ブルーオーシャンの見つけ方

前回、研究のためのラーニング戦略の出発地点は、希少性を基準に選択すると良さそうでした。しかし、そうすると、出発地点の良し悪しを考えるには、希少性の良し悪しを考えねばなりません。では、良い希少性とはどのようなものでしょうか?簡単に言えば、良い稀少性とはブルーオーシャンを見つけることに相当すると思います。

今回は、吉原英樹著『「バカな」と「なるほど」』と濱口秀司氏の「ブレイク・ザ・バイアス理論」を参考に考えていきたいと思います。

参考
「バカな」と「なるほど」

※この記事は、以前、noteに書いたものです。

希少性は証明できない

希少性が高いかどうかを確かめるために、「誰も取り組んでいないこと」を検証するのは時間の無駄です。これは、「存在しないことを証明する」問題、いわゆる「悪魔の証明」問題になっています。証明するには、世界中の全ての情報を集め、存在しないことを確かめなければならず、現実的には不可能です。経済学の合理的経済人の仮定が、現実には不可能なことと似ています。

「バカな」と「なるほど」

そこで、考え方を変えて、「誰も取り組もうと思わない」テーマを見つけ出すことにします。誰も取り組もうと思わないので、そのテーマは希少性が高くなる可能性があります。吉原英樹氏によれば、これは「バカな」テーマを見つけることに相当します。「バカな」戦略については、著書『「バカな」と「なるほど」』で下記のように説明されています。

 三社の経営戦略のケースは、成功する戦略には二つの条件がなければならないことを教えている。差別性合理性である。
差別性とは、多くの企業がとっている常識的な戦略とちがう戦略、つまり非常識な戦略である。平たくいえば、「バカな」といわれれるくらい他社とちがう戦略である。
 もう一つの条件は、合理性である。よく考えられていること、理屈に会うこと、論理的であることである。平たくいえば、「なるほど」と納得できることである。
 戦略の二大条件の差別性と合理性のうち、強いていえば、差別性の方が重要である。合理性ほうを重視すると、平凡な、常識的な戦略になりやすいからである。(中略)
戦略の差別性は、考えてみると、二通りのものがある。一つは、「たいしたものだ」「さすがだ」「あれはいい」などといわれる差別性である。他社から尊敬され、高く評価される差別性である。
 いま一つは、(中略)バカよばわりされる差別性である。他社から軽蔑される差別性である。
(中略)
みんなが尊敬し、あこがれる差別性の場合、競争会社はすぐにその戦略を模倣する。(中略)差別的な戦略によって他社に差をつけるつもりでいても、他社がそうさせないのである。(中略)
 これにたいして「バカな」戦略の場合、模倣がおくれやすい。競争会社は「バカな」「あんなことをしたらおしまいだ」などと思っているから、じっと見ている。その間、「バカな」戦略の企業は、足元を固め、創業者利潤を享受できる。やがてそのうちに、他社がその「バカな」戦略の成功に気づく。しかし、どう考えてもおかしいということで、なかなか模倣しようとしない。戦略の成功が明々白々の状態になり、その戦略の有効性を否定しようにも否定できなくなってはじめて、競争会社のマネが始まるのである。

吉原英樹著『「バカな」と「なるほど」』(2014)

上記の「戦略」を「研究」や「新事業」に読みかえても、同じ論理が成立すると思います。また、差別性は希少性と読み換えても意味は同じでしょう。

ここで重要なのは、「バカな」戦略は、競合他社はなかなか模倣しようとしないという点です。希少性は模倣されると減少していくので、「バカな」戦略は希少性が持続することになります。このため、「バカな」は良い希少性の条件の1つと考えられます。

「バカな」を見つける

「バカな」の見つける方法は、濱口秀司氏の「ブレイク・ザ・バイアス」理論が参考になります。この理論の一部は、論理的に「バカな」を発見する方法になっていて、個人的に衝撃を受けました。しかし、たくさんある取材記事の中から該当記事が見つけられません。そのため、大変恐縮ですが、参考文献はありません。

濱口氏は、この理論の中で、議論をシンプル化するために2x2の二次元マトリクス、あるいは2次元平面で表現することを推奨しています。これは、人間が理解できた思うには2次元が限界だという理由です。

そこで、以降では、例として品質と価格の2次元平面を考えてみます。

通常、品質と価格は、品質が高いものほど価格が高いと考えられています。これを2次元平面で表現すると、下記のようになります。

バカなの見つけ方1

ここで、バイアスラインと書いた線は、品質が高いと価格が高いという常識を表しています。さて、みなさんは、イノベーションを起こすとしたら、上記の赤の領域と青の領域のどちらを選択するでしょうか?

自分は、赤い領域だと思っていました。

赤い領域は、高品質低価格を表しており、誰もが欲しいと思う領域です。誰もが欲しいと思うので、マーケティング調査をすれば、多くの人が「いいね」と答え、ニーズとして浮かび上がると推測できます。

しかし、赤い領域は、吉原英樹氏のいうところの「みんなが尊敬し、あこがれる差別性」に相当します。すなわち、みんなが「良い」と思うが故に、すぐに競合他社が模倣を始めてしまいます。そのため、赤い領域の差別性は長続きせず、すぐにレッドオーシャン化することになります。もし、こちらを選んだとすると、最初こそ差別性(希少性)がありますが、一時的な差別性(希少性)で終わってしまいます。

実は、青い領域がイノベーションの領域です。

青い領域は、低品質高価格を表しており、普通は誰も欲しいと思わない領域です。しかし、イノベーションの鬼といわれる濱口氏は、イノベーションを起こしたいなら青い領域の方を選ぶべきだと言います。誰も取り組まない領域で強制発想し、バイアスを壊し、新しい解を発見するとイノベーションになる可能性があるからです。

そして、この青い領域が、吉原英樹氏のいうところの「他社から軽蔑される差別性」に相当します。すなわち、どう考えても上手くいくとは思えないため、明らかに成功しているとわかるまで、競合他社は様子見をします。そのため、青い領域には、長期間にわたって競合が存在しないブルーオーシャンが出現します。これにより、差別性(希少性)は持続することになり、先行者利益を享受することができます。

つまり、青い領域は、「バカな」かつ良い希少性の持った領域になります。

これをまとめると、下図のようになります。

バカなの見つけ方2

模倣困難性の点からは、「自主的にこの領域に踏み込むのを思い止まってしまう」という、論理の自縛を構築したことにもなります。

以上から分かるのは、①バイアスラインとそれを表現する2軸を見つける②バイアスラインから外れた軽蔑される領域を選択する、という手順を辿ると非常識で「バカな」テーマが見つかります。

参考
 SHIFT:イノベーションの作法

「なるほど」を見つける

ブレイク・ザ・バイアス理論による上述の考え方によって、持続的な差別性(希少性)を持つテーマは見つかります。しかし、この領域は、社内の誰もが納得しない領域なので、このままでは誰も説得できず社内の承認も下りません。説得するには、第3軸を用意する必要があります

例えば、上で使用した品質と価格の関係で言うと、第3軸として時間の観点を入れることができます。時間の観点を入れると、商品を販売するだけではなく、商品は低品質だが高頻度に取り替えてくれる高価格なサービスといったことも考えることができます。身の回りにも、「すぐに取り換えてくれるなら多少高くても構わない」と思うサービスがあるのではないでしょうか。

この第3軸による説明が「なるほど」に相当します。すなわち、2次元では「バカな」、3次元では「なるほど」となるわけです。これは、ブルーオーシャン戦略のフレームワークの一つである戦略キャンパスで、競合他社が持たない新たな価値の軸を付け足すこととよく符合しています。

参考
 [新版]ブルー・オーシャン戦略

良い希少性の見つけ方

以上をまとめると、良い希少性を見つけるためには、下記の順序で考えると良いのではないでしょうか。

  1. バイアスライン(常識)を見つける
  2. バイアスラインを表す2軸を見つけ、バイアスラインを2次元図で表す
  3. 2次元図の中から、ほとんどの人が賛同しない「バカな」領域を見つける
  4. 「バカな」に合理性を持たせる第3軸を見つけ、「なるほど」と思わせる

まとめ

結局、ブルーオーシャンになるような良い稀少性は、誰もが「いいよね」という思うことの逆をつく必要があるということですね。しかし、人間は多くのバイアスに囚われているので、バイアスの逆を考えるのは簡単なことではありません。そこで、バイアスを2次元で図示することで、誰もが「バカな」と思う領域について強制発想できるようにする必要があるようです。

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