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価格弾力性と交差価格弾力性の公式と考え方

こんにちは。やまもとです。

商品を販売しようとしたとき、低価格なら買ってくれる人が多く、高価格なら買う人が少ないことは、簡単にイメージできるのではないでしょうか?

しかし、商品によっては、低価格だろうと高価格だろうと、それほど買ってくれる人に変化がないものもあります。例えば、現代家庭に必須の冷蔵庫は、もし1つのブランドしかなければ、少しくらい高くてもみなさん購入するでしょう。しかし、家庭に1台あれば十分なので、安いからといって販売量が劇的に増えるわけではありません。もちろん、誰も購入できなくなるので、高価格すぎると販売量は減るでしょうが…

このように、価格によって販売量が変わる程度のことを価格弾力性と言います。また、価格によって販売量が大きく変わる商品を価格弾力性が高い(弾力的)と言い、逆に価格を変えても販売量がさほど変わらない商品を価格弾力性が低い(非弾力的)と言います。

価格弾力性を知ることは、「どのくらいの価格にすると、どの程度の販売量が見込めるか」を予測する時に役立ちます。価格×販売量=売上高なので、これは売上高を予測することに他なりません。

そこで、今回は、価格弾力性と交差価格弾力性について、勉強していきます。

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Photo by Artem Beliaikin on Pexels.com

価格弾力性とは

価格弾力性は、需要量(販売量)の変化率÷価格の変化率で算出されます。数学に明るければ、これが需要量の価格微分になることは一目瞭然でしょう。そこで、販売量をx、価格をpとし、現在の販売量と価格をそれぞれx_0,\ p_0とすると、価格弾力性\etaは、次のようになります。

\eta = \displaystyle\frac{p_0}{x_0}\frac{{\rm d}x}{{\rm d}p}

ここで、係数p_0/x_0は、販売量変化と価格変化を割合に無次元化し、販売量と価格が線型に比例する場合が価格弾力性が1になるように規格化しています。

価格と需要の変化を曲線で図示した需要曲線を、便宜上直線にして表すとすると、需要曲線と価格弾力性の関係は次のような図になります。

図1:需要曲線と価格弾力性

図からも明らかなように、需要曲線の傾きが価格弾力性です。数学的には、微分値は線の傾きを表すので、当然と言えば当然ですが…

そして、価格弾力性の高低は、価格弾力性の絶対値\left|\eta\right|が1より大きいか小さいかで判断できます。このために、規格化が必要でした。\left|\eta\right|>1の場合は、価格弾力性が高く、弾力的商品と考えられます。逆に、\left|\eta\right|<1の場合は、価格弾力性が低く、非弾力的商品となります。

ただし、図に示したように、一般的な製品・サービスと高級な製品・サービスでは、需要曲線の傾きが真逆になります。

一般的商品・サービスの場合

一般的な商品では、価格が低いほど販売量が増加します。なぜかというと、

  • 高価格で購入できなかった顧客層が、価格が下がることで購入できるようになる(需要化する
  • 代替製品・サービスを利用していた需要を、価格を下げることで引き込むことができる(スイッチする

といった理由が考えられます。

そのため、図(左)では、需要曲線の傾き(=価格弾力性)が負の値となっています。

図(左)のオレンジ線は価格弾力性が高く、価格を下げると販売量が急激に伸びることを表しています。つまり、需要化かスイッチによって、購入者が急激に増えることを意味しています。逆に、緑線は価格弾力性が低く、価格を下げても需要の拡大は期待できないことを示しています。

高級な商品・サービスの場合

ところが、主に高級品では、価格が高いほど販売量が増加することがあります。これは、

  • 品質が容易に判断できず、価格の高いものほど品質が良いと顧客が感じている(品質シグナル
  • 商品自体よりも、その商品を所有するステータス感の獲得が目的になっている(ステータス

といった理由が考えられます。

このような場合、図(右)のように、需要曲線の傾きは正の値になります。

図(右)の黄色線は、価格弾力性が高く、高ければ高いほどよく売れることを示しています。逆に、青線は、価格弾力性が低く、価格が高くなっても、売れ行きは大きく変化しないことを示しています。

季節変動の影響

ところで、上記の需要曲線は、需要の変動に合わせて、時期的な変動を受けることがあります。

例えば、航空業界やホテル業界は、休日に旅行に行く消費者が増えるため、土日や長期休暇に需要が増加します。そのため、航空業界やホテル業界は、需要が高まる休日に合わせて価格を高くするダイナミック・プライシングという手法で価格設定を行なっています。これは、客席数や客室数には限界があり、有限個の商品(客席や客室)を獲得するには、消費者が多少高く支払っても良いと感じるため成立しています。

長期的影響

値下げを行うと、短期的には販売量が増加しますが、同時に顧客の評価を下げてしまい、長期的には不都合な場合があります。

これは、値下げされた商品の価格が消費者にとって当たり前になり、値上げする合理的な理由がなくなってしまうため、需要が飽和してしまうと、結果として総売上高が伸びなくなってしまうためです。そこで、製品の定価を維持しながら、キャンペーンやキャッシュバック、クーポン、ポイント還元などで一時的に実質的な販売価格を下げる方法がとられています。

需要曲線を調べるには

ここまで、需要曲線はあたかも判明しているかのように説明して来ましたが、過去データがない限り、実際には需要曲線はわかりません。実際にある価格で販売することで、需要曲線上のある1点が分かるだけです。

需要曲線を見積もるためには、まずテストマーケティングやキャンペーンで価格を変えて販売量を観測する実験を行い、需要曲線上の2点(できれば3点)を明らかにします。回帰分析などで、観測点が2点あれば直線に、3点あればべき乗関数にフィッティングできるので、曲線で観測点と観測点の間を内挿し、観測点群の外側に外挿することで、需要曲線を得ることができます。需要曲線が明らかになれば、「価格をいくらにすると、どれだけの販売量が見込めるのか」といった予測が可能になります。

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Photo by Andrea Piacquadio on Pexels.com

交差価格弾力性とは

交差価格弾力性は、品目Bの販売量の変化率÷品目Aの価格の変化率で算出されます。交差価格弾力性は、品目Aの価格を下げた場合、品目Bの販売量に及ぼす影響を見るために計算します。価格弾力性の公式では、暗黙のうちに同じ商品の販売量と価格を想定していましたが、交差価格弾力性では異なる商品の販売量と価格に注目しています。

価格弾力性の場合と同様に、品目Bの販売量をx_B、品目Aの価格をp_Aとし、現在の販売量と価格をそれぞれx_{B0},\ p_{A0}とすると、価格弾力性\eta_{AB}は、次のようになります。

\eta_{AB} = \displaystyle\frac{p_{A0}}{x_{B0}}\frac{{\rm d}x_B}{{\rm d}p_A}

そして、交差価格弾力性\eta_{AB}>0のならば品目Aと品目Bは代替関係にあると言い、反対に\eta_{AB}<0のならば品目Aと品目Bは補完関係にあると言います。これを図示すると下記のようになります。

図2:交差価格弾力性

代替関係にある場合

例えば、2種類のカップラーメンAとBを販売していたとして、カップラーメンAの販売量を増やすために値下げをしたとします。すると、確かにカップラーメンAの販売量は伸びたけれども、同時にカップラーメンBの販売量は減少してしまうことが十分想定されます。なぜなら、カップラーメンBを購入していた消費者が、カップラーメンBの代わりにカップラーメンAを購入すると予想されるからです。消費者の一食分の消費量が増えるわけでないため、カップラーメンAを購入すると、おそらくカップラーメンBは購入しないでしょう。

このように、一方の品目の販売量が伸びると、他方の品目の販売量が減少する場合、品目Aと品目Bは代替関係にあることになります。特に、上の例のように、品目Bから品目Aにスイッチしただけの場合、共食い現象カニバリゼーション)と呼びます。

上図(左)では、品目Aの値下げに対して、品目Bの販売量減少が起こっており、代替関係を表しています。

補完関係にある場合

例えば、PCを購入する時は、WindowsなどのOSを購入しなければならないような場合、PCの価格を下げて販売量が増えると、OSの販売量も増えると考えられます。他にも、プリンターとインクカートリッジの関係や、そばとめんつゆの関係、自動車とメンテナンスサービスの関係、住宅と火災保険の関係なども同様です。

このように、一方の品目の販売量が伸びると、他方の品目の販売量も伸びる場合、品目Aと品目Bは補完関係にあると言います。

補完関係にある品目Aと品目Bを自社で提供できる場合は、あえて品目A(例えばプリンター)の価格を低めに設定し、品目B(例えばインクカートリッジ)の方を高めに設定することで、全体的な収益を確保するといった方法(キャプティブ価格設定)も可能になります。

もし、製品AとサービスBが補完関係にあるならば、製品Aを購入した顧客に対して継続的にサービスBを提供することで、長期的な顧客一人当たりの収益(LTV:ライフ・タイム・バリュー)を増加させることができます。関係性マーケティングは、この補完関係に焦点を当てたマーケティング戦略になっています。

フレーミング効果

スターバックスなどのカフェに行き、コーヒーを注文するとき、Tall / Regular / Smallなどのカップサイズを選びます。もちろん、ほとんど場合、カップサイズの違いは代替関係にあります。Tallを買ったからRegularも買う、という購入の仕方は考えにくいです。

このとき、もしもTallサイズとRegularサイズの値段が近いと、「Tallサイズの方がお得かな」と考えてTallサイズを購入する顧客が増えることが予想されます。ここで、もしTallサイズの値段を大きく値上げすると、顧客は「Regularサイズの方がお得かな」と考えてRegularサイズの販売量が増えるでしょう。

Tall / Regular / Smallのような構造をフレームと言い、消費者の中にフレームが構築されていると、価格差の見せ方によって販売量が変わってくる現象をフレーミング効果といいます。

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Photo by Lukas on Pexels.com

まとめ

製品やサービスの価格と販売量の関係性である価格弾力性と交差価格弾力性について学びました。まとめると、次のようになります。

  • 価格弾力性とは販売量の価格微分で、同じ品目の場合を価格弾力性と言い、異なる品目の場合を交差価格弾力性と言います。
  • 価格弾力性の絶対値が、1より大きい場合を弾力的と言い、1より小さい場合を非弾力的と言います。
  • 交差価格弾力性が、0より大きい場合は2品目は代替関係にあり、0より小さい場合は補完関係にあります。
  • 代替関係にある品目は、共食い現象(カニバリゼーション)を起こしている可能性があります。

結果として、このような価格と販売量の関係が分かると、売り上げ予測が立てやすくなるというメリットがあります。

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