この記事は、以前、noteに書いた記事で、企業における研究部門のマネジメントについて考えた一連の記事からの抜粋です。
今回は、自分が研究者でもあるため、企業戦略における研究戦略の役割について考えていきたいと思います。
企業戦略
大学の研究は論文にできれば良いのに対して、企業での研究はビジネスにならなければいけません。企業の戦略と適合した研究でないと研究予算がもらえないためです。そこで、企業全体の戦略を確認してみます。そのために、プロダクト・ポートフォリオ・マトリックスで考えてみます。
問題児(question mark)
「問題児」の商品は、市場占有率が低く、市場成長率が高い商品です。市場成長率が高いため、市場占有率を高めるべく、成長戦略を描く必要があります。
成長戦略としては、(1)先行する商品を模倣し、低価格で提供する模倣戦略や、(2)より広い多くの顧客が対象となるようにラインナップを充実化する戦略、(3)品質の高度化や機能の充実化で、他社よりも付加価値をつける戦略、あるいは(4)競合商品を買収し、市場占有率を高めていく戦略、などが考えられます。
花形(star)
「花形」の商品は、市場占有率が高く、市場成長率が高い商品です。市場は成長中ですが、いずれ訪れる需要の飽和に備えて、競合他社にどう打ち勝っていくかを考える競争戦略が必要になります。
競争戦略としては、(1)規模を利用してコストを下げていくコストリーダーシップ戦略や、(2)競合他社との違いを明確にする差別化戦略、(3)ブランド価値による差別化を測っていくブランド戦略、(4)競合他社の価値を落とすようなプロモーション戦略、(5)別の市場へ進出していく多角化戦略、などが考えられます。
金の成る木(cash cow)
「金の成る木」の商品は、市場占有率が高く、市場成長率が低い商品です。市場成長率の鈍化に伴い、多くの競合他社が市場から離脱しているため、うまくいけば独占に近い状態になっています。独占なので、最も利益が多くなっています。
しかし、市場はいづれ衰退期に突入するため、市場全体の規模が縮小し、利益率は減少していくことになります。もし、市場占有率が下がってくるようだと、この商品を残すのか捨てるのかといった選択と集中が必要になってきます。
負け犬(dog)
「負け犬」の商品は、市場占有率が低く、市場成長率が低い商品です。市場成長率が低い成熟期から衰退期に、市場占有率が低いので、主に撤退戦略を考えることになります。撤退戦略としては、他者への売却などが考えられます。
ただし、もう一つの方法は、持続的なイノベーションを起こす方法が考えられます。これは、テクノロジー分野でよく起きている流れです。例えば、円盤型の記録メディアであればDVDからBDに規格が変わることによって、液晶テレビであればHDから4Kに規格が変わることによって、市場成長率が再び高くなる事があります。
研究戦略の役割
上記に対して、研究が関わる部分は、問題児を作る部分に相当するように思います。
上図のイノベーション戦略は、持続的イノベーション(「イノベーションのジレンマ」クリステンセン著)を指しています。テクノロジー分野で言えば、次世代規格の研究などが相当します。例えば、通信規格5Gの導入が始まっていますが、この規格の研究は何年も前から行われていたりします。
上図における研究戦略は、新しい市場を作り出すような場合です。最近のテクノロジー分野で言えば、量子コンピュータが相当するでしょうか。試作機の発表から、15年程度経っていますが、近年注目を集めており、いよいよ市場が立ち上がろうとしています。
両方に共通しているのは、「問題児」が戦略の目標になっていることです。既存市場を刷新する場合であれ、新規市場を立ち上げる場合であれ、研究は市場成長率が高くなるであろう将来市場に取り組む必要があることを示しています。
ただし、イノベーション戦略と研究戦略では、将来市場の予測しやすさにおいて違いがあります。イノベーション戦略では、既存市場を参考にすることで、次世代規格などの将来市場をある程度予測できます。しかし、研究戦略では、既存市場が存在しないため、将来市場の予測は困難を極めることになることでしょう。
まとめ
研究が関わる戦略(上記のイノベーション戦略と研究戦略)の目的は、将来の「問題児」を作ることのようです。ただし、イノベーション戦略は比較的予測がしやすいのに対し、将来をゼロから予測しなければならない研究戦略は予測が難しいですね。