事業部制組織の課題と進化

こんにちは。やまもとです。

マーケティング検定の学習をしながら、きちんと知らなかったことをまとめています。

組織は、企業経営にとって重要な課題にもかかわらず、マーケティングではあまり学ばないので、記録しておこうと思います。

今回は、事業部制組織についてです。

前回、市場志向の組織の例として事業部制組織が出てきました。

現在、多くの企業が事業部制の組織構造をとっていますが、様々な問題があり色々と試行錯誤がなされています。

その中で、少しずつ進化を遂げてきているので、それらを概観したいと思います。

事業部制組織のポイント

事業部制組織は、市場志向の組織に最も忠実な組織体制です。

ただし、事業部制の組織体制にする場合は、次の2点をどう決めるかで組織のあり方が変わってきます。

  1. 事業部を定義する軸を何にするか
    • 製品の軸、販売地域の軸、顧客の軸など、その判断によって事業部の形態が大きく変わる
  2. どの業務を本社に残す
    • 経理部や人事部などの事業部を超えて共通する業務は、本社に残されることが多い

例えば、製品別事業部制の場合、営業を各事業部に配置すると、一人の顧客に複数の事業部から売り込みに行く事態が起こります。

これを避けるために、開発部門は製品別事業部制にして、販売部門は顧客別事業部制にする、といったことも考える必要があります。

事業部制組織の課題

現在、多くの企業で採用されている事業部制組織ですが、次のような問題点は明らかになっています。

  1. 業務の専門性を高めることが困難になる
  2. 企業全体で経営資源の重複・不整合が起こりやすい
  3. 事業の枠組みを変える場合、臨機応変な対応が取りにくい

専門性を高められない

多くの企業で、事業部は業務範囲を限定されています。そのため、業務範囲超えて専門性を高めることが困難になります。これを避けるために、多くの業務を本社に置くと、今度は事業部制のメリット(調整コストを低減する)が失われます。

経営資源の重複・不整合

事業部は、比較的独立して動ける権限が配分されているため、各事業部で同じ設備を購入していたり、同じ技術に研究開発投資していたりと経営資源の重複が起こりがちです。また、事業部ごとに広告を出したりすることで、広告イメージがバラバラになり、企業イメージが曖昧になったりします。

臨機応変な対応が取れない

また、事業部制組織では、各事業部の中で物事を完結させるような力学が働きやすく、その枠組みを変えようとすると抵抗され、適応が難しくなりやすいです。

これらの問題を解消するために提唱されてきたのが、プロダクト・マネージャー制度マトリクス型組織です。が、これらも問題点があります。

プロダクト・マネージャー制度

P&Gによって考案されたブランド・マネージャー制度を参考に提唱されてきたのが、プロダクト・マネージャー制度です。

プロダクト・マネージャー制度は、生産・調達・開発・販売などで分けられた職能別組織に対して、横串として特定製品の責任者(プロダクト・マネージャー)を任命し、各部門との調整、全体的な進行を統括させる制度です。

図1:プロダクト・マネージャー制度

この制度は、P&Gを初め、日本では花王やライオンで採用されていますが、次のような問題点もあります。

  1. プロダクト・マネージャーに権限があまりない場合がある
  2. 開発や工場や営業の各部門に対して権限を持たない

一口にプロダクト・マネージャーといっても、権限の範囲は様々で、次のような場合があります。

  • プロダクト担当:商品企画部の一員で、実際の業務は各部門の調整役。予算は持たない。
  • 商品企画部員:商品企画部の一員で、独自予算はある程度あるが、調整の権限はあまり与えられていない。
  • プロダクト責任者:自ら予算と権限を持っている。

このように、プロダクト・マネージャーは調整役であり、開発に対して「何を作るか」や、工場に対して「何を生産するか」といったことを指示命令する権限はありません。指示命令が可能なのは、各部門長です。

そこで、プロダクト・マネージャーに自ら資源を自由に用いる権限を与えようと考えられてきたのがマトリクス型組織です。

マトリクス型組織

マトリクス型組織は、組織を統括する軸の1つを「事業分野」(市場志向)とし、もう1つの軸を「職能」(職能志向)として、2軸で組織を編成するものです。

図2:マトリクス型組織

例えば、高級車の製造を行っているチームは、富裕層向け事業を行う事業部長の指揮下と、製造全般と統括する製造部門長の指揮下に入ります。

マトリクス型組織は、これまでの問題点を解消することができ、次のようなメリットがあります。

  • 事業の枠組みで職能を統合できる
  • 職能別からも事業部を超えて調整・配分できる
  • 専門性の低下が起こりにくい
  • 重複投資の問題が起こりにくい
  • 事業部を超えた調整がスムーズに進行しやすい
  • 事業部制のような組織の固定化が起こりにくい

いいとこだらけに見えますが、マトリクス型組織には別の問題点があります。

  • 二重の命令系統が存在する
  • マネージャーが多くなり、コストが増える

二重の命令系統は、マトリクス型組織の代表的な問題点です。

この組織構造では、現場の担当者は2名の部門長から指示を受けますが、これが相反する指示だった場合、混乱が生じます。

この指示の不一致の解消のために、現場担当者は部門長2名の説得が必要になり、大きな調整労力と精神的負荷をかけることになります。

もちろん、部門長同士で調整できれば良いですが、うまくいかない場合は部門長の上の上位上司による調整が必要になります。

ところが、部門長の能力の否定と受け取られかねないため、現場担当者にとっては部門長の上位上司に調整を依頼することが難しい場合があります。

そうなると、いつまでたっても問題が解決しない状況に陥ってしまいます。

戦略的事業単位(SBU)

「専門化しつつ、統合化する」という難題を解決するために、GEでは戦略的事業単位(SBU:Strategic Bussiness Unit)という考え方を導入しました。

SBUとは、既存の事業部の枠にとらわれない、全社的かつ戦略的な投資計画の基礎となる単位です。1つの事業部が単独でSBUとなる場合もあるし、複数の事業部で1つのSBUとする場合もあります。複数の事業部を組み合わせるのは、その方が経営資源の投資効率や事業の将来性がよく見えるからです。

1960年代にGEの社長に就任したフレッド・J・ポーチは、それまでの「組織は戦略に従う」という考えを、「戦略は組織に従う」という考えに転換し、事業計画の観点から戦略的な組織を形成することにしました。

これは、事業部制組織が当初は市場志向の組織だったにもかかわらず、市場環境の変化の中で次第に生産志向の組織技術志向の組織変貌していったためと言われています。

GEが考えていた、SBUの特徴は下記の通りです。

  • SBUは、組織内部ではなく、外部の市場に対応しなければならない。
  • SBUは、明確な顧客と競争相手を持たなければならない。
  • SBUは、製品・市場・仕入れについて自ら決めなければならい
  • SBUは、やりたいと思ったことが常にできる状態にある。組織内の誰かの意思決定の影響を受けてはならない
  • SBUは、利益責任を負い、統一的かつ自立した判断が認められなければならない。

具体的なSBUの構造には、次のようないくつかのタイプがあります。

  1. スタッフ機能としてのSBU
    • 戦略的事業分野を選び、製品開発責任はSBUに置かれるが、製品が完成すると、利益責任は既存の事業部に帰属する方法
  2. 既存業務を集めるSBU
    • SBUは戦略開発と実行、さらに利益責任を持つが、新しい事業機会には既存業務だけでは対応できない場合がある。
  3. 戦略事業機会によるSBU
    • 機会に合わせて組織をデザインする方法。ただし、戦略策定と実行、技術面や業務面の効率性も考慮するため、組織デザインが難しい。
  4. SBUによるマトリクス構造
    • SBUと職能部門を軸にする。

まとめ

組織デザインは、現在でも多くの企業が試行錯誤している問題であり、いまだに正解はありません。

今回は、多くの企業で採用されている事業部制組織の進化を振り返りましが、ある問題を解決すると別の問題が現れる様子が分かります。

組織デザインにこそ、イノベーションが必要なのかもしれません。

この記事は、「マーケティング検定2級 公式問題集&解説 上巻」を参考にしています。

コメントを残す