こんにちは、やまもとです。
創造性について、Runco教授がまとめた書籍「Creativity」を学習しつつ内容をまとめています。
創造性のプロセスについては、こちらの記事でも書きましたが、Wallas(1926)の4ステージモデルが有名です。
- 準備:Preparation
- 孵化:Incubation
- 照射:Illumination
- 検証:Verification
Wallas自身は5ステージモデルを提唱しましたが、後にもともと第3ステージだったIntimationは第2ステージに含まれるとされました。
「準備(Preparation)」とは、問題の特定や問題の定義、および情報収集が行われる段階です。「検証(Verification)」は、創造的な人(例えば、アーティスト)が、試したり、いじったりしている段階のことです。独創性と実効性が必要な創造性にとって、検証は極めて重要な意味を持ちます。また、最近の研究では、新たに第5ステージとして「再帰(recursion)」が含まれるという案もあります。
しかし、創造性のプロセスで最も特徴的なのは、「孵化(Incubation)」と「照射(Illumination)」のステージです。
今回は、「孵化」ステージと「照射」ステージを見ていきたいと思います。
目次
孵化ステージ(Incubation)
第2ステージの「孵化」は、創造性のプロセスの研究において、多くの研究者が必要と考える段階です。(Rothenberg 1990; Smith & Amner 1997Rothenberg 1990; Smith & Amner 1997)
孵化ステージは、思考が無意識のうちに進む段階で、通常は「意識に検閲されずに連想プロセスが働くため、独創的な発想を行うことができる」というように説明されます。
例えば、Guilford(1979)は、次のように述べています。
私自身の仮説は、一見すると不活発な潜伏期間中の実際の進歩を説明することを目的としている。この種の進歩は、情報の変換によるものだと考えています。
利点
Smith & Dodds(1999)が、インキュベーション(孵化)を次のように定義し、その利点をまとめています。
インキュベーションの定義
創造的問題解決の段階で、問題に対する初期作業の後、問題を一時的に脇に置いておくこと
インキュベーションの利点
- インキュベーションの間は、意識的思考が途切れ途切れに行われます。
- インキュベーションでは、意識的思考によって生じた疲労を回復することができます。
- 意識的な制約から解き放たれ、問題解決や思考の妨げがなくなります。
- 遠く離れた2つの事柄の連想も、より簡単に見つけられるようになります。
- インキュベーションの間、個人では、偶発的なヒントやデータを見つけて取り込みます。
- 意識がリラックスまたは何かに集中し、連想が、より幅広く、より広範囲に広がっていきます。
照射ステージ(Illumination)
イルミネーション(照射)は、別名インサイト(洞察)とも呼ばれ、あるいは「アハ」体験としても知られています(Gruber 1981, 1988)。
インサイトとは、断片的な情報が、突然、一貫した構造になることです。例えば、次の例を見てみましょう。
インサイト問題の例
砂漠を歩く2人の男が、砂の上に倒れて死んでいる3人目の男を発見する。
死んでいる男は、食料と水が入った小さな荷物と、大きな荷物を背負い、人差し指には大きな指輪がはめられていた。
死因がわからないまま、2人は先へ進む。
後日、一人の男性が眉間を拭いていた時にハンカチを落としてしまい、それが地上に舞い降りた時に、男性の死因が「パラシュートが壊れて地上に落下した」ことであることにふと気づく。
Schilling, 2005
この例では、「荷物」「食料」「水」「大きな指輪」「死んだ男」などが断片的な情報です。そこから、「なぜ食料も水もあるのに死んでいるのか?」という謎がありました。後日、「大きな荷物にはパラシュートが入っており、指輪はその引き紐を引くためのものだった」と情報が構造化され、謎が解かれました。この最後の構造化がインサイトに当たります。
このように、洞察は創造的な問題解決の方法の一つです。しかし、創造的な問題解決方には、発散的思考もありました。
洞察と発散的思考の違い
洞察と発散的思考の最大の違いは、発散的思考が多くの解決策を提示するのに対して、洞察は1つの解決策のみが頭に浮かぶということです。
言い換えると、発散的思考が玉石混合のアイデアを机に並べて吟味するのに対して、洞察的思考は玉となるアイデアだけを吟味することに相当します。
個人的には、デザインは発散的思考で、サイエンスは洞察的思考で考えられているように思います。
洞察と試行錯誤の違い
洞察や発散的思考と同様に、試行錯誤も創造的なプロセスと考えられています。
試行錯誤は、段階的に問題を解決していくことであり、間違いを犯してもそれを修正しながら、解決に向けて小さな一歩を踏み出していくものです。
これに対して、洞察は、突然、光が差し込むような感じで、「一見」非連続的なプロセスのように見えます。
洞察の無意識プロセス
洞察が突然に感じられるのは、洞察に至るまでの処理が無意識のうちに行われているため、と考えられています(Bowers et al. 1995; Runco 2006)。つまり、意識下のプロセスでは非連続ですが、無意識下のプロセスも含めると、洞察も連続的な情報処理であろうと考えられています。Bowersらは、推測と回答の間に意味上の類似性を見出しており、意味上のレベルでは連続性があると考えています。
私たちは、意識的に思考をすると、どうしても現実的な制約条件や経験則に基づく合理性に思考が制約されてしまいます。しかし、無意識であれば、このような制約条件や合理性から解き放たれ、これまでになく経験したこともない合理性に基づいて評価できるようになります。
Schilling (2005)は、洞察を「異質な心的表現間の予期せぬ結びつき」と定義し、洞察の説明を5つに分類、それぞれに何らかの無意識のプロセスが関与していることを明らかにしました。そして、洞察は次のような状況で起きうることを示しています。
- スキーマが完成する
- 視覚情報が再編成される
- メンタルブロックが克服される
- 問題を解決する方法を見つけた
- 情報がランダムに組み直される
まとめ
上記をまとめると次のようになります。
- 創造性のプロセス:①準備、②孵化、③照射、④検証
- インキュベーション(孵化)とは、無意識に処理が進む連想プロセス
- イルミネーション(照射)とは、突然、断片的情報が一貫した構造になる洞察
- 洞察は、発散的思考や試行錯誤とは異なる創造的思考法
現在、デザイン思考はイノベーションのための考え方・取り組み方として広まっています。しかし、デザイン思考は発散的思考とプロトタイピングによる試行錯誤を行うため、Wallasの創造性プロセスとは異なります。ということは、創造的なビジネスを生み出すには、別の方法もあるということです。
一方で、サイエンス分野では、Wallasの創造性プロセスはよく行われていると思います。研究者は、理論を学んだり、データを分析した時、「1日置いてみる」ということをよくします。これは、「分析結果は、今日は良さそうに見えるが、明日見ると全く違うかもしれない」とか「理論が難しくて、今日は煮詰まっているが、1日置くとスッキリと見えることがある」ということを経験的に知っているからです。これは、正しく②孵化と③照射の段階を意識的に使っていることになるのではないでしょうか。