きさ ÷ 最適生産規模

共存可能な企業数から、次のようなことが言えます。

  • 最適生産規模が大きい場合
    • 産業内の共存可能な企業数が少なく、参入を思いとどまらせ、独占に近づき収益性が高くなる
  • 最適生産規模が小さい場合
    • 産業内の共存可能な企業数が多く、次々と企業が参入し、競争が激化して収益性が低くなる

戦略グループレベルの競争

産業は事業の収益性を一定の範囲に規定しますが、同じ産業の中でも企業によって格差が生まれます。

これは、産業内の競争(戦略グループレベルの競争)の結果です。

戦略グループの分類

戦略グループを区分するための軸は、さまざまなものが考えられます。

例えば、ブランド資産の蓄積度、店舗や生産拠点の地理的分布や密度、組織形態などを軸として用いることができます。

その中で、基本的な軸の構成として、「事業の深さ」と「事業の広がり」をとることもできます。

「事業の深さ」は「垂直統合の程度」、「事業の広がり」は「製品ラインの広がり」と言い換えることもできます。

図2:自動車産業の戦略グループ

上図は、例として、自動車産業を「事業の深さ(垂直統合の程度)」と「事業の広がり(製品ラインの広がり)」で分類してみたものです。

既存の自動車メーカーは、系列を通して部品調達・組み立て・販売網まで多くの場合垂直統合がなされているので、事業の深さは「深い」にし、トヨタのようなフルラインアップしている一般車メーカーは事業の広さを「広い」に分類しました。

それ対し、フェラーリのような高級車やトラックやバスといった専用車はラインアップを絞っているので、事業の広さを「狭い」に分類しました。

一方、テスラのような電気自動車(EV)を専業で生産しているメーカーは、部品は調達でき、受注生産によりディーラーなどの販売網を持たないため、垂直統合の度合いは「浅い」にし、ラインナップも1種類なので製品ラインの広がりも「狭い」にしました。

垂直統合の度合いが浅く、製品ラインの広がりが広い自動車メーカーは思い付かなかったので、デンソーなど自動車部品を提供しているメーカーを一応おいておきました。

もちろん、現在の自動車業界で言えば、「コネクティビティ」「自動運転」「二酸化炭素排出量」などを軸に選んだ方が適切かもしれません。

垂直統合のメリットとデメリット

一概に、垂直統合を進めることが良いとは言えません。垂直統合にも、メリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 調達・生産・物流・販売といった活動を同期化することでコストを削減できる
  • 取引条件をコントロールする機会が生まれる(交渉力が上がる)
  • 川上・川下の技術を習得できる

デメリット

  • 莫大な資金が必要となる
  • 企業活動の柔軟性が低下する
  • 操業水準が最適生産規模に達しなければコストを削減できない
製品ラインの拡大のメリットとデメリット

同様に、製品ラインも広ければ広いほど良いというわけでもありません。こちらも、メリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 幅広い顧客層への対応が可能になる
  • 規模の経済性を享受できる(コストの共通化による範囲の経済性が効くため)
  • 流通業者やディーラーとの取引が有利になる(販売依存度の低下による)

デメリット

  • 人材や資金などの経営資源を分散化させてしまう

移動障壁

ある戦略グループの企業が、別の戦略グループに移動しようとし場合の参入障壁を、移動障壁といいます。

例えば、専用車メーカーが一般車メーカーに進出しようにも、組織内に技術がなかったり、ディーラー網を一から構築するのに多くの初期投資が必要になったりし、簡単には移動することができません。逆に、いわゆる大衆車を製造してきたメーカーは、そのブランドイメージから高級車メーカーに移動することが難しかったりします。

移動障壁は戦略グループ間の移動が難しいことを意味しますが、これは戦略グループの枠組みは長期に渡って維持されることを表します。

そのため、どの戦略グループに属するかによって、競争相手と自社の強みと弱みが異なり、マーケティング戦略が変わってきます。

プロセスとしての競争

産業や戦略グループといった枠組みは、企業間競争の開始以前から存在するわけではなく、実際には企業間競争プロセスによって創り出されるものです。

そのため、枠組み内部で展開される「構造としての競争」のほかに、枠組みを創り出す「プロセスとしての競争の観点も必要になります。

プロセスとしての競争には、主な観点が3つ存在し、それらを下図にまとめました。

図:プロセスとしての競争

背景

プロセスとしての競争は、第二次世界大戦前後を過ごした経済学者のハイエクによって提唱されました。

当時、優勢だった社会主義国の計画経済「市場経済は非効率で、包括的な管理が必要だ」という考えに対して、ハイエクは「市場競争の方が効率的だ」と異を唱えました。

計画経済は「市場参加者は市場全体の情報や知識を使って合理的に判断する」という合理的経済人を前提にしているのに対し、ハイエクは「市場参加者が知ることができる情報や知識は局所的で限定的だ」という限定合理性を前提にしている点が、そもそも異なります。

計画経済では合理的経済人に基づき、「複数の企業で同じ事業・開発・研究を行うのは資源配分として非効率」なので、「全情報を持つ中央機関(政府)による資源配分を行なった方が効率的である」と考えます。ただ、こうすると中央機関が新しい事業を定義し、資源配分を行うまでは、新事業・新技術が生まれません

ハイエクは限定合理性の下だと「基本的な競争の条件が設定された市場メカニズムでは、全ての情報を知る必要はない」点で効率的であり、「競争に勝利するため、当事者の熱心さや努力を継続的に引き出す」ことで、自発的に新たな試みが行われるようになります。この時、市場の情報は「価格」の上下によって伝わります。例えば、材料費が高騰すると、それを仕入れる企業では、価格高騰の理由を知らなくても、コストを抑えるための新たな試みが行われるようになります。

企業の個性を創り出すプロセス

「企業の個性を創り出すプロセス」とは、企業の強みを精錬していくプロセスです。

  1. 他社と競争している企業は、比較を通して、自社の独自性や経営資源の希少性気づく
  2. すると、その企業は、その強みを事業に活かし、さらに競争優位性を高めて収益性を拡大しようと試みる
  3. このとき、強みを活かす形に事業を再定義することで、自社の事業を研ぎ澄ましていく

このプロセスを繰り返すことにより、企業の個性が出来上がっていきます。

市場経済では、企業の個性を創り出すプロセスは自然に発生します。

産業の枠組みを構成するプロセス

初めに書いたように、産業や戦略グループは、企業が競争する中で形成されていきます。「産業の枠組みを構成するプロセス」とは、産業や戦略グループといった構造に適応あるいは新たな構造を創出するプロセスです。

既存の産業や戦略グループに参入する場合は、その枠組みのビジネスルールを学び、適応していくプロセスが行われます。

しかし、重要なのは、新しい産業や戦略グループという枠組みを創り出すプロセスも、競争によって引き起こされる点です。

例えば、住居と各種家電製品を統合して販売するという事業を考えた場合、不動産業や電機産業をまたいだルールが必要になります。

反対に、パソコンメーカーへの供給から、部品を単独で販売する形式に変えると、新たな販売ルートを巻き込んだルールが必要になります。

このように、市場経済では、ルールを壊し、新たなルールを確立するプロセスが自然に発生します。

戦略的ジレンマを作り出すプロセス

「戦略的ジレンマを作り出すプロセス」とは、既存事業の強みが弱みに反転してしまうプロセスです。

新たなルールを持った産業や戦略グループといった枠組みが生まれると、既存の枠組みに存在する企業も新たな枠組みに参入を考えます。

しかし、既存の枠組みで強力な競争優位性を獲得しており、もし新たな枠組みでその競争優位性が足枷になることが予想されると、既存事業を残したい企業は自発的に新たな枠組みへの参入を躊躇します

この「参入したいが参入できない」という認知が、参入障壁や移動障壁の一つの形であり、戦略的ジレンマと呼ばれます。

このように、市場経済では、参入障壁や移動障壁による収益安定性が生まれ、新たな事業が確立していきます。

まとめ

市場競争について、知らなかった点は次の通りです。

  • 市場競争には「構造としての競争」と「プロセスとしての競争」がある
  • 「構造としての競争」は収益性を決め、「プロセスとしての競争」は新規軸を生み出す
  • 市場競争を考える際には、「競争の場」がどこかを意識する必要がある
  • 市場競争は、「産業」レベルと「戦略グループ」レベルを分けて考えた方が良い
  • 「戦略グループ」の基本的な分類軸は「事業の深さ」と「事業の広さ」
  • 「プロセスとしての競争」から、産業や戦略グループが形成される

今回は、観点が広がったので、学びが大きかった気がします。

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