こんにちは。やまもとです。
前回の「創造性の管理会計②|評価制度設計の論点」は、約10年前の論文に基づいていました。しかし、この10年間では、ノーレイティング運動や新型コロナ感染症によるテレワーク浸透などの大きな変化がありました。そこで、古野(2021)を参考にして、これらの変化を踏まえた上での論点整理をしてみたいと思います。
人事評価の目的
人事評価の目的
- 金銭的な資源の分配
- 経営方針・戦略に即した行動の促進
- 社員の育成
- 昇進・昇格の参考
- 選抜・配置の参考
- 貢献意欲や帰属意識の向上
留意点
- 貢献意欲を高める目的で人事評価を使うのは危険である。
- 上司から評価されたい欲求は貢献意欲を高める。
- しかし、上司からの評価という外的報酬は内発的動機を消し去り、創造性を奪う可能性がある(Amabile,1983)。
- また、内発的動機の消滅を通して、テレワークでより重要になった社員の自律性を奪う可能性がある。
- 経営方針・戦略に即した行動だけになるのは危険である。
- 人事評価を利用して、経営にとって望ましい行動を促進することはできる。
- しかし、環境変化が早く、経営の考える方針や戦略が必ずしも会社を良い方向に導くとは限らない。
- 両利きの経営の探索と深化では異なる評価のポイントが異なる
知の深化 | 知の探索 | |
---|---|---|
組織の構造 | ピラミッド | フラット |
構成人員 | 同質 | 異質 |
場のルール | 阿吽の呼吸、忖度 | 言いたいことが言える(心理的安全) |
重視する価値観 | 秩序、失敗回避、効率、計画、マニュアル、理性、成果思考、過去の経験 | 破壊、失敗の奨励、付加価値、行動、志、感性、学習志向、新しい発想 |
組織の雰囲気 | 静寂、真剣 | ガヤガヤ、笑顔 |
ビジネスサイクル | 計画→実行 | 試行錯誤→改良 |
学習 | シングルループ、垂直学習 | ダブル・トリプルループ、水平学習 |
外部との連携 | 内製主義 | オープンイノベーション |
出所:古野庸一. (2021). 多様な働き方をふまえた評価のあり方. 日本労働研究雑誌.
人事評価の内容
評価次元
- 潜在能力
- 労働意欲
- 発揮能力
- 行動
- 成果
留意点
- 「成果」による評価は、社員自身がコントロールできない要素(景気、市場、社内都合など)に依存するため、必ずしも公平な評価とは言えない。(参考:アウトプット指標)
- 「成果」に焦点を当てすぎると、個人の諦め感の促進や意欲の低下を招く可能性がある。
- テレワークになり「労働状況が見えないなら、成果で評価すれば良い」というのは安易すぎる
人事評価の方法
納得感を高める要因
- テレワークでこそ、上司・部下間の丁寧なコミュニケーションが必要
納得感を高める方法
- 複数の目による評価
- 目的:一人の上司の評価で決定せずに、複数人の評価を組み合わせて、客観性を保つ方法
- 方法1:上司の上位上司と評価を擦り合わせ、上位上司で他グループの評価とすり合わせる方法
- 方法2:同僚評価(ピアレビュー)や多面評価(上司・同僚・部下・顧客・社外関係者)を行う方法
- 仕事以外に対する評価
- 経営提言、表彰制度、資格試験など
- HRテックの利用による評価
- 業績上の評価は平凡だが、業績貢献が大きい縁の下の力持ち的存在を見つけて評価する方法
評価のあり方
- サブツールとしての人事評価
- 人事評価は、目的を達成するための1手段に過ぎない
- 正しい評価の追求は、手段の目的化が始まっている(正しさはほどほどで良い)
- 上司・部下の十分な双方向コミュニケーション
- 評価の納得感に最も影響を及ぼしている
- コミニュケーション頻度の向上は、進捗の法則(Amabile, Creamer, 2017)にもつながる
- 人による評価を補完するHRテック
- テレワークのログ分析により、より正確で納得感の高い評価を実現できるかもしれない
まとめ
個人的には、2011年から2021年の10年間で起きた人事評価に関するトピックは、次の4つかなと思います。
- 主にアメリカでのノーレイティング運動による強制分布割付法の廃止(日本では進まず)
- 人事業務へのテクノロジー活用(HRTech, HRテクノロジー)の台頭
- 両利きの経営の浸透による一元評価の困難化
- 新型コロナウイルス流行によるテレワークの浸透
また、個人的に覚えておくべきだと思ったのは、次の2点でした。
- 人事評価の目的は、評価することではない
- 成果による評価(アウトプット指標による評価)は、決して公平ではない