こんにちは。やまもとです。
三品和広著「経営戦略の実戦2ー企業成長の仕込み方ー」がついに出版されていました。すでに、1巻と3巻は発売されていて、今回の2巻でシリーズ完結となるそうです。
このシリーズは、膨大なビジネスケースから帰納法によって経営の原理原則を導出する研究書です。ビジネス書のような読みやすさは無いかもしれません。しかし、研究として理路整然としていて、導出された結論はとても信頼できます。
第2巻は読み始めたばかりですが、復習を兼ねて第1巻「経営戦略の実戦1ー高収益への正攻法ー」をざっくり整理しておきたいと思います。
分析対象
ビジネスケース
- 母集団:1805社
- 成功ケース:151社
- 失敗ケース:176社
分析方法
戦略七面体
- 立地:当該事業の「売り物」と「売り先」、「狭義」と「広義」の競合(→ターゲット、ポジショニング)
- 構え:売り物の「入手ルート」と売り先への「引き渡しルート」(→サプライチェーン、バリューチェーン、チャネル)
- 時機:遅発、後発、先発の別、および時機(三品、2009年)
- 源泉:顧客が買うバリュー・プロポジション(Naplan&Norton、2004年)
- 防壁:参入障壁の性質(Porter、1980年)
- 支柱:均整(三品、2006年)
- 選択:戦略の「いつ」と「どこ」と「なに」、「バカな」(吉原、1988年)
高収益事業の戦略パターン
成熟市場
成熟市場におけるイノベーション(製品・技術)や組織能力(QCD・管理)の改善による成功は、人・運・業種(精密機器と化学)に強く依存しており、高収益事業が生まれた例は無いに等しい。高収益事業を生み出すには、製品や管理ではなく、下記に注力する必要がある。
- 生産革命:既存の売り物を根底からつくりかえる
- スタンダーダイゼーション(規格工業化によるオペレーションの近代化)
- マスカスタマイゼーション(大量生産と顧客個別対応の両立)
- タブーへの挑戦(悪しき慣行の破壊)
- 市場革命:既存の売り先とは異なる売り先を開拓する
- 本場への参入(国内の同質競争を回避し、本場で異質能力を活かす)
- 新地への進出(川下の比較優位シフトに先行して、アジアへ進出する)
- 流通革命:売り方を大きく変える
- 時短指向(高価格のまま、いつでもどこでも購入可能にする)
成長市場
成長市場の高収益事業は少ないため、実は後追いせずに市場が成熟するのを待ってから仕掛けた方が勝ちやすい。後追いで逆転するには、圧倒的な製品力(パフォーマンス、コスト)が必要で、その実現には「異才の人」が必要である。異才の人とは、技術開発に没頭できる人物のこと。後追い参入は想像以上に難しく、高収益事業になる期待はほぼできない。
- 隣接製品開拓:売り物の滲み出しを図る(後発優位性を活かす)
- 技術転用(同じ技術を他用途の製品に利用する)
- 販路応用(同じ販路を他商品の販路に利用する)
- 隣接市場開拓:売り先を他社の逆方向にとってみる(先発企業が諦めた市場を狙う)
- そっぽ指向(先発企業の逆をつき「小さな池の大きな魚」になって独占を目指す)
- 川下開拓:事業を川下へシフトする(川上は不毛の地、単純な垂直統合は罠)
- 市場育成(本業の川下に市場を作り上げていく)
揺籃市場
先行者優位性が圧倒的である。先行者とは「もっとも早く仕掛けた者」であり、「早く動いた者ほど」という意味ではない。優位とは「収益率」のことで、「占有率」や「成長率」のことではない。基本的に「小さな池の大きな魚」を目指すとよく、「小さな池(立地)」は顧客から感謝に次ぐ感謝を受ける可能性を判断基準にするとよい。高収益事業は、立地の戦略が大部分であり、構えの戦略はわずかしかない。言い換えると、高収益事業を目指すなら立地の戦略を採用すべきである。
立地の戦略
- 窮地救援:顧客のバリアビリティを吸収する
- セキュリティの提供(高価なものを保護し、検知・警告・防止のどれかを提供する)
- 請負サービスの提供(猫の手を貸す。人員派遣・業務受託で負荷を請け負う)
- プレスクリプションの提供(顧客の問題を分析して処方箋を提供、それを束ねる)
- 顧客貢献:顧客を儲けさせる
- 工数削減策の提供(汎用性がある自動機械・基幹部材・機能部品などを提供する)
- 開発支援策の提供(顧客製品の基幹材料か基幹部品を提供する)
- 管理支援策の提供(手間暇のかかるローテクな管理業務をやりやすくする)
- 廃品延命:顧客にとって入手困難なものを供給する
- バンドル(廃製品の消耗材を供給し続ける)
- 旧技術(新技術で廃れた旧技術を供給し続ける)
- 知見活用:川上の強みが活きるものを供給する
- セラミック原料の川下勝負(蓄積された元素の知見で様々な製品を顧客に提供する)
- 合繊原料の川下勝負(希少な負け組の合成繊維の知見でそっぽ戦略をとる)
- 金属材料の川下勝負(希少な傍流の金属材料の知見でそっぽ戦略をとる)
- 廃鉱活用/ニッチ材料(斜陽産業の余剰資源を転用する)
- 専門特化:細かな違いに気づく顧客だけを相手にする
- プロフェッショナル(個人技量に依存する医師、税理士、会計士の仕事を助ける)
- 企業内専門家(研究者やIT専門職などの時間を節約してあげる)
- 半導体メーカー(熾烈な競争に曝され、あらゆる領域で専門家とかした半導体メーカーを助ける)
- 無知特化:手取り足取りを要する顧客だけを相手にする(忘れてさせてあげる価値)
- 別世界プロフェッショナル(別世界にいて無関心な人を本業に専心させてあげる)
- パッサー・パイ(一過的必要に迫られ、初めて問題に直面した人を導いてあげる)
構えの戦略
- 上下均整:バリューチェーンを整流化する
- 事業システム(事業周辺の協力者を巻き込む仕組みを整える)
- 一気通貫(川上から川下まで自社グループの統制下に置く)
立地や構えに依らない古典的戦略
- 参入障壁:初動で他社の機先を制する
- 経験曲線(いち早く初めて、生産コストを下げる)
- 特許網(特許クラスターで先発の利を守る。特許ポートフォリオを組む)
- 製品力(その他に相当する)
高収益事業を創るには?
「経営戦略の実戦1ー高収益への正攻法ー」では、高収益事業の条件を次の5つの命題にまとめています。
- 売上高営業利益率は事業の立地で決まる
- 立地を規模感や成長性で選んではいけない
- 立地はミッションクリティカルであることが望ましい
- 立地はアンアトラクティブであるほうがよい
- 立地を選ぶ人物の時機読解能力が最後の決め手となる
明らかに、事業立地が重視されているのは、成功ケース151例のうち105例の勝因が事業の立地そのものにあったためです。残りの46例のうち28例は、経営者や技術者の個人の技量や特需に勝因があるもので、再現性がありません。
また、「企業立地」は「事業立地」と等しいわけではありません。企業が規模や成長を求めても、事業は規模や成長ではなく収益率に基づいて立地を選択する必要があります。企業成長は、高収益事業数を増やすことで実現すればよいのです。事業立地選択の基本指針は「小さな池の大きな魚になる」です。
良い事業立地の条件の1つは、顧客の命運を左右するような「必要不可欠さ」です。そのためには、顧客にとって必要不可欠な製品やサービスを探すか(入口変更)、現有製品やサービスが必要不可欠な顧客を探すか(出口変更)の2つの手段があります。しかし、製品やサービスを作るのは時間がかかるため、多くの場合、出口を変更する方が効果的です。
良い事業立地のもう1つの条件は、競合が自発的に参入する気を無くす「競合の自縛」現象です。これが、最強の参入障壁になります。競合の参入意欲が無くなるのは「市場が小さすぎる」とか「見返りよりもリスクが大きすぎる」といった理由のためです。逆説的に、高収益の立地を引き当てるには、誰もが敬遠するような立地を見つけることが重要になります。
しかし、反対意見が続出するため、このような立地は合議ではまず見つかりません。このような立地に可能性を見出し、欠点を克服する方法を構想する力は、残念ながら選ばれた人にしか宿りません。実際、成功ケースの70%は創業経営者や同族経営者です。これは、創業経営者や同族経営者は立地を考え抜いた経験によって構想力が養われている可能性があります。社員経営者は、立地が定まってから入社していることが多いため、事例が少ないのかもしれません。
まとめ
高収益事業を創る正攻法は、「小さな池の大きな魚」になれる立地を選択することでした。
良い事業立地は、「競合にとって非魅力的」かつ「顧客にとって必要不可欠」な立地でした。
規模が大きい市場や成長著しい市場は、競合にとっても魅力的なので選んではいけません。
必要不可欠さは、顧客の感謝の強さを判断基準にすると良いでしょう。